present






「ねぇ、勝己ってば……謝る、から……」

「……うるせぇよ。」

ぶっきらぼうな言葉とは裏腹に、落ちてくるキスは、怖いくらいに優しかった。



さっきまで出久と話していたのに、気付けば私は勝己の部屋のベッドに押し倒されていた。

どこからか持ってきたベルトの金具がカチャリと鳴って、私は思わず身を強張らせる。


「な……ちょ、勝己っ!?」

予想通り、そのベルトで私の両腕が留められた。

まるで逃げ場も抗議も、封じるように。


けど。

ほんの一瞬、ベッドの軋む音と共に降ってきた勝己の吐息は、あまりにも近くて、熱くて。


「……隣、いるから。声抑えろよ。」

「なに……言って、んっ……!」


服の隙間を、迷いも遠慮もなく指先が這う。

理性よりも先に、甘く息が漏れた。言いかけた言葉の最後が、熱に溶ける。


「っ……かつ、き……だめ、そこ……っ」

「うるせぇ。……静かにしろ」

その口調は冷たいのに、肌に落ちる手つきはあまりにも丁寧で、優しすぎて。

いつものように怒ってるだけじゃないと、触れられてすぐに分かってしまう自分がいた。


どんどん上にくる手が、探し物を見つけた様に一度通り過ぎてからその場所へ戻ってきた。

「ひっっ……!?」

キュッといきなり摘まれたその頂に、体がビクッと跳ね上がる。

思わず声が漏れそうになって、私は下唇をギュッと噛んだ。

するとすぐ、「チッ……」と、そこそこの音量で舌打ちが響く。


「てめぇ……っ、なんで……下着つけてねぇんだよ」

怒鳴るでもなく、でも確実に怒りで声が震えてる。

下から覗くその目はギラついていて、明らかに冷静じゃなかった。


「えっ……あ……」

勝己に言われて初めて、自分の今の格好を自覚する。


「ぁ、えっとー……」

時すでに遅し。

私の反応で全てを察した勝己の額に、ピキッと青筋が浮かぶ。


「……ッッ、ふざけんなよ……誰に見せてんだ、コラ」

「んんぁっ..ご、ごめっ...謝る!謝るから、コリコリだめっ..んぅっっ..」

「謝ったって、この事実は変わんねえだろ。淫乱女がっ」


Tシャツを上までめくり上げられ、下も短パンごと下着が一気に引き下ろされた。

彼は膝立ちで私の腰を挟み、じっとこちらを見下ろしてくる。

まるで全てを見透かすようなその視線が怖くて、恥ずかしくて――

身を隠したくても、縛られた手じゃどうにもならない。


無意識に息が浅くなる。



「……なぁ、お前。俺がどれだけ怒ってんのか、わかってんのか」

その声は低く、熱を孕んでいた。

怒っているはずなのに、どこか寂しそうにも聞こえるその言葉が、胸の奥にじんと突き刺さる。


「っ..ごめんなさ..あんっ...あっあっ..それ、きもちぃっ..んっ..」


ギュッと勝己の大きな手が私の両胸を真ん中に寄せ、二つの乳首を同時に舐めてきた。

わざとらしく音を立て、赤い舌でチロチロと舐める姿は官能的で下腹部が無意識に疼いてしまう。


甘い声が漏れそうになるのを必死に奥歯で食いしばって堪える。

けど、疼くような感覚がどうしようもなくて、私はほんの少しだけ、声にならない願いを目に込めた。

それに気づいたのか、胸元へ触れていた勝己が視線をこちらに落とす。


その目には、さっきから変わらない苛立ちと、いつもの、それ以上に熱を帯びた色。


私の呼吸は更に浅くなる。

「……花。勘違いすんなよ。これは“お仕置き”だからな」



低く囁かれたその声は、ぞくっとするほど冷たくて、それでいて、どこまでも甘かった。


「……お前が、俺を怒らせた罰だ。忘れんな」

彼の顔がふいに近づく。

耳元で、喉の奥で笑うような息がかかって――


「だから今日は、優しくしてやるよ。……死ぬほどな」



その言葉に、心臓が跳ねた。


「っ……は、ぃ」

反射的に返事をしてしまった自分が、恥ずかしくて情けなくて。

その直後、下の方で感じた熱と湿り気に思わず目を伏せる。


私って……こんな変態だったっけ?




.




それから勝己は、本当に、宣言通りに最後まで“優しかった”。

乱暴な言葉とは裏腹に、指先ひとつ、視線ひとつまで、まるで宝物を扱うように、丁寧で、優しくて。

気がつけば、時計の針はとうに大きく進んでいた。


セックスの前にちらっと見たときはまだ7時だったはずなのに、今はもう11時を回っている。

「……4時間も?」

ぼんやりとした頭で呟いて、柔らかいベッドに沈み込む。



肌に残る熱と、彼の痕跡だけが、現実感を持ってそこにあった。

勝己は今、キッチンに水を取りに行っている。

私はベッドの中、静かな天井を見上げながら、いつもと違う彼の優しさを思い返していた。

それが嬉しくて、でも少し怖くて。



ほんと。

だめだって、わかってるのに。

わかってるはずなのに。



…それでも、やっぱり、一度知ったからには何度も思い返して求めてしまうんだなぁ。



自分でも、どうかしてるってわかってるのにね。


ごめんね勝己。


そう心の中でつぶやいて、私は重たくなった瞼を閉じた。








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