6.5三雲修
風間先輩との模擬戦が終わって、部屋から出たところだった。
「ラストの一戦はいい読みだったな」
師匠の烏丸先輩からそう褒められた。
「烏丸先輩の指導のおかげです」
何十試合もして、たったの一引き分け。A級隊員との実力差は十分感じた。
イラついているような、よくわからない表情の木虎とやりとりをし、ふと視線を上げると前に見たことある隊服を着ている女性2人が目に入った。
あれは真野さんと同じ隊服ではないか。
空閑と出会ってから僕たちのことを何度も助けてくれた真野さん。
「あの、烏丸先輩」
「ん?なんだ」
「あの、白い隊服の人達は誰ですか?」
「貴方、そんなことも知らないの?真野隊の宮木先輩と紫先輩よ!」
烏丸先輩より先に何故か木虎が答える。
以前会った真野さんを思い出す。自分の力になりたいと言ってくれていた。
会うたびいつも笑顔で、余裕のある人だった。
「真野隊はA級部隊所属で有事の際には主に本部の防衛を行う隊だ」
「強いってこと?」
烏丸先輩の説明に空閑が聞く。
「当然だ。隊長の真野さんはうちの小南先輩にも勝ち越すくらいだ」
それを聞いて驚く。小南先輩は空閑が模擬戦で勝ち越せないほどの実力者だ。
さらにそれより強いとは、ボーダー隊員の層の厚さを感じた。
「へぇーこなみ先輩より強いのか。あの2人は?」
「宮木先輩は射手として個人ランク上位に入っていたし、紫先輩は銃手でマスタークラスよ」
木虎がすらすら答える。何故か得意げだ。
「もう1人チームにいるんだが、その人は狙撃手でレイジさんの妹弟子だ」
烏丸先輩が熱心に教えてくれた。
「ふーん、やっぱりA級にいるってことはみんな強いんだな」
空閑は面白そうにする。
「そうだ、修。宮木先輩に射手として色々教えて貰え。紹介してやる」
「確かに、宮木先輩は射手の中でも実力者よ。教えてもらえるならありがたい事だわ」
隣にいた木虎も同意する。
木虎は烏丸先輩の言った事はなんでも賛成している気がする。
「宮木先輩、紫先輩」
烏丸先輩がすぐに2人に声をかけた。
「あれ、烏丸君久しぶり」
「とりまるも来てたんだ〜」
「お久しぶりです」
二人が烏丸先輩に呼ばれてこちらへ来る。
話しぶりからして烏丸先輩と親しそうであることがわかる。
「宮木先輩、紫先輩。こいつら新しく玉狛所属になった2人です」
烏丸先輩に紹介してもらって、慌てて名乗る。
「B級隊員の三雲修です」
「どうもどうも、空閑遊真です」
空閑も続いて挨拶をした。
「真野隊の宮木尚美です。はじめまして」
宮木先輩は、穏やかそうな笑顔で挨拶してくれた。
左右で黒髪を三つ編みにして纏めており、真面目そうな印象を与える。
「同じく紫カンナです。カンナでいいよ。さっき模擬戦見てたよ〜!最後面白かった!」
紫先輩はやや明るめの茶髪を高めのポニーテールにしている。
こちらは活発そうな印象だ。社交性が高いタイプの人だろうと予測をつける。
「修は俺の弟子なんです。射手志望なので宮木先輩、本部に来た時は色々教えてやってください」
烏丸先輩が宮木先輩に頭を下げる。
「そっか、烏丸君も弟子をとるくらいになったんだね〜。三雲君、私でよければなんでも聞いてね」
「はい。ありがとうございます」
快諾してもらえてほっとする。優しそうな人だし、教えてもらいやすそうだ。
今まで会った女性隊員の中でも宮木先輩は雰囲気が柔らかく、人当たりがかなり良さそうだ。
小南先輩然り、木虎然り、癖の強い人がボーダーには多い印象だが、良くも悪くも普通の人の様に思えたのだ。
「空閑君、なかなかやるらしいね!今度私と模擬戦やろうよ!」
「お、良いですな。是非やりましょう」
紫先輩と空閑は早速模擬戦の約束をしていた。
空閑に申し込むと言うことは烏丸先輩の言うとおりなかなかのやり手なのかもしれない。
「三雲くん」
嵐山さんに名を呼ばれる。
「大変だ君たちのチームメイトが……!」
そう言われて空閑とあわてて千佳のいる訓練室へと走ることとなった。
「千佳!」
あわてて部屋に入ると、千佳の隣には鬼怒田室長がいた。
「三雲……?そうか玉狛に転属しおったのか」
つかつかとこちらへやってきて、背中を叩かれた。
「おいこらメガネ!ちゃんとこの子の面倒を見んか!」
「……!?はいすみません」
状況が把握できていないがとりあえず謝る。
「あんたすごいね!なんであんなの撃てるの?」
「わっ」
千佳の周りには人が集まり出した。
空閑と千佳の近くに行く。
「おー穴があいてる」
空閑が訓練室の壁に大きく空いた穴を見た。
「きてくれたんだね」
「ああ、嵐山さんに教えてもらったんだ……これ千佳がやったのか?すごいな」
「私もびっくりして……」
千佳は気まずそうに話す。流石に悪目立ちしすぎたか。
「気にしなくていいよ」
「えっと」
「おや、真野隊の人か」
女の人に話しかけられて千佳が戸惑っている隣で空閑がそう言った。
隊服が先程の2人と同じだったのですぐにわかった。
「真野隊……?」
千佳が訊ねる。
「あれ、知ってるんだ。尚美かカンナにあったのかな?真野隊の元村頼だよ、よろしくね」
3人にそう自己紹介した元村さんは背がたかく、長く真っ直ぐな黒髪をさらりと流した涼しげな目元の美女だった。
「三雲修です。真野隊長にもお世話になりました」
「ああ、依織さんの方か、なるほど」
「空閑遊真です」
「例の空閑君ね。話は聞いてるよよろしく」
例の、と言うことは元村さんも空閑が近界民だと言うことは知っているのだろう。
真野さんから聞いているのかもしれない。
「雨取千佳です。よろしくお願いします」
「雨取……千佳ちゃんね」
元村さんは確かめるように千佳の名前を言った。
「雨取さんすごい才能だね、こんなトリオン量うちの隊の子以上だ。初めて見たよ」
一見きつそうにみえるが、笑うとイメージが変わる。
「ありがとうございます……」
笑いながら、気にしないんだよ、と千佳の頭を優しく撫でていた。
面倒見が良さそうで安心した。これなら千佳も何とかやっていけそうだと。
「玉狛なら知ってるかな?私の……」
「頼さん」
「!???!」
落ち着いて話していた元村さんが急に飛び跳ねた。
「お久しぶりです」
いつのまに来たのか、烏丸先輩がいた。
「あ、烏丸、久しぶり。どうしてここに……?」
「こいつら玉狛なんで。俺が玉狛支部だって知ってるでしょ?」
先ほどまでの様子とは打って変わって、落ち着きのない様子で烏丸先輩と話している。
何かあるのだろうか。2人は知り合いのようだが。
「あ、そうだね、玉狛……なるほど」
「はい。さっき宮木先輩と紫先輩にも伝えましたが、よろしくお願いします」
「うん、千佳ちゃんは任せて」
気のせいかもしれないが、烏丸先輩が元村さんの方に寄って行っている気がする。
「はい、それであの……」
「あ、私あっちの新人みないと、じゃあ3人ともまたね」
そう言って、元村さんは素早くその場を立ち去った。
あっという間のことで3人で呆然とする。
「烏丸先輩、元村さんと知り合いなんですか?」
「ああ、まぁな」
そう言った烏丸先輩はいつもの無表情ではなく、少し笑っていた。
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