6新年も開けて1月8日。
今日はボーダー隊員正式入隊日である。
あの夜の戦闘の後、依織さんに詳しい話を聞いた。
予想していたように、玉狛支部に
近界民がいたらしい。しかもびっくり
黒トリガー持ちの。
城戸司令がその近界民から黒トリガーを強奪するように帰ってきたばかりの遠征組に命令を出し、それをよく思わなかった忍田さんが玉狛と手を組んで、私達真野隊をあの戦闘へ向かわせたと言うことだ。
その日は結局会うことは無かったが、迅さんはやはり太刀川さんや風間さん達トップランカーとやり合っていたらしい。
一人であの二人を
緊急脱出まで追い込むとは流石黒トリガー使いである。
しかもそれだけではなく近界民は玉狛所属のボーダー隊員となり、他の玉狛所属の隊員と部隊を組む予定だとか。そして、玉狛の新人は今日の入隊日に合わせて本部にきているらしい。
私達はと言うと、今日の入隊指導の手伝いに駆り出されており、今はカンナと二人で新人の誘導係をしていた。
頼さんは
狙撃手志望の新人の対応の為狙撃手用の訓練室にいる。
依織さんはと言うとまた一人で防衛任務に行っていた。何故免除にならないのか。確かに一人で充分一部隊分の戦力にはなっているが。
「ねぇ、そこの君」
考え事をしながら通路に立っていると話しかけられた。近づいてくる人に全然気づけていなかった。いけない。仕事をしなければ。
「はい、なんですか?」
笑顔で努めて丁寧に対応する。
3人組の男性隊員だ。ユニフォームで新隊員だとわかる。
「君もここは初めてかい?良ければ案内しようか?」
「……??」
最初、言っている意味がわからなかった。
案内しようか?いや、私が案内係ですが?
「慣れないと道に迷うよね、僕たちは慣れているから問題ないけど」
ひょっとしてもしかするとひょっとして、私のことを新隊員だと思っている?振り返っても私以外に人はいなかった。
恐ろしいことだが、一つの仮定を出した。確かに、今日の服装は新隊員が着るユニフォームに形も色も似ている。だが、こちらは色はアイボリーだし、ラインはオレンジやピンクではなくブルーだ。しかも、真野隊であることを示すカミツレが描かれたエンブレムも背中にある。隊の正式なユニフォームではないが、揃いの服で、ボーダーの活動をする時に戦闘以外ではよく着ている。まぁ、正式なものも依織さんの希望でかなりラフなものだが。
「いえ、私は違くて…」
そんなに隊員らしい貫禄がないんだろうか。焦って訂正する。
「恥ずかしがることないよ、誰でも最初はそうなる」
人の話を聞こうとしない、勘違いがひどいこの3人組をどうしてやろか、頭が痛くなる思いだった。
「入隊早々、他にうつつを抜かしているとはよほど自信があるのだろうな」
後ろから声がした。
「風間さん!」
「A級3位の風間隊だ……」
風間さんと菊地原君、歌川君の風間隊3人が揃ってそこにいた。中でも風間さんは腕組みをして威圧感がある。実際は小柄なのに、大きく思える人だ。
新人3人組は何故風間隊は知っているのに真野隊を知らないのだろう。真野隊だってそこそこイケてると思うのだが。やっぱりランク戦がないからなのか。たしかにランク戦してる隊員たちはかっこいいもんね。
「君たち、その人誰か知らないの?」
菊地原君が私を指差して3人組に教えてやる。
「A級の真野隊の人だよ」
「A級?!しっ、失礼しました」
それを聞くと慌てて3人組は元いた道を走って行った。この服は二度と着たく無い。色を変えて貰おうか、複雑な気持ちだった。
「お見苦しいところを見せました、すみません」
落ち込む前にしっかりしないと、と思い、ペコリと頭を下げる。
「いや、気にしなくていい。入隊指導の手伝いか、大変だな」
風間さんが労いの言葉をかけてくれた。この人はなんて出来た人なんだ。密かに感動した。
そしてその感動を菊地原君がぶち壊す。
「いや風間さん、どうせぼーっとしてたからあんなのに捕まったんですよ」
「……」
当たっているだけに反論できない。
「ほんと危機感が足りないと言うか、自覚が足りないと言うか……」
「こら、菊地原」
ぶつぶつ言う菊地原君を歌川君が止めてくれた。歌川君は歳のわりに本当に落ち着いている。うちのカンナより年上に見えてしまうほど。
「歌川君大丈夫だよ。ごめんね、菊地原君」
手伝いをきちんとしなかった自分が悪い。言われた通り、A級隊員の自覚もあまりないのかもしれない。もうランク戦もしばらく出ていないし。
「そういえば3人はどちらへ?」
この奥は今は新入隊員指導が行われている為、正隊員が来ることはレアだ。
「迅の後輩に興味があってな」
「なるほど。それなら私ももう会場に戻るのでご一緒します」
風間さんの言葉に頷き、一緒に行くことにした。
4人で歩いていて、そういえばしばらく経つが、黒トリガーの件でこの人達と間接的にやり合った事をうっかり思い出してしまった。顔を合わせていないのでそこまで気まずくはないが、何か言うべきかと考えを巡らせる。しかし相手もいい思いはしていないだろう。迅さん一人にしてやられたのだから。
「お前たち真野隊もあの夜来ていたと聞いた」
風間さんも思う事は一緒だったらしい。助かった。向こうから話を振ってきてくれた。
「あ、やっぱり知ってました?」
「出水たちがしてやられたと言っていた」
風間さんはそういうが、私は足も腕も使い物にならなくなって、完全にやられていた。緊急脱出しなかったのは運が良かったのだろう。
「かなりギリギリでしたよ」
ヘマもした。私がヘマしなかったらもっと楽に出来ていた筈だ。本当に周りをよく見ないと。
「宮木はその日、
射手として戦っていたと聞いたが……」
風間さんがこちらの様子を窺うように話す。
「そうですね」
「何?狙撃手諦めて戻ったの?」
菊地原君が馬鹿にしたような言い方をする。
「おい!」
歌川君が菊地原君を止めたが、菊地原君は他の人が聞きづらいこともサラッと聞いてくる。それが良いところであり、悪いところでもあるのだが。私はこうやって聞いてくれた方が気が楽だ。陰でこそこそ言われるよりずっと良い。
「別に戻ったわけじゃないよ、あの時は隊長命令。私は一流の狙撃手になりたいと今も思ってるよ」
何とも思っていないように装って答える。
狙撃手としてマスター級になるのももうすぐだ。そうすれば射手として呼ばれることも少なくなるだろう。今は射手のポイントの方が高いので、射手として分類されている。あと一年たてば新人たちも私を狙撃手として見てくれるだろう。そうすれば過去のことも多少薄れてくれるはず。
「俺はお前がどう考えているのか知らないが」
風間さんが前置きをしながら話し始めた。
「お前が責任を感じる事はないし、あいつの代わりにはどう頑張ったってなれない」
「分かっていますよ、そう言うわけじゃないですから」
風間さんに本質をつかれたが、笑って誤魔化す。彼女には追いつけるとは思っていない。代わりになんてなれるわけがない。そこまで自分を過信してはいないつもりだ。狙撃手になってみてわかる。彼女がどれだけすごい狙撃手だったか。
そうこうしている間に、4人は仮想戦闘モードのある部屋についた。ちょうど新隊員たちが対近界民戦闘訓練をしている。
「いたぞ、5号室のやつだ」
風間さんが目的の人物をすぐに見つけた。
「小柄ですね、若い」
その近界民の為に先日戦ったにも関わらず今まで会えてなかった。玉狛にわざわざ行く用事もないし、玉狛に会いに行くような親しい友人もいなかった。勝手なイメージで大柄の男を想像していたが、みると白髪の小柄で可愛らしい感じの男の子だった。小学生、いや中学生だろうか。
「0.4秒……すごい」
ちなみに私が入隊した際、討伐にかかった時間は51秒である。パッとしないタイムだ。
「なるほど、確かに使えそうなやつだ」
風間さん達は先ほどから近界民の動きを見て分析している。
「そうですか?慣れれば誰だってこのくらい……」
「素人の動きじゃないですね。やっぱ近界民か……」
歌川君の言うとおり、他の新人たちとは一線を画している。城戸さん達が脅威に感じるのもわかる。
「玉狛でしっかりボーダーのトリガーの訓練してきたんでしょうね。チームを組もうと思うんだったら、黒トリガーは使えないですし」
真野さんから事前に名前は聞いている。空閑遊真。白髪で遠目からでも目立つ。
「そうだろうな」
風間さんもそう言って下に降りて行った。何をするつもりだろう。
「あ〜いたいた尚美先輩!」
後ろからカンナに声をかけられた。
「あれ、菊地原に、歌川。二人ともどうしたの?」
「例の新人、見に来たんです」
カンナに歌川君が答える。
「なるほど!」
そういうカンナも同じだろう。
「うるさい奴がきたなぁ」
「なんだって〜!!」
菊地原君を睨みつけるカンナ。これでも仲がいい方だ。菊地原君も口ではこう言っているが顔は笑っている。
「わ!風間さんが模擬戦やるんだ!」
カンナが嬉しそうに見る。
風間さんが下に降りて誰かに声をかけ、訓練室へ入って行くところだった。相手は私には初めて見る顔だった。最近B級に上がったのだろうか。風間さんが相手をすると言うことは新隊員ではないと思うけど。
「んー、相手誰?菊地原知ってる?」
カンナも相手は知らないようだ。
「例の玉狛のメンバーの一人だよ。三雲修。紫先輩、そんなことも知らないの?」
「いちいち一言多い!……尚美先輩、下に座ってみましょうよ!新人いなくなって席空いてるし」
菊地原君と歌川君を上に残して、カンナに連れられて下のよく見えるところに向かった。
風間さんに何度も何度も瞬殺される三雲君。正直これでは正隊員としてやっていけるか怪しいほどである。いくら風間さんが強いからと言っても酷かった。何故先程の空閑君がこの三雲君とチームを組もうとするのかまだわからずにいた。
「なーんか期待はずれですね、先輩」
「うーん、何とも言えないけどね」
カンナも見ていてつまらなさそうにしている。三雲君のトリオン量はキューブを見るからに少ない。技術も身のこなしもまだまだだ。もう終わりかと思いきやもう一戦するらしい。
三雲君はトリオンを小さく分割しゆっくりと放った。
「なるほどね」
私もカメレオンを起動した風間さんと対峙したら常に自分の周りにトリオンが舞ってる状態にする。それか追尾弾だ。あれはカメレオンでも反応する。自分も思いつく行動だ。当然風間さんも対処法はわかっている筈だ。案の定カメレオンを解いて踏み込もうとする。その瞬間三雲君がスラスターをオンにした。
「なるほど!面白い!」
カンナが楽しそうにする。
風間さんを壁際まで追いやり、ゼロ距離射撃を放つ三雲君。煙が立ち込めてどうなったか見えない。
「どうなりました?風間さん負けた?」
カンナは立ち上がって状況を確認しようとした。興奮して声が大きくなっており、人目をだいぶ引いていた。
「引き分けだね」
私が目線で嗜めながら、教える。最後三雲君は風間さんの動きを読んで引き分けて終わった。頭を使うタイプの戦闘をするらしい。
「わー!引き分けかー!面白かった!」
カンナは最後の一戦で十分楽しめたようだ。上がってきた風間さんに声をかけている。カンナはフットワークが軽い。
カンナが風間さんと話終わり、戻ってきたところで立ち上がる。そろそろ仕事に戻らないと。
「さて、嵐山さんのところに行こうか」
「そうでした。まだ仕事ありましたね」
どうやらカンナは観戦に夢中になって、私たちの仕事を忘れていたらしい。二人で歩いていると声をかけられる。
「宮木先輩、紫先輩」
そこには烏丸君がいて、横には藍ちゃんと先程見ていた三雲君と空閑君がいる。
烏丸君は玉狛所属なので玉狛の二人の付き添いだろうか?
「こいつら新しく玉狛所属になった2人です」
烏丸君が2人を紹介してくれた。
「B級隊員の三雲修です」
「どうもどうも、空閑遊真です」
2人とも丁寧に挨拶をしてくれた。
「真野隊の宮木尚美です。はじめまして」
「同じく真野隊の紫カンナです。さっき模擬戦見てたよ〜!最後面白かった!」
自己紹介がてら挨拶する。
「修は俺の弟子なんですよ、射手志望なので宮木先輩、本部に来た時は色々教えてやってください」
烏丸君に頭を下げられた。
「そっか、烏丸君も弟子をとるくらいになったんだね〜。三雲君、私でよければ聞いてね」
今は殆ど射手としては活動していないが、快諾する。年下はみんな可愛い大事な後輩だ。
「はい。ありがとうございます」
三雲君は安心したように笑ってくれた。知らない人と話すのは緊張もするだろう。私もそうだ。
「空閑君、なかなかやるらしいね!今度私と模擬戦やろうよ!」
「お、良いですな。是非やりましょう」
カンナは空閑君と早速模擬戦の約束をする。
本当にカンナはフットワークが軽い。横で見ていて思った。遠慮なんてしない。
「三雲君大変だ!」
そこに嵐山さんが慌ててやってきた。
「君たちのチームメイトが……」
「え?」
嵐山さんにあれこれ説明されて、藍ちゃんに案内されながら三雲君と空閑君は部屋を出て行った。
その場には私とカンナ、烏丸君の三人になる。
「そういえばとりまる、頼さん狙撃訓練場にいるよ」
カンナは烏丸君に教えると、今まで無表情だった烏丸君が反応した。
「本当ですか、ありがとうございます。今から行ってきます」
そそくさと三雲君と空閑君を追う様に烏丸君は出て行った。
「あとで頼さんに怒られても知らないよ」
それを見てカンナに忠告する。頼さんは烏丸君に会わないように避けてるのに。訓練場に来られてしまっては逃げ場がないんじゃないか。もし私達が居場所を洩らしてしまったとバレたらあの冷ややかな目で見つめられる事になる。頼さんは黙っていると怖いのだ。
「たまには会ってあげないととりまるも可哀想じゃないですか」
カンナは恋愛脳だ。自分は恋人の事で頭がいっぱいだし、周りの人間もくっつけたがる。
烏丸君はここ数か月、頼さんを追いかけてばかりいる。いつもは無表情の烏丸君が頼さんを見る時だけは特別優しい表情をしているのに気づいている人は沢山いて、頼さんも少なからず好意を持ってはいると思うが、なかなか素直になれず、避けてばかりいる。カンナみたいに強引にしてしまうと、余計に頼さんは頑なになってしまうのではないだろうか。
「まぁ、そうだけど……」
「先輩もですよ!最近会ってますか?」
カンナの照準が何故か自分に向けられてしまった。
「学校が同じなんだから、なんだかんだで会ってるよ……ここに来る時は一緒に来ることも多いし」
「そんなんじゃダメです!デートしなきゃ!」
カンナの熱量がすごい。ぐいぐいくる。
「そう言う、カンナはどうなわけ?」
自分の事は答えにくくてつい、カンナに聞いてしまう。
「私は今喧嘩中です」
カンナはぷくっとほっぺを膨らませる。そんな顔も可愛いのだが、喧嘩中と聞いて驚いた。
「え?また?」
「しかたないじゃないですか!また女の子の事可愛い可愛いって……!!」
これは怒りを燃え上がらせてしまったカンナに話題を振ってしまった事を後悔した。
読んでも読まなくてもいいおまけ↓
出来れば初回は読まない方がいいかも。
6.5
読んでも読まなくてもいいおまけ↓
出来れば初回は読まない方がいいかも。
6.55