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* * *
ビ「助かったです〜……。」
戦闘後、助け出したビスカスが安堵の声を漏らした。
桃「もう……どうして離れたりなんかしたの?心配したのよ?」
ビ「魔物に流されたんですよう……。おまえはこっちだーって。もー、ボク魔物じゃないんですけどねー……」
困った様子で眉(……触覚?傷?)を下げるビスカス。
ああ、そういえばお前魔物っていうよりは人っぽさがあるもんな……。
何かの本で読んだ……確か、「もんすたーず」とかいう枠組みだったか。
昔彼(彼女?)と他の奴が話してるのを横聞きした話によれば、彼の故郷には彼のようなのがたくさんいるし、「ビスカス」というその種族以外にも、その「もんすたーず」というものは各地、ひいては各世界に存在するらしい。
ただ基本的にそういう輩は稀少らしく、あまり人と交流を持っていない奴らも存在するとか。
一度、「人なのか?」と訊いてみたことがあるが、「ビスカスはビスカスという種族なのですよう」というなんともほわっとした返答をもらった。
性別について訊いた時も、「ビスカスはビスカスという性別なのですよう」と言われたので、俺の中では、まったくもって謎の尽きない生物という認識になっている。
まあ、ざっくりいえばよくわからない生物であり、彼自身の言葉で表すのなら、「魔物ではなく、ビスカス目ビスカス科」という一つの種なのだろう。
奴等は恐らく、それ以外のどの生物分類にも属さない。
話を変えよう。
……それにしても、さっきの戦闘は正直予想外だった……。
まさか自爆するなんて……。ここに来る前に装備を揃えておいて正解だったな……。
確かに家が吹き飛ぶほどとかそういう爆発ではなく、手榴弾程度の爆発だったが、それでもまともに食らってたら、破片を喰らってきっとお陀仏だっただろう。
勿論、桃花の使った、岩壁を形成する魔術も、本当に助かった。
しかしやはり少し狭かったらしく、砕け散った銅の破片が頬を掠めていった。
静まった後に術を解いた時、俺だけ顔に傷がついていた。
桃花が凄い勢いで慌てて回復魔術を掛けてくれたが、大した傷でもないし、そんなに慌てなくてもいいのにな……。
炎「ねぇねぇ……この霧どっから来てるんだろう?」
ひーとが唐突に疑問を口にした。
……それは俺も気になっていたことだな。
桃「それがよくわからないの……。いきなり出てきたから……。」
……霧の漂い方的に、渡り廊下の向こうから流れてきてる感じがするんだが……。
そういえば渡り廊下とその向こう側は障子で仕切られていて、よく見ることはできなかったな……。
雨「……桃花、渡り廊下の向こうには何がある?」
桃「中庭と池と……、古い祠よ。」
古い祠?
この街に長く住んできて、そんな話今まで聞いたこともなかったが……一体何の祠だ?
桃「……ずっと昔に私の家が守護を任されて、ずっと秘匿にされてきたのよ……父様の話では、この地の邪(よこしま)が封じられているらしいけれど……、……!」
……どうやら何かに気付いたらしい。
そして彼女は真っ青になり、速足で稽古場を出ていく。
慌ててあとを追うビスカス。
雨「……どうする。」
一応訊いてみる。
まぁ、答えは決まってるんだろうけど。
氷「……追いましょう。」
……だろうな。
あいすに賛同し、今にも愚図り出しそうなひーとを引き摺って、桃花を追った。
* * *
桃「…!!」
桃花が驚愕して立ち止まる。
視線の方へ目をやると、祠らしき物の前に、黒い影が渦巻いていた。
だがそれはやがて、段々と小さくなり、空へと消えていったが。
また速足で、桃花が祠へ近付き、調べる。
桃「お札が……、焼き切れてる……。」
彼女の暗い声が響いた。
封印の祠は、楕円形の石造りで扉もまた石で楕円形、その扉には焼ききれたお札が、半分だけ残った状態になっている。
扉の奥に何もないことが確認できる限り、封印されていた物はもうここには無いだろう。
氷「……まるで……封じていた力が封印されていた力に押し負けてしまったようね……。」
あいすも祠の周辺を隅々まで調べ、仮定を述べた。
……邪とやらが封印の力を上回った……と考えるのが自然か?
邪が何かはわからないが、それが悪いものだと言うことはなんとなくわかる。
というのも、あの渦は……なんとも不味い気配がしたからだ。
何が不味いのかと言うのは、細かく説明するには難しいが……、触れてはいけないと本能が言っている気がする。
いわゆる霊感的な要素なのか、俺以外は何も感じていないようだが……。
桃「どうしよう……。」
桃花は頭を抱えていた。
……当たり前か……。
解けた現場にいた訳だし…なおかつそこに住んでいるんだから。
氷「桃花ちゃんのせいじゃないでしょう?御札が焼ききれるなんて相当だもの。封印の力が弱まっていたに違いないわ。」
あいすが励ますが、桃花は尚も頭を抱えたまま返す。
桃「でも、あの霧の所為で、祟りが起きたりでもしたら……!」
雨「あるわけないだろんなもん。どこぞのホラーゲームじゃあるまいし。祟りとかそんなことが起きるとしたなら、まず先に、この街に何かが起こってるはずだ。」
確かに魔物は居たが、祟りとか特有の怪現象は起きてなかった。
祟りが起きたりするなら、桃花が連絡してきた辺りで街がおかしなことになっていてもおかしくはない。
そもそも、そんなことになっていたなら、この街の傍にある寺の友人から連絡が入るはずだ。
彼からは何も連絡がない上、この家の霧も早々に晴れているわけだから、そんなホラー展開になる心配はない。
桃「そ、そうよね、大丈夫よね……!」
自分に言い聞かせるように言い、彼女は立ち上がった。
不安を払拭しきれた感じはしないが……何とか立ち直ってくれたようだ。
…というか、この街がそんなホラーな展開になったら俺としても割と困る。
桃花の落ち着いた表情を見てから安堵して、ふとひーとの方を見やると、ぼんやりと明後日の方向を向いていた。
何やら考え事をしている様子だ。
雨「……どうした?」
炎「えっ、うん、冷音……大丈夫かなぁって。」
冷音と言うのは、ひーとが親友と慕っている少年のことで、俺達の従兄弟に当たる。
ひーとは明後日の方向では無く、その冷音の家の方向を見つめていたようだ。
炎「ボク、時雨の家の地下室に行く前に、魔物に襲われたんだよ…。だから、冷音ちにも行ってないか心配なんだ……。ちょっと覗きに行ってみようかなぁ。」
なるほど、うちの地下にいた経緯はそういうことだったのか。
……まぁ……うちにも来たしな……魔物……。
だがこの街は意外と強い奴が多いから、魔物が入るなんてかなり稀だ。
……そうなると、そのひーとを襲った魔物は本当にどこから入ったんだ…?
うちに入って来た魔物も然りだが。
氷「なら行ってみましょうか?冷音のところ。」
あれやこれや考えを巡らせていると、あいすが微笑みながら言った。
ひーと一人で行かせるよりは、俺達も行った方が大分安全だろう。
雨「そうだな、心配だし、行ってみるか。」
桃「私も行くわ!私も、心配なのは一緒だもの。」
そう言った桃花に全員が頷く。
そして、冷音の家へ向かうため、伊集院邸の出入り口に足を向けた。
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