19.5尚美が避けるように去ってしまった後、奈良坂と茜も用事があると言って、訓練室からいなくなった。
そこには当真、ユズル、千佳、出穂そして頼の5人だけになる。
出穂は当真に射撃を見てもらっていた。
「はいもうちょい右。もっともっと」
「えー右すぎじゃないすか?」
「いーからいーから。はい、そのまま撃ぇーい!」
当真の掛け声と共に、出穂が撃つ。
撃った弾は的のど真ん中に命中した。
「うわど真ん中!マジで!?」
「な?左に寄りすぎてんだよ」
あれでいて当真は面倒見がいい。
出穂が師匠を探しているのなら当真にお願いしても良いのではないだろうが、と頼は思った。
しばらくその様子をユズル、千佳と3人で見ていた。
「ユズルくん」
「……何?」
「ユズルくんの先生……鳩原さんってどんな人……?」
千佳が訊ねる。
「もうボーダーにはいないよ。上層部に干されて辞めたんだ」
「「干されて」……?」
千佳はユズルの答えに納得がいっていないようだ。何かを考えている。
頼は千佳が何かを知っていることに気づく。
鳩原がいなくなった本当の理由を知っているものはごくわずかだ。
誰かから聞いたのだろうか。千佳の兄の雨取麟児が消えたことに、鳩原が関わっていると言う事を。
「鳩原先輩は遠征部隊を目指してて、選抜試験もちゃんと通った。けど、上層部が後から鳩原先輩の部隊の合格を取り消したんだ」
「えっ……?どうして?」
「鳩原先輩が人を撃てなかったから」
「……!!」
千佳は驚く。自分と一緒だと思ったのだろうか。
「……だからって役に立たなかったわけじゃないよ。鳩原先輩は人は撃てなかったけど狙撃は超うまかったから、相手の武器だけ壊して部隊を勝たせてた。個人ポイントは当真さんや奈良坂先輩より全然低かったけど、オレは今でも狙撃の腕は鳩原先輩が一番だと思ってる。上層部も含めてほとんどの人は人が撃てなきゃダメだって思ってたみたいだけどね」
「……」
「雨取さんもそう思う派の人?」
「え、ううん。そんなことないよ!……わたしも怖くて人が撃てないから……」
千佳の告白に頼はやっぱりなと思った。
ランク戦の戦い方を見ていて、もしかしたらと思っていたのだ。
しかし、この場でそれを言うのはよろしくない。
「……雨取さんて玉狛じゃなかったっけ?」
「?うんそうだよ?」
「……千佳」
頼は顔に手を当てる。呑気すぎる。
「……そんなことしゃべっちゃっていいの?次に当たるのウチの隊だよ?影浦隊」
「え……?」
千佳の顔に冷や汗が出た。
「千佳はやっぱりユズルの所属する隊知らなかったんだね」
頼は優しく千佳に話しかける。千佳の顔色が悪い。しまったと顔に書いてある。
「はい……」
「私も千佳はひょっとして人が撃てないのかな、って思ってた」
「頼さん……」
「尚美も気づいてると思う」
「尚美先輩も……」
今この場にいない尚美の話をする。
「尚美先輩はオレと同じで鳩原先輩が師匠だったんだ」
「そうなの?」
ユズルの言葉に千佳は疑問に思っていそうだった。
尚美が狙撃手として活動し始めた時は、鳩原があちらへ密航したのと同じぐらいだ。
その頃は尚美は射手として活動していたので、それだと教えるのは不可能では?と考えていそうである。
「尚美先輩は射手だったんだけど、狙撃をやりたかったらしくてこっそり鳩原先輩に見てもらってたんだよ。オレはそれで知ってる」
「尚美と未来は同い年で仲がよかったんだよ」
頼が補足する。
「そうなんですか……」
「尚美先輩は鳩原先輩がボーダーを辞めた事にショック受けてしばらく休んだりしてた。尚美先輩も辞めちゃうんじゃないかって噂されてたんだ。今は真野隊に入って普通にしてるけど」
頼はあの時を思い出す。まだ尚美が真野隊に入る前は顔見知り程度だったが、尚美の様子はひどく不安定だった。
周りに誰か人がいなければ、どうにかなってしまいそうで。
「尚美は真野隊に入ってまだ半年くらいなんだよ」
「知らなかった……」
千佳は尚美にそんな事があったのかと驚いていた。
「で、尚美先輩は前に鳩原先輩に教えてもらった事を活かして、今は誰も師匠にはせずに狙撃手としてやってるよ」
「私もあれこれ教えてはいるけどね」
「知らなかった事ばっかりです。ユズル君と尚美先輩は兄妹弟子なんだね」
「オレの方が早く弟子になったから、尚美先輩は妹弟子だよ」
「そっか、だから下の名前で呼んでるんだね」
千佳はユズルが尚美だけ下の名前で呼んでいることが気になっていたようだ。
「まぁね、先輩は特別だから」
ユズルは少し照れ臭そうにそう千佳に話した。
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