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-水ノ宮邸-

冷音の家は桃花の家から数キロ離れたところにあり、ひーとの家の目の前にある。
円を四分割した形、所謂イチョウ型の建物で三階建てだ。
が、高い塀に囲まれていて、入り口が分かりにくい。
その入り口も、魔導式のカードキーか、術式を解く為のパスワードを入れない限り開かなくなっている。
カードキーやパスワードで開く玄関とか、なんともハイテクだと思わんでもないが、そこはまぁ、学者の家なのだからありえないことでもないのかもしれない。
冷音の父親は魔科学者だ。
昔は、少しは関わりもあったものだが、最近は中々会うこともない。
冷音本人や彼の兄姉、そしてその妹とはよく遭遇するんだけどな。
そこまで総復習したところで、ふと、ひーとが足を止めた。

炎「えーっと。冷音、確かこの辺を何かしていたような……。」

雨「お前……、冷音の家に入ったことあるのか?」

ひーとはしきりにカードキーの差込口とその辺りをキョロキョロとしている。
余りにもうろ覚えな様子だったので、訝しげに聞いてみた。するとひーとは……。

炎「うーん、あるよ?でも冷音と一緒にいたときだけだもん……」

……まあそうか。
普通人んちの鍵なんか持ってないしな。
もっと言えば、自宅に帰る友人の手元なんて見てないだろうし。
どうやら聞いた俺がいけなかったらしい。

炎「じゃあ時雨、時雨は開けられるの?」

雨「まあな。」

前に貰ったこのカードキーで開けばの話だけど。
基本的にセキュリティが厳重そうな様子なので、もしかしたら、認証が変わってる可能性もあるかもしれない。
とりあえず、カードキーを差込口に差し込み、下方向にスライドさせた。
ピッとかいう音がした後、いかにも結界といった感じの透明な壁が消えた。
おっ、開いたか。
どうやら杞憂だったっぽい。

炎「えぇっ!?何で冷音ちの鍵持ってるの!?」

雨「冷音から貰ったからだな。」

盛大に驚くひーとに、冷静に答えを返した。
と言うか、冷静に考えれば分かることだろうに……。
何故冷音から鍵をもらってるのかどうかと言われれば、少し話が長くなってしまうんだが……。
まぁ、掻い摘んで言えば、親戚だからと言うことになる。

本人からは「何かあったときの為に」ということで渡されているけど、恐らく大半の理由はそんなところだろう。
……まぁ、冷音の家は特殊な事情があるから、もしかすればそれもあるのかもしれない。
ともかく、鍵は開いた。
冷音の無事を確認しよう。

       * * *

冷音の家は、例の如く真っ暗で、点いているのは人を感知すると自動的に灯りの燈る燭台二つのみだった。
……まさか……手遅れという事は無いだろうな……。

氷「……真っ暗だけれど、とりあえずインターホンを押してみてはどうかしら。」

そうだな……。
俺は頷くと、一番インターホンに近かったひーとに、押してみるように促した。
ひーとは大きく頷くと、

炎「よーし、じゃあ押すよ!!」

という掛け声とともにインターホンを押した。
だが、ピーンポーンという音が木霊するだけで、何も応答がない。

炎「あっれぇ?」

ひーとがインターホンを何度も押している。
だが誰も出てこない。

桃「やっぱりお留守なんじゃぁ……。」

……桃花の言うとおりなのか?

炎「うーん……。この時間に出かけるのかなぁ……。」

確かに、自宅を出た辺りでもう午後8時を回っていたところから推測するに、早く見積もっても8時半、もしくは9時にはなっていることだろう。
まぁ、誰もこんな夜更けには出かけんだろうな…。
……俺達が言えたことじゃねぇけど。
……ん?
今屋根の上で何か動いた気がしたな……。

炎「一応、もう一回だけ押してみようよ。」

雨「あぁ、そうだな。」

ひーとがもう一度インターホンを押した。
ピーンポーンという音が、その場周辺に木霊する。

?「……誰?」

屋根の上から、涼しげな声がした。
見上げると、冷音がそこから見下ろしていた。

炎「あー!冷音ー!」

ひーとが冷音に手を振っている。
つかアイツ、何で屋根の上に……。
というか気付いてたろぜってぇ……。
冷音は何の躊躇も無く、屋根の上から飛び降り、すたりと着地した。
俺はたまに、こいつがマジで運動苦手なのか疑いたくなるんだよなぁ……。

冷「それで……何か用事?」

冷音は俺たちを見回して訊いた。

雨「お前んちに、魔物とか来てないか確かめに……な。」

冷「来たけど……片付けちゃったよ?」

炎「えっ、一人で!?」

ひーとが驚愕の声を上げた。
冷音は「うん」と素朴に頷く。
正直、俺も驚いている。
確かにこいつの戦闘能力には多類稀なる物があることはわかってはいたが、まさか一人で倒してしまうとは……。
それとも敵が割と弱い部類だったのだろうか……。
…いや、まてよ。冷音はかなり魔術の術式に詳しかった筈だ。
学年での成績の良さから見てもそれが分かる。
中等部2年の実戦訓練は、俺達中等部3年がやるような物よりも簡単めな物だが、実技が悪ければ成績にも響く。
今季の冷音の魔術関連の成績はSSダブルエス判定…成績最高値だったはず。
とすれば、案外俺が心配するほど戦えない訳でもないのかもしれない…?

炎「ふへへ、まぁ、無事で良かったよ!」

ひーとがニコニコしながら言うと冷音が少し微笑んだ。

桃「あの……。」

桃花がおずおずと口を開く。
何やら言いたそうだ。

桃「小雪のところに、行ってみない?」

…随分と心配そうだな…。

雨「どうかしたのか?」

桃「さっき、あいすちゃんに電話する前に、連絡したんだけど……。」

桃花が言うには、電話に出た小雪の態度は別におかしくはなかったのだが、胸騒ぎがするらしい。

雨「なら、行ってみるか。」

俺がさらりと言うと、その場にいた全員が頷いた。

炎「冷音も一緒に行こうよ!」

ひーとが歩き出した俺達の一番後ろで、冷音を呼んだ。
冷音は一瞬考えたあと、頷き俺たちに続いた。

〔水ノ宮 冷音がパーティーに加えられるようになりました。〕




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