「I have a bad feeling about this.」
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「尚美チャン、一緒に本部行こう」

午前の授業が終わり、今日は昨日に引き続き早退することが決まっていた。周りがお昼ご飯のためにお弁当を広げたり、食堂に向かったりしている中、友達にまた明日ね、と声をかけて一人帰る準備をしていると廊下から声をかけられた。
私に声をかけたのは別のクラスの犬飼くんだ。声をかけられたせいで教室内のざわつきが少し大きくなったような気がする。犬飼くんはそんな事は気にもせずににっこり笑いながら、扉にもたれかかってこちらに手を振ってきた。悔しいが非常に絵になっている。それを見て周りの女の子がきゃーきゃーはしゃいでいた。イケメンは何をしても騒がれて良いね。

「犬飼くん……」

何故目立つように声をかけるんだ、と少し嫌な気持ちになった。私が教室から出たところで声をかけてくれたらいいものを。わざわざ私のクラスに来てまで声をかけるなんて嫌がらせではないかと思った。犬飼くんは私の困った顔を見て楽しんでいる節がある。実にイイ性格をしている。

先程、ボーダーに所属している隊員全員に小型近界民ネイバー駆除のための出動要請が出された。私は一度本部に寄って、依織さん達と合流することになっていた。ちなみに同じクラスの会長はすでにクラスにはおらずもうボーダーに向かったようだ。
「おれも本部で合流してからなんだ、尚美チャンもだよね?」
何故私が本部で合流する予定なことを犬飼くんが知っているのかわからないが、嘘を言うのもあれなので、正直にうなずく。
「うん、そうだけど…辻君は?」
「辻ちゃんは奈良坂君ともう行ったんじゃない?」
犬飼くんはへらりと答えた。何故同じ二宮隊の辻くんではなく私を誘うのか。同じ隊の子と一緒に行った方が良いのでは無いのだろうか。犬飼くんは見た目の良さと人当たりの良さから校内でそこそこモテる。その上ボーダーで活躍していることもあってさらにモテる。そんな男から誘われたとなれば噂にもなるものだ。
また頭を抱えたくなった。ここ数日で何回頭を抱えているのかわからない。私に断られないだろうと思っている犬飼くんは余裕の表情でこちらを見ていた。一緒に行くのを断ろうかと一瞬思ったが、あきらめて了承することにした。
「うん、わかったからちょっと待ってて」
どうせ断ってもいつもの笑顔でゴリ押しされるのだ。これ以上目立たないように諦めてさっさと一緒に帰るに限る。変に騒いで余計に注目を浴びたく無い。

「慌てずに用意して。待っとくから」
制服を少し着崩してゆるく着た犬飼くんはふわりと笑ったのだった。




「尚美、大変だったね」
本部の真野隊作戦室に入ると依織さんに労いの言葉をかけられた。
間違いなく昨日のことだろうが、それより私は先ほどまで一緒にいた犬飼くんに大変だったのだが、それは言わないでおく。帰り道でずーっと話しかけられていたのだ。答えにくい質問もぐいぐいこられて疲れ切ってしまった。なんだ「クリスマスの予定ある?」って。きっと防衛任務だよ。



「まさか、尚美先輩のところでイレギュラーゲートが開くとは〜!」
カンナとまことも学校を午前で早退しており、制服のままだった。2人ともセーラー服がよく似合っている。三門市立高は女の子はセーラー服でとっても可愛い。私も一度はセーラー服着てみたかったなぁ、なんて思う。

「尚美、一人でぶっ放したんだって?」
頼さんが面白そうに聞いてきて慌てて答える。
「それ、誰から聞いたんですか?4人で倒ましたよ!」
「二宮から聞いたよ」
「さて、揃ったことだし私たちも行こうか」

依織さんがみんなに声をかけて、話は途中で終わってしまった。二宮さんが頼さんに何と話したのか気になったが、聞くタイミングを逃してしまった。そもそもなんで二宮さんが知っているのだろう。

「みなさん、気をつけて行って来てください」
まことはオペなので本部作戦室で留守番だ。セーラー服からボーダーの制服にいつのまにか着替えていた。

「行ってくるね」
頼さんはまことに手を振る。

「終わるの何時になるかなぁ」
かなりの数の小型近界民ネイバーを駆除すると聞いた。日付をまたぐかもしれない。そう思うと憂鬱だった。夜更かしは苦手なタイプなのだ。

「ご飯用意して待ってますからね」
「さすが!まこと!」

カンナがまことにぎゅっと抱きつく。同い年なだけあって二人は特に仲良しだ。
まことはカンナの勢いにやや倒れそうになっていた。
「そういえば、私たちが本部空けて良いんですか?全部隊召集なら、本部もぬけの殻になりません?」
ふと頼さんが依織さんに聞く。確かに本部に誰もいないのはまずい。今はいろいろと不穏な時期だ。何が起こるかわからない。本部防衛がメインのうちの隊が外に出ていいんだろうか。

「確かにそうですね…」
「え、うち出てっていいんですか?」
カンナも依織さんに聞く。
「大丈夫だよ、今日は天羽が代わりにいてくれるからね。頼んでおいた」
「それなら安心です」
頼さんはこういう事は見落とさない。私とおそらくカンナはすっかり忘れていた。
そして私は天羽くんと滅多にしゃべったことがないが、依織さんの交友関係の広さに驚くのだった。どうやって頼んだんだろう。



「おせーぞ、真野隊!!」
担当場所に行くとすでにB級の諏訪隊が来ていた。隊長の諏訪さんが依織さんに怒鳴りつけるように話す。咥えタバコをしているが、火はついていないようだ。

「ごめんごめん、諏訪」
「重役出勤か?あん?」
諏訪さんと依織さんは同い年でよくレイジさん風間さん技術者エンジニアの雷蔵さんとで飲み会をしているらしく、仲がいい。諏訪さんも言葉だけはキツいが、顔は笑っていた。

「堤、さっきぶり」
「ああ、頼ちゃん」
頼さんと堤さんも同い年だ。先ほどまで大学で一緒だったらしく、にこやかに会話をし始めた。
「日佐人君ー!」
カンナは2つの隊最年少の笹森君を見つけると走って抱きつきに行く。

「わ!紫先輩!」
「一緒なんだね〜よろしく!」
「はい!よろしくお願いします」
笹森君は目上に礼儀正しく誰からも好かれる為、カンナのお気に入りであった。よく個人ソロランク戦もしているらしい。そもそもカンナは感情表現が豊かでこうやって誰にでも抱きついたり距離感が近い。私は一人アウェイ感を味わうことになった。

あわてて周りを見てみると、C級隊員が困っているのを見つけて、助けながら駆除活動をすることにした。
「大丈夫?レーダーの見方わかる?」
「はい。ありがとうございます!」



結局小型近界民ネイバーの一斉駆除作戦は翌日早朝までかかり、私達は周りのC級隊員達をフォローしながら活動していたため、クタクタになって諏訪隊と別れ、本部へと帰着した。


「おかえりなさい!お疲れ様でした」
作戦室で笑顔のまことに出迎えられる。
「はー、流石に今回は疲れたね」
「ハタチ過ぎると夜更かしはキツい」
依織さんと頼さんが換装を解き、テーブルに座るとまことによって暖かいご飯が次から次へと出てくる。
「さぁどうぞ!太るとか気にしてたらダメですよ!」
「うわぁ!美味しそう!」
後から入ってきたカンナはそれを見て目を輝かせる。
「すごいねこんなに沢山。どうしたの?」
私も目の前のご飯に心躍る。どれから食べようか。あわてて換装を解く。
「食堂のお姉さんにあらかじめお願いしておいたんです!」
まことはみんなの分のお茶を配りながら胸を張る。まことはボーダー内に知り合いが多く、顔が広い。夜間担当の食堂のお姉さんといつの間に仲良くなったのだろうか。


「まことありがとうね。いただきます」
依織さんの合図でみんな食べ始める。こういう時は年齢関係なし。一斉に皿に取り始めた。

「美味しい〜」
「尚美先輩…私食欲より、睡魔に負けそうです…」
「わっ、まこと待って!顔につくよ!」
横のまことの頭がふらふら動き始めたのであわてて支える。一人で作戦室にいた分眠気に勝つのも大変だったのだろう。私たちも眠さと闘っていたが動いていたから多少マシだった。

「こう睡眠時間が不規則だとなかなか肌の調子が、二十歳すぎると本当にやばい」
「私の前でよく言えるね?頼」
「いや、そういうわけではなく!すいません!」
依織さんは頼さんをからかう。
「ふふっ冗談冗談。頼いつも肌きれいだよ」
そういって頼さんの肌をすっと依織さんは触る。二人のやりとりに少しドキドキしてしまった。
「そうですよ〜私と変わりませんって!化粧品どこの使ってるんですか?」
カンナは頼さんの隣でじっと肌を見る。
「カンナにはまだ早い!適当に化粧水でも塗っときなさい」
「え〜〜頼さんひどい」
みんなでわいわい話していたが、依織さんの一言に全員が凍りつく。
「そうだ、みんな知ってると思うけど、一休みしたら我が隊は防衛任務です」
確かに日付が変わっている今日は日中に防衛任務が入っていたことを一斉に思い出した。
「……」
まことと顔を見合わせる。
「やっぱり」
「代わってくれるところなんてないよね」
カンナと頼さんは肩を組んでうなだれる。
「ま、仕方ないよね」
依織さんはあっけらかんと言う。一番年長なのにかなりタフだ。
5人は黙々とご飯を食べ始めた。








読んでも読まなくてもいいおまけ↓
出来れば初回は読まない方がいいかも。
4.5

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