プロローグ



「カナ、ハロウィンって何?」

「また唐突だねシオン」

「テレビでやってたんだよ」

夕食後、キッチンで食器を洗っていたらそんな質問が飛んできた。
まぁ確かにオールドラントには無さそうな行事だということで、お茶を淹れてからシンクやイオンの要るリビングへと向かう。

「ハロウィンね、日本じゃ殆どお祭り扱いかな。
仮装をしてトリック・オア・トリート!って言って馬鹿騒ぎ、みたいな」

「トリック・オア・トリート?」

「お菓子くれなきゃ悪戯するよ!っていう意味の、まぁハロウィンの合言葉みたいなもんだよ」

私の説明に三人は顔を見合わせて目をぱちくりさせている。
どうやらぴんと来ないらしい。なのでソファに座ってもう少し本腰を入れて説明することにした。

「元々はどっかの宗教が始めたお祭りでね、10月31日には霊界より先祖が現世へと帰還し、同時に悪霊や悪魔達も現世にやってくると思われていたの。
だから仮装をして悪霊や悪魔達を追い払い、先祖たちを迎え入れるって言う儀式だったわけ。

それが宗教が排他されたんだか廃れたんだかで、形がだんだんと変わっていったのね。
子供たちが仮装して各家を回り、お菓子を貰って回るっていう風に。

日本に伝わってきたのは更に後で、ハロウィン=仮装するお祭りってイメージなんだよね。
家を回ってもお菓子用意してるとこなんて少ないだろうし」

私の説明に納得しつつ、再度全員でテレビに視線を移す。
仮装用の衣装やカボチャをモチーフにした小物の紹介などを、女性のタレントが笑顔で続けていた。

「ハロウィンは解ったけど、何でカボチャ?と…あれは、魔女?」

シンクの言葉にシオンとイオンも振り返る。
疑問に思う点は三人とも同じらしい。

「魔女は仮装の代表だね。カボチャは…ジャック・オ・ランタンって言って、オレンジのカボチャを使ってランタンを作るの。
ほら、あんな感じで。何で作るかは…悪魔対策の一環がそのままシンボルになったんじゃない?」

ランタンの説明はもう適当である。
私は専門家じゃ無いのでそこまで詳しいわけではない。
テレビに出てきたジャック・ランタン(カボチャの中身をくりぬき顔を掘り起こしたもの)の小物を指差せば、三人はほぉ、といった感じで興味深々だ。

「霊界より先祖が帰還し、悪霊や悪魔がやってくる…か。なんかオールドラントへの扉も開きそうな感じだね」

「オールドラントはどちらかというと異世界では?」

「というか、日本じゃただのお祭りだろ?それにもう廃れてる宗教じゃないか」

シオンの呟きにイオンが追従するものの、シンクによってぶった切られた。
確かにシオンの言うとおりだが、ハロウィンにオールドラントと日本が繋がってたまるか。

「うちの地域じゃハロウィンに関するお祭りなんかはないけど、せっかくだし明日はカボチャのお菓子作って遊ぼうか」

私の提案に三人の顔がぱっと明るくなった。
折角だし楽しみたいだろうと軽い気持ちで言ったのだが、喜んでもらえれば何よりだ。
そんな中、シオンがけだるげな笑みを浮かべながら口を開いた。

「どうせだから仮装もする?」

「一日のためにわざわざ買うわけ?」

「オールドラントの服を着れば良いのでは?」

「あぁ、確かにここじゃ仮装だね…」

シンクの現実的な突っ込みをし、イオンの提案にシオンが苦笑のような嘲笑のような曖昧な笑みを浮かべた。
三人が着ていた衣装は未だにあるが、全て箪笥の肥やしになっている。
というか、その場合イオンとシオンの仮装は被ることになるが、良いのだろうか。

そんな事を話して、時刻が10時を回ったところで全員解散となった。
三人がベッドに潜り込む為に部屋に行ったのを確認し、家中を回ってガスや電気がきちんと消えているのを確認してから私も自室へと足を運ぶ。

ベッドにもぐりこみながら明日は100均でハロウィンの小物でも買って、ついでに小さな三角帽でも三人に買ってやろうか。
お菓子はクッキーかケーキか、そんなに凝ったものは作れないだろうからスーパーあたりで出ているであろうハロウィン限定の菓子でも買ってくるか。
そうなると晩ご飯が入らなくなる可能性もあるが、たまにはそんな日があっても良いだろう。

そんな予定を頭の中で立てながら、私は幸せな眠りに着いたのだった。







ふと気付くと、私は妙な格好…いや、仮装をしていた。
白いシャツに丈の短い黒地のベスト、そしてカボチャを模したホットパンツを履いている。
ベストには蝙蝠やらデフォルメされたお化けやらバッチがじゃらじゃらと着いていて、足は何故かボーダーニッソに膝下丈のブーツ。
何だこれと思って身体を見下ろしていたら、髪飾りとしてついているらしいオレンジと黒のストライプのリボンが首筋を撫でた。

…仮装って言うよりコスプレの域だな、これは。
一人げんなりとしながら周囲を見渡す。
白い霧が一面を覆っていて、自分が何処にいるか解らない。

それでも何とか現状を把握しようと背後まで振り返れば、うちで養っている三人のうちの一人の姿が合った。
私は、

黒いローブを着たイオンを見つけた

マントを翻したシオンを見つけた

耳を生やしたシンクを見つけた


Novel Top
ALICE+