present






ドガンッ!!



派手な爆発音が部屋に響き渡った。

反射的にそちらへ目をやれば、扉の前に爆豪が立っていた。

「……おいゴルァ。クソ変態舐めプ野郎。花から離れろや。」

その声音には、底が見えねぇほどの怒気が滲んでいた。

一瞬で、俺の中に溜まっていた熱が冷めていく。

正直、今まで見たことがねぇくらい怒ってる。流石に俺も背筋が冷たくなる。


「んん〜?あ、かっちゃ〜ん!」

「……っ」

次の瞬間、天乃が俺の頭をぎゅっと抱き寄せ、甘ったるい声で爆豪を呼ぶ。

だがその仕草はどう考えても火に油だ。

嫌な予感しかしない。恐る恐る爆豪の顔色を伺う……。



「……花。」


意外なことに、爆豪の表情は穏やかだった。

いや、穏やかに“見せかけている”だけかもしれない。

口元は笑っているのに、目だけが異様に静かで冷たい。

その違和感に背筋が粟立つ。



「花、こっち来い。」

低く抑えた声。
だが、その一言の中に、確実な命令と怒りが込められていた。


「え?ん〜……やだ! とろろきくんがいい!ねぇ〜?」

きゃっきゃと楽しげに声を上げながら、花は俺の頬に頬を擦り寄せてきた。

その無邪気な甘え方は状況的にどう考えても最悪だ。


「……っ」

ボンッ!!

爆豪の手の中で何かが弾けた。

小さな爆発音だが、俺にはわかる。



……完全に怒ってる。




「……お“い”。今すぐ、そいつを置いて出ていきやがれ……」

低く押し殺した声。

けれどピクピクと震える眉と、眉間に浮かんだ青筋が、爆豪の怒りが限界寸前だと物語っている。


「やっ! かっちゃん、お顔怖いの、だめ!!」


天乃がピシッと爆豪に指を突きつける。

その瞬間、爆豪は踏み出しかけた足を止め、ギュッと唇を結んだ。


「わたし、怖いかっちゃん、嫌い!」


ぷいっと顔を背けて頬をふくらませる彼女。

まるで子供の駄々のようで……俺は未だに、この状況をどう受け止めていいのか分からなかった。


「……ちっ。クソが」


吐き捨てるような爆豪の声。

その音が、部屋の空気をさらに張り詰めさせた。


完全に消えた“穏やかそうな顔”は、いつものようにキレ散らかした爆豪の顔に戻っていた。

赤く揺らめく瞳が一瞬だけ俺を射抜いたあと、すぐに天乃へ戻る。

その間も、天乃は無邪気に俺の髪をいじりながら、子供のように笑っていた。

場の空気との落差が、余計に不気味に感じられる。


「……おい。そのまま押さえとけよ。」

「は?なにを――っ!?」


爆豪はドカドカとこちらへ歩み寄り、次の瞬間、自分の口に何かを含むと同時に天乃の顔をぐいっと掴んだ。


強引に――

そしてためらいなく、唇を重ねる。


「んんっ……っ、ぁ……ぅんんっ……」


部屋に響く水音。

俺は思わず目を見開いた。


時折、唇の間から覗く赤い舌。

絡め取られるように蕩けていく天乃の表情。


その光景を前に、喉が勝手に鳴った。



「ん、んうぅっ……!」

俺の肩を掴む天乃の指先が強まったかと思うと、彼女の体が小刻みに震えた。

その瞬間、爆豪はあっさりと唇を離し、繋がっていた銀糸を慣れたように舌で拭った。


「……クソが。感度バクってんじゃねぇよ。」


小さなその声は、俺の耳にしっかり届いた。

胸の奥で、何かがざらりと波立つ。


「ば、くごう……」


呟いた俺の声に、爆豪の眉がぴくりと動く。


「あ“ぁ”?てめぇはいつまで突っ立ってんだ!とっとと失せろや!!」

「……失せろって言われてもな。」


そう返しながら、俺は腕の中の天乃に視線を落とす。

浅い呼吸を繰り返しながら、ぐったりと俺に身を預けている天乃をこの状態で“置いて出ていけ”なんて、できるわけがない。


「見てんじゃねぇよ……!」


苛立ちを隠そうともせず吐き捨てると、爆豪は俺の腕から天乃を器用に奪っていった。

そして"また"慣れた様にベッドに寝かせ、泥にまみれた髪を一撫する仕草。


「……花」と名前を呼ぶ声は、さっきまでの荒れ狂う怒声とは別人のように柔らかい。


俺は、初めて見た。

爆豪勝己が、こんな顔をするのを。




それから爆豪は俺を鋭く睨みつけたかと思うと、凄まじい勢いで背中を突き飛ばしてきた。

気づけば俺は廊下に放り出されていて、背後でバタンッと扉が閉まる音。

続けざまにガチャンッと鍵のかかる音が響き、しばし呆然と立ち尽くした。


……扉、壊れてなかったのか。

妙にどうでもいいことが頭をよぎる。



「おい、ばく――」

言いかけたその時。

「轟くん!!!」


名前を呼ぶ声に振り向くと、エレベーターの方から緑谷が息を切らして駆けてきた。


「はぁ、はぁ……花ちゃん、は、大丈夫だった?」

「……大丈夫かは分からねぇが、さっき爆豪がきて……」

「えっ!?あ、なんだぁ……じゃあ大丈夫だね!」


その一言に、緑谷はほっと息をつき、その場にへたり込んだ。

俺は首を傾げる。

どうして“爆豪がいる”ってだけで安心できるんだ?

さっきまでの光景を見てしまった俺には、その理屈が全く理解できなかった。


「あ、いや……えっとね!」

緑谷は顔を真っ赤にして、必死に言葉を繋げていた。

「花ちゃんって、個性を使いすぎると倒れちゃうんだけど……その後遺症みたいなので、子供みたいになっちゃうっていうか……いや、子供っていうか……やらしくなるっていうか……!と、とにかく、大変な状態になっちゃうんだ!!」

額にまで赤みを浮かべ、しどろもどろに説明する緑谷。

その必死さは伝わってくるが、言葉を選べていないあたりが、実に緑谷らしかった。


俺は思い当たる場面が多すぎて、ただ静かに頷いた。

たしかに、さっきの天乃は……子供のようでありながら、妙に妖艶で、理性を掻き乱す何かがあった。


「それで……睡眠薬を飲ませて、ちゃんと眠らせないといけないんだ。でも……かっちゃんが来たなら、多分大丈夫だと思う。」


緑谷の言葉に、俺の脳裏にあの光景が蘇る。



……あれは、ただ薬を飲ませただけなのか。

それにしては、妙に熱のこもったキスじゃなかったか?


「……緑谷。幼馴染って……普通、キスするのか?」


自分でも妙な質問だと思った。けれど、聞かずにはいられなかった。


「え?……え、ええぇぇぇ!?な、ないないない!!」


緑谷は両手を振り回し、顔をさらに赤くする。


「そ、そりゃあ……小学生の頃、花ちゃんが今回みたいに倒れちゃって……その時に、キスされたことはあるけど!でも、普段は絶対しないよ!!恋人でもないんだし!」


……緑谷、今さらりと暴露したな。

だが、今はそれよりも。

爆豪の行動は、本当に"幼馴染だから"、"好きな相手だから"で済むのか?


思い返すだけで、胸の奥がざわつく。

この日から、俺は、2人の関係について疑問を抱く事になった。







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