「I have a bad feeling about this.」
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4.5

真野依織

夜通しで行われた小型近界民駆除の疲れもそこそこに、真野隊は防衛任務を行なっていた。

「眠たい……」
「トリオン体でも眠たい気がする」
カンナと一緒になって尚美がボヤく。

「ほら、2人とも頑張って!依織さんが終わったら焼肉連れていってくれるって!」
「そうそう、寿寿苑奢っちゃうよ〜」

頼が2人に喝を入れているのを笑って見守る。
4人は走りながら、ゲートが発生した場所へ向かっている途中だ。

『近界民捕捉、真野隊戦闘を開始します』
本部に通信を入れる。

近界民は3体。大小様々なトリオン兵が4人に向かってくる。
尚美と頼はそれぞれ距離を取るため退く。遠くから狙撃するためだ。


タタタタ

カンナが突撃銃で攻撃しながら間合いを測る。
その横ですっと、弧月を抜いた。


「旋空弧月」
真横に刃を払う。
すっと伸びた斬撃は、トリオン兵を一体真っ二つにした。


ドンッ!
銃弾が別のトリオン兵の目を直撃する。

ドンッドンッ
最後の一体も目に砲撃が当たり、動きを止める。

頼と尚美の狙撃だ。


『真野隊、近界民を殲滅しました』
再度本部に通信する。


「さて、次はどこかな?」
弧月を鞘に収めて、そう呟いた。






『依織さーん、今大丈夫ー??』
『迅か、どうしたの?大丈夫だよ』
しばらく近界民を狩っていると、迅から内部通話がきた。
今の時間、迅は防衛任務には入っていなかった筈だ。


『それがさ、メガネくんと遊真が三輪隊とぶつかってて、ちょっと助けてもらいたいんだよね』
『あいにく今は防衛任務中だよ』
話は聞けるが、動くことはできない。


『依織さん1人抜けても真野隊は大丈夫でしょ?』
『……何をすれば?』
たしかに、うちの隊は優秀だ。
そう言われてしまうと、否定は出来ない。


『そこからしばらく行った弓手町駅の近くのビルに三輪隊の古寺がいるから、止めてほしい』
『はいはい、わかったよ』
詳しくは聞かない。時間の無駄だ。

「依織さん?」
横にいたカンナが声をかける。

「ごめんカンナ、ちょっと抜けるから3人でよろしく」
「はい」
急に抜けると言ってもカンナは驚かない。
無茶振りはよくあることなので慣れているのだ。
よく忍田さんや上の者に呼ばれて私は防衛任務にいないこともある。


『頼』
『弓手町駅付近で狙撃手がいそうなところ教えてくれる?』
話の内容をすっ飛ばして、本題に入るが、頼はすっと話を返す。


『弓手町駅のさらに東側やや南寄り、日差しも邪魔しない、太陽を背にするから相手からもわかりづらい、高いビルが2つ。どちらかですね』
『こちら側から見て、右手の窓ガラスが多い方のビルだと思います』
尚美も会話に入ってくる。
その言われたビルをすっと見る。だいぶ離れているが確認した。

『2人が言うんだから間違い無いね、ありがとう』
バッグワームを起動し、併せてグラスホッパーを起動して、駆けていく。




頼と尚美が予想したビルの屋上に行くと、古寺が確かにいた。
弧月を出しながら、背後から近づく。

「古寺」
呼びかけると、古寺はバッと振り返る。

「真野さん……!?」
古寺は予想していなかったのだろう。戸惑いを隠せずにいた。しかも刀を抜いているのだから余計に驚くだろう。


「悪いんだけど、迅から古寺を止めるように言われててね」
「え?!」
「狙撃、やめてくれるなら手荒なことはしないよ」
にっこり笑って、刃先を古寺に向ける。
古寺は狙撃手。こんな近くまで寄られては対抗するすべはないだろう。

「はい、わかりました……」
古寺がそう答えると、あっさり弧月を下ろした。

「ありがとう。出来れば戦いたくなかったから」
すっかり気を抜いて、古寺の横から弓手町駅の方を見て、状況を確認する。
空閑と秀次と米屋の3人が駅のホームにいる。動きは止まってるし、空閑が優勢のようだ。


「うーん、戦闘終わったみたいだね、私達も向かおうか」
「はっ、はい…」
そういって、2人で駅の方に向かった。



途中で迅と奈良坂とレプリカに出会った。
「あ、依織さんありがとう」
迅がにっこり笑って礼を言ってきた。

「迅、無茶振りが過ぎるよ」
場所も詳しく言わずに止めて、なんて
「うちの優秀な子達がいたからなんとかなったけど……レプリカさんもこの間ぶり」
「真野さん、貴方もいたんですか」
「奈良坂ごめんね、迅が言うもんだから」
古寺を奈良坂に渡してやる。


奈良坂は何か言いたそうに見てくるが、こちらも迅に言われたまま行動しただけでさっぱりわかってないのだ。
私の予想では、秀次が空閑の事を近界民だと知って攻撃してるんではないかとは思うが。


弓手町駅について、ホームに向かうと、三雲ともう一人見慣れない女の子がいた。
迅が三雲に後ろから話しかけると、2人とも振り返る

「迅さん!真野さん!」
もう1人の女の子はみるところ、一般人が巻き込まれたのか、三雲の知り合いか。

空閑には秀次が放ったと思われる鉛弾が体についている。
驚くのが、同じものが秀次と米屋にもついているのだ。
これはもしやと一つの考えが浮かぶ。
そして、その答えは迅が教えてくれた。

「おまえらがやられるのも無理はない。なにしろ遊真のトリガーは黒トリガーだからな」
やはり、思ったとおりだった。
能力は2人のやられ方を見るに、コピーする能力か?

A級三輪隊がフルメンバーで挑んでも負ける相手。
レプリカが黒トリガーを知らない三雲に対して説明しているのを横に、迅と三輪隊がやりとりしているのを聞く。


「「こいつらを追いまわしてもなんの得もない」おまえらは帰って城戸さんにそう伝えろ」
城戸指令が近界民を目の敵にしているのは周知の事実。そして、三輪隊はその城戸指令の意見に賛同する立場だ。

「その黒トリガーが街を襲う近界民の仲間じゃないっていう保証は?」
奈良坂が迅に訊ねる。

「俺が保証するよ、クビでも全財産でも賭けてやる」
迅は言い切った。三輪隊も迅の能力の事は知っている。そう言われれば何も言い返せないだろう。

「「何の得もない」……?損か得かなと関係ない……!近界民は全て敵だ!」
秀次は地面に這いつくばい、悔しそうに空閑を見て言い放ち、緊急脱出していった。


それを聞いて思う。
秀次は近界民への憎しみだけで動いている。それだけではこの先悩むことも出てくるだろう。
近界民を敵だと殺していけば、矛盾も出てくる。相手にも憎まれることも出てくるだろう。
お互い殺し合って、その先に何があるのか。秀次と同じように秀次に家族を殺されたと言われるものも出てくるのではないだろうか。


「あー負けた負けたー!」
米屋は緊急脱出せずに、トリガーオフして、その場に居た。
「さあ、好きにしろ!殺そうとしたんだ、殺されても文句は言えねー!」
「陽介、そうやって自分の命を軽んじるのはよくないよ」
思わず口を出す。


「はーい」
米屋は軽く返事をする。

「べつにいいよ、あんたじゃたぶんおれは殺せないし」
空閑は先ほどまで殺されそうだったにも関わらず、何とも思っていないような様子で話す。

「マジか!それはそれでショック!じゃあ、今度は仕事カンケーなしで勝負しようぜ、一対一で!」
米屋は三輪隊の中でも近界民には友好的だ。秀次も米屋の考えに少し感化されればいいのだが。
そのあと、三輪隊の3人は本部基地に戻っていった。


「さてと、三輪隊だけじゃ報告が偏るだろうから俺も基地に行かなきゃな」
迅がため息をつきながら話すのを聞いた私も一緒に行く事にする。


「私も一緒に行くよ。その方がより、偏りのない報告になるだろうし」
「依織さんサンキュー!」
「というか、それが狙いで私を呼んだんだろう?」
迅は未来を見たのだろう。

「さすが依織さん、バレてら。メガネくんはどうする?どっちにしろ呼び出しはかかると思うけど」
「……じゃあ僕も行きます」
空閑と、三雲に千佳と呼ばれた女の子を置いて、3人で本部に戻ることとなった。

本部に戻り、上層部に迅と二人それぞれが報告を行った。
「しかし黒トリガーとは……そんな重要なことをなぜ今まで隠していたのかね」

まず、三雲には黒トリガーの存在を隠していた事を詰問された。黒トリガーは敵であれば脅威になるからだ。
報告していたら余計に面倒な事になっていたとは思うが、黙っておく。


「まぁまぁ考え方を変えましょうよ。その黒トリガーが味方になるとしたらどうです?メガネくんはその近界民の信頼を得ています。彼を通じてその近界民を味方につければ争わずして大きな戦力を手に入れられますよ」
「それはそうだが……」
「そううまくいくものかねぇ?」
迅の提案を上層部は受け入れたかに見えたが、城戸指令がそうは行かなかった。

「……よしわかった。その近界民を始末して黒トリガーを回収しろ」
その意見に忍田さんが反発する。

「それでは強盗と同じだ!それにその間の防衛任務はどうする気だ?!」
「部隊を動かす必要はない。黒トリガーには黒トリガーをぶつければいいだろう」
その城戸指令の考えにぞっとする。


「迅、お前に黒トリガーの捕獲を命じる」



「それはできません」
「何ィ?!」
「どういうことかね?迅くん。最高司令官の命令に従えないと?」

断った迅に鬼怒田さんと根付さんが苛立っている。

「おれは玉狛支部の人間です」
そう、ボーダーには指揮系統があり、命令の重複を避けるために、直属の上司のみが部下に命令できるようになっている。
玉狛支部の迅の直属の上司は林道さんで、真野隊の隊員の直属の上司は忍田さんだ。

「やれやれ……支部長命令だ迅、黒トリガーを捕まえてこい」
林道さんが迅に言う。

「ただしやり方はお前に任せる」
林道さんは曲者だとよく知っている。
こう言ってしまえば、どうとでもなるのだ。

「やはり玉狛なんぞに任せてはおけん!忍田くん本部からも部隊をだせ!真野もいるだろう!」
鬼怒田さんが言う。

「城戸司令が決めたことだ。迅に任せればいいだろう」
忍田さんは今のところは静観するつもりのようだ。


「三雲君ちょっといいかな?」
先ほどまで沈黙を守っていた唐沢さんが三雲に話しかける。


「きみの友人の近界民がこっちに来た目的は何なのかきみは聞いてないか?」
「目的……ですか?」
唐沢さんの問いかけに三雲が戸惑う。

「そうだ。「相手が何を求めているか」それがわかれば交渉が可能だ。たとえ別世界の住人でも」
唐沢さんはやり手の営業マンだ。考え方が他とは違う。なるほどと思った。この人はやはり面白い。

「「父親の知り合いがボーダーにいる。その知り合いに会いに来た」……たしかそう言ってました」
三雲がそう言って、空閑の名前を伝えると、林道さん、忍田さん、城戸指令の3人が反応した。空閑という名前に覚えがあるらしい。
ちなみに私は比較的ボーダーに所属して長いが、初めて聞いた時にその名前に覚えはなかった。

「空閑有吾……有吾さんは……4年半ほど前にボーダーの存在が公になる以前から活動していた。
言わば旧ボーダーの創設に関わった人間。ボーダー最初期のメンバーの1人だ」
忍田さんは空閑がその有吾さんの子だとわかると争う事はないと判断した。
忍田さんがそうなら私はそれに従うまでだ。



その後会議は解散となり、それぞれが部屋を出て行く。
私も出ていこうとするが、その時忍田さんが後ろで囁いた。

「依織後で私のところに来い」
「了解」

不自然にならないように、迅と三雲を追いかけた。


「空閑の親父さんが上層部の人たちと知り合いなら、空閑はもう大丈夫ですよね?」
三雲が迅に訊ねる。

「うーんどうかな」
「そう簡単には行かないだろうね」
2人でその考えを否定する。

「えっ……いやだって……さっき忍田本部長が……」
「うーんどこから説明したものか……」
何も知らない三雲にどうやって説明するか悩む。

「うんまぁそうなんだけど、メガネくんもなんとなく気づいていると思うけど、今ボーダーは大きく分けて3つの派閥に割れてるんだよね」
迅が説明し始めたので任せる事にした。

「「派閥」……?」
「そう、近界民に恨みのある人間が多く集まった「近界民は絶対許さないぞ主義」の城戸さん派」
「さっきの三輪隊とかがそうだね」
補足する。


「近界民に恨みはないけど街を守るため戦う「街の平和が第一だよね主義」の忍田さん派」
「うちの隊も忍田さん派だよ」

「そして「近界民にもいいヤツいるからなかよくしようぜ主義」の我らが玉狛支部。で……まあ玉狛と城戸さんとこは考えが正反対だからあんまり仲がよろしくないわけ」
「なるほど」
三雲はなんとなく理解できたようだ。

「まぁ、城戸さん派は一番でかい派閥だから玉狛が何をやっても王者の余裕で見逃してもらえてたけどもし遊真が玉狛と手を組んだらたぶんそのパワーバランスがひっくり返る」
「……?!空閑一人でそこまで……?!」
「黒トリガーってのはそういうもんなの。城戸さん派的にはそれは避けたいだろうからどうにかして黒トリガーを横取りしようとするだろうな」

「私もそう思う。このまま城戸さん達が黙って見ておくわけがない。忍田さんもそう考えてるよ。」
迅の意見に肯定する。

「迅、私は忍田さんに呼ばれてるからこれから行くよ、なんかあったらまた協力するから言ってね。三雲君も、じゃまた」
忍田さんが待っている本部通信室に向かう。


「りょーかい頼りにしてるよ」
「あの、真野さん!」
三雲に呼び止められた。


「何かな?三雲君」
「あの、迅さんが僕たちのことを助けてくれるのはわかりました、けど、その……なんで……」
後に続くのは「忍田本部長派の真野さんが助けてくれるのか」と言うところだろう。

「言ったでしょ?私は君を気に入ってるんだよ。それに新しい風がボーダーに吹くのも悪くないし」
笑って答えて、その場を後にした。





「真野です」
「入れ」
部屋に入ると忍田さんはそのまま本題に入る。


「先ほどの会議でもう勘づいているかもしれないが、城戸司令はあのまま引き下がるような人ではない」
「はい」
「話し合いが行われれば話は別だが、それもなく刺客を差し向け、黒トリガーを強奪するような動きがあれば我々は玉狛支部を助けたい」
「わかりました」
忍田さんの考えに沿って動くだけだ。


「その場合は真野隊と嵐山隊に出てもらおうと思っている」
「はい、お任せください」
「いつもすまないな」
忍田さんが労いの言葉をかけてくれる。


「いえ、我々は忍田本部長の懐刀ですから。その為に日々精進してます」
「それは頼もしい」

先ほどまで厳しい表情だった忍田さんの表情が和らぐ。


「うちの子達はみんな強いですから、安心して下さい」
にっこり笑って忍田さんを見る。


「忍田本部長に助けられた子ばかりですから、忍田本部長に頼まれたとなれば俄然やる気になりますよ」






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