「そういう事で、緑谷。よろしく頼んだぞ。」
「あ、はい……。」
な、なぜ僕なんだ。
なんでよりによって僕なんだ!
いくら幼馴染とはいえ、こんな役回り、普通ないよね!?
「いずくん? いずくんおっきぃ! なぁんで!」
「おい、花、デクに近づくんじゃねぇよ!」
「や! かっちゃん引っ張らないでよ! いずくん助けてぇ!!」
あ、ああぁぁ……やばい。
やばいやばいやばい。
何これ、めちゃくちゃ可愛いんだけど!!!!
ちっちゃな手で僕の右手をギュウッと掴んできて、その必死さが指先から伝わってくる。
花ちゃんがこんなふうに僕にしがみつくなんて、いつぶりだろう。
なんか知らないけど花ちゃんとかっちゃんが2人で居た所に、個性事故にあって1週間近く若返ってしまうとかなんとか先生に説明を受けた。
流石に作者のご都合主義というか何でもありだなって思っちゃったし、別に僕は何でもいいんだけど、兎に角小さい時の花ちゃん本当に可愛い。
あの時のまんまだ、やばいよ、これ。
しかも、かっちゃんは相変わらず花ちゃんにベッタリで、ちょっと邪魔だよって思っちゃう自分がいる。
……いや、今なら僕でも勝てるかも、なんて。
「か、かっちゃん……花ちゃん嫌がってるし、離してあげようよ。」
まぁでも、やっぱり強く出られないのが僕だ。
「あぁ!? デクのくせに俺に指図すんじゃねぇ!!」
「え、うわっ!?」
BOOM!!!
威力は弱いけど、顔面に食らった小爆発で一瞬よろける。
……かっちゃん、小さい時から本当に凶暴すぎない?
忘れてたわけじゃないけど、こうして改めて見ると“安定のかっちゃん”すぎて、逆に笑えてくる。
「かっちゃん、いずくんを虐めないでぇー!!」
「うるせぇ! いいからデクから離れろやぁ!!」
.
「 「 ええぇぇぇぇぇぇ!?!? 」 」
全員の声がハモった瞬間、僕は「あ、僕も職員室で同じ反応したなぁ」と苦笑いしながら、後ろに隠れている花ちゃんとかっちゃんをそっと皆の前へ出した。
「……という事で、1週間はこのままらしいんだ。」
小さくなった2人を寮まで連れてきて、談話スペースにクラス全員集まってもらったところで、僕は先生から聞いた経緯を説明した。
どこからか「なんて都合のいい個性事故だよ……」という声が聞こえてきて、内心「だよねぇ」と頷く。
そう思うの僕だけじゃなかったんだなって、ちょっと安心する。
「花かっわいぃ〜!」
「緑谷さんの後ろから出てきませんね、人見知りするタイプでしたっけ?」
「花ちゃん、美味しいお菓子あるわよ。」
女子たちに囲まれて、絶大な人気を集めるチビ花ちゃん。
こうなるのは何となく予想してたけど、当の本人は大勢のお姉さんたちに詰め寄られてちょっと怖いんだろう。
本来人見知りしない子のはずだけど、僕が前に出してもすぐに後ろに回って、ズボンの裾をギュッと握ったまま離さない。
あぁ、なんて愛らしいんだろう。
それに比べてかっちゃんは──
「おい、この中で1番つえーヤツ誰だ!」
「おぉ、爆豪って小さい時から暴君だった感じ?」
「でも今より幼い分、顔は可愛いなぁ。」
「あぁ!? 誰だ今俺を可愛いって言ったやつ!!」
切島くんたちに囲まれながらも、かっちゃんは相変わらずの爆豪節全開。
その姿を見て、あっちは大丈夫そうだとちょっとホッとする。
……かっちゃんのことは彼らに任せておこう。
「なぁ、緑谷……。天乃、抱っこしてもいいか。」
突然、低い声でそう切り出したのは轟くんだった。
さっきからずっと少し離れた場所でソワソワと様子を窺っていたみたいだけど……やっぱり我慢できなくなったんだろう。
僕の正面まで歩いてきて、花ちゃんと視線を合わせるように静かに屈み込む。
その真剣でキラキラした瞳で僕に聞かれても、決めるのは花ちゃんなんだよね。
「うーん。花ちゃんが良いって言えば、良いんじゃないかな。」
「そうか。……天乃、こっちおいで。」
轟くんがすっと大きな手を差し出すと、花ちゃんの肩がピクリと揺れた。
やっぱり怖がるかな、と一瞬心配になった。
けれど彼女は予想に反して、小さな体を僕の後ろから出すと、両手をそっとその掌に重ねてみせた。
「お……。」
「 「 おぉ! 」 」
これは手を重ねられた本人も、周りにいた女子達も皆驚きだったようで一斉に声が重なる。
「おてて、おっきぃの。お兄ちゃん、だぁれ?」
「……俺は、轟焦凍だ。」
「とろ、とろろ? とろろき?」
「っ……おま、その呼び方……!」
轟くんの表情が一瞬で崩れ、みるみるうちに耳まで赤く染まっていく。
空いている方の手で顔を覆い、俯いてしまった。
何を思い出したのかは分からないけど、多分彼の中で“とろろき”は別の記憶を呼び起こしたんだろう。
……僕は何となく察してしまったから、何も言わずに見守ることにした。
そんな彼の頭に小さな手が触れた。
顔を上げた轟くんのある一点を見つめるその大きな瞳。
「とろろきくん、いたいいたい?」
「ん?……あぁ、いや、これはもう大丈夫なんだ。怖いか?」
首をかしげる花ちゃんに、轟くんは落ち着いた声で返した。
子供の純粋さって時に本当に恐ろしい。
よりによって轟くんの顔の火傷に真っ先に突っ込んじゃうんだから。
仕方ないとはいえ、ここにいる皆が事情を知るわけじゃないから、何となく気不味い空気が流れてしまった。
けど、轟くん本人が全く気にしていない様子で自然に会話しているおかげで、その空気もふっと消えていった。
むしろ――
「うーうん。怖くないよ!だって、とろろきくんカッコイィもん!」
チビ花ちゃんは自分で言っておいて、ポッと頬を染め「わあ、言っちゃった!恥ずかしい〜!」と両手で顔を覆った。
一気にポワ〜ンとした優しい空気に切り替わって、みんなも思わず笑ってしまう。
「花って、もしかして小さい時は魔性の女だった?」
「えっ……いや、まぁ……幼稚園では皆花ちゃんの事好きで、行事毎ではツーショット列が出来てたくらいかなぁ……。」
「うわぁ。でもあれは確かに、ウチでも可愛いって思うわ。」
「爆豪くんのガードが無い人生だったら、花ちゃんヤバかったんちゃう?」
多分その通りだ。
いつからだったか忘れたけど、気付いた時にはもう既に“かっちゃんガード”があって、そのおかげで今日まで花ちゃんは変な男に捕まることなく平和に過ごしてきた。
「天乃、蛙吹がお菓子くれるそうだが食べるか?」
「……あす?」
「私よ、花ちゃん。梅雨ちゃんって呼んでちょうだい。」
「花!私は三奈だよー!」
「私は透ね!」
気付けば花ちゃんは、いつの間にか轟くんの腕に抱きかかえられていた。
「私は!私は!」と舌足らずな声で自分の名前を呼んでほしがるクラスメイト達に、チビ花ちゃんはきょとんと目を瞬かせる。
「うぅ……みんな、花のおともだち?」
小さく呟きながら、ぎゅっと轟くんの胸元に顔を埋める。
その合間にチラッとみんなの顔を確認する仕草が、もう反則級に可愛くて。
あちこちから「ズキューン!」って心臓撃ち抜かれた音が聞こえた気がする。
もちろん、僕もだ。あの潤んだ瞳は、ほんとずるい。
「天乃、みんなお前の友達だ。怖くないぞ。」
「……花のお友達は、みんな花のこと、お名前で呼ぶもん。とろろきくんは、お友達じゃない……?」
「え、それは……。」
あぁ……轟くん、固まっちゃった。
これはハードル高いよね、急に名前呼びなんて。
「花。」
「えぇ、普通に呼んだ!?」
「へへ、じゃぁみーんな花のお友達だぁ!」
チビ花ちゃんは嬉しそうにぱぁっと笑って、はしゃいだ。
その無邪気さに、僕の胸はキュッと締め付けられる。
……これ、本当にやばいな。
僕の心臓、一週間もつんだろうか。
そんな風に皆がチビ花ちゃんにメロメロしていると、切島くん達に囲まれていたかっちゃんがズカズカとこちらにやって来た。
自然と皆の視線は花ちゃんからかっちゃんへ移るけど、やっぱり彼は違う。
複数の視線を受けながらも、堂々とした立ち姿は小さくなっても全くブレなくて、むしろ勇ましく見えるくらいだった。
「おい、あかしろ野郎!花を離せ!!」
「いっ……何すんだよ爆豪。」
「花とベタベタしてんじゃねぇ!!」
ゲシッ、ゲシッ。
かっちゃんの小さな足が、容赦なく轟くんの脛に突き刺さる。
子供の姿になっても攻撃の精度は相変わらずだ。
……というか、赤白(あかしろ)野郎って。いや、確かに髪は赤と白だけどさ。
流石に小さいかっちゃんに怒れないのか、渋々花ちゃんを床に下ろす轟くん。
そこに割って入ったかっちゃんは、まるで騎士みたいに小さな体を張って花ちゃんの前に立ちはだかった。
「かっちゃん、花のこと守ってくれてるの?でも皆、花のおともだちだって、とろろきくん言ってたよ!」
「ふん。こんなデケェやつら友達な訳ねぇだろ!いいから俺の後ろに居ろや!」
「む。怒鳴るかっちゃん、きらい!もっと可愛くして!!」
「っ……可愛く?」
「そお!こうやって、お口を上にあげるの!」
ぷに、と指でかっちゃんの口角を持ち上げる花ちゃん。
これは、さすがに皆も面食らっていた。
されるがままのかっちゃんは、顔を真っ赤にして固まっている。
怒っているのか照れているのか分からないけど、僕の予想は……照れてる、だな。
あんな近距離で見つめられたら、そりゃぁね。
「へへ。笑ってるかっちゃん好き、かぁいい〜!」
「……そうかよ。」
「うん!あのね、守ってくれてありがと!」
小さな手をぎゅっと握り合う二人。
その光景に、談話室の皆が一斉に「尊いもの」を見る目になった。
2人の愛らしいやり取りを見守っていれば、寮の玄関がガチャリと開く。
「…全員揃ってるな、ちょうど良い。」
「相澤先生?」
「そこの二人についてはもう聞いたようだな。なら話が早い。」
突然の相澤先生の訪問は、2人を一週間どうするかという話だった。
@平日の日中は保健室でリカバリーガールが見てくれるので、登下校だけ必ず誰かが付き添う事。
Aこの個性にかかっている間、1日に使われる体力がかなり多いそうなので、睡眠はちゃんと取らせるように、20時、21時には就寝させるようにとの事。
B 先日の授業で倒れた事もあり、体力面では花ちゃんは特に心配だから、常に誰かが側にいる事。
「以上3つだ。……そういう事で、天乃に関してはすまないが交代ででも見てやってくれ。あと、爆豪は……。」
「あ?んだこのオッサン」
「……好きにさせてやれ。」
ズコッ
その場の全員が見事にずっこけた。
今、先生の心の声が「こいつ本当に若返ってんのか?」って響いた気がする。
こうして、小さくなった花ちゃんとかっちゃんの、波乱に満ちた一週間が幕を開けたのだった。
書きたかったんです!チビになる話を!!
ちょっとお付き合いください!!
ちゃんとエチエチ話組み込む予定(むふふ)