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「恵ちゃん、この後暇?暇だよね〜」
開口一番の失礼な言葉にも慣れた。前々から慣れる感覚はあったが、高専に入学する一週間前で既に慣れてしまった。何を言われても無の境地で佇む。そうするとつまらないだとかなんとか言って、他に関心を移す。それが俺が得たライフハックだった。
「ねえ恵ちゃん、話聞いてた?」
「……あいにく暇じゃないんで他を当たってください。真希さんとかいるでしょ」
「やっぱり話聞いてないじゃない。恵ちゃんじゃなきゃダメなんだって」
食い下がるよるさんに思わず一歩後ずさる。よるさんは確かに人を引っ掻き回すことを趣味にしている節がある。でも、あまりにも脈がない場合は不意にいなくなる人だ。特に、俺にはそうだった。この人に拒絶をされたことだってある。高専の窓から風が入りこむ。三月の春風は風圧ばかり荒く、なんの配慮もない。よるさんが俺の手を取る。なんでとか、いい加減してくださいよとかそういう言葉はすっかりどこかに流れて言ってしまう。
春の小さな嵐に乗って桜の花びらが、まだワックスで反射する教室の床に落下した。

23.01.31