「とろろきくん!みてー!花ね、ライオンさん出せるの!!」
ニコニコと可愛い笑顔を見せる天乃。
いや──...花。
その両手にはとても小さなライオンがいて、薄っすらと光を放っていた。
恐らく個性で出した子ライオンだろうか。
なんだかぬいぐるみみてぇだ。
「あぁ、凄いな。これは、何の星座なんだ?」
「え?えっと...しし?レオってパパが言ってた!」
...獅子座か?
動物園にいるライオンを思い浮かべ、ライオンって獅子と一緒なんだったか、全く違うんだったか..
1人でそんな事を考えていれば、キャッキャと子ライオンと布団の上で遊んでいる花。
その姿が可愛くて、もう寝かせなきゃならねぇのにずっと見ていたいと思っちまった。
「あとね、ひつじさんも出せるんだけど...ライオンさんと一緒にだすと、花しんじゃうんだって...だから今日はライオンさんだけ!」
「ん...?それは、どういう意味だ?」
「え?だからね、ひつじさんは出せないの!」
「いや、そうじゃねぇ。いっぺんに出すと、花は....死んじゃうのか?」
「う?...うん。パパがライオンさんとひつじさんを一緒に出すと、倒れてしんじゃうって!だから、いつも星のお友だちは1人しか呼べないの!」
....なるほど。
花は大きくなっても体力がないせいか、星座の力を2つしか出せない。
先日倒れたのも、無理して3つ目を出したからだ。
つまり小さい時の限界は1つだったって事だろう。
だから2つの星座を出すと倒れてしまうというのを、恐らく父親が大袈裟に言ってセーブしている....と言ったところか。
「......成長するに連れ、2つも同時に出せるようになったんだな。凄いな。」
ポンっと小さく形のいい頭を撫でる。
彼女は俺の言葉に首を傾げるも、頭を撫でられるのが嬉しいのか、口角を上げ目を細めた。
そしてすぐに大きなあくびを一つ溢した。
「うぅ..まだあそびたぃ....。」
そう言って数歩俺に近づくと、ガバッと俺の胸に飛び込んできた。
グリグリと額を擦り付け、う〜と唸る姿に俺の中で我慢していた何かが溢れそうになる。
流石に、ちょっと可愛すぎねぇか...。
これが大きくなった花だと考えたら、どうにかなっちまうんじゃねぇか...。
というか、多分間違いなく襲っちまってる。
「とろろきくん...ねむたぁい.....」
「っ...寝るか?」
本当に眠たいんだろうな..。
徐々に俺の胸元を握る手の力が無くなっていくのを感じ、彼女の眠気が限界な事に気付く。
名残惜しいが、自分から引き剥がしそっと体を抱き上げる。
敷いておいた布団へ寝かしつければ、閉じていた瞳が薄っすら開いた。
「とろろきくん、おやすみのチュゥして、おててはギュってしてほしいの。」
「はっ。」
突然の注文に掛け布団をかけようとした手が止まる。
いくら何でも、そのお願い事はどうなんだ。
パパはいつもしてくれるの。と追加で言われるが、返答に迷う。
バクバクと落ち着きかけた心臓が煩く鳴り始める。
流石に...だめだろ。
でも、花からキスを強請ってくるなんて...子供とはいえ嬉しいのは間違いねぇ。
どうするか葛藤する気持ちも知りもしない花は、ムッと唇を突き出してきた。
その顔は、どう見ても子供のそれなのにカッと顔が熱くなる。
..いいんだよな。
これはただ子供を寝かす前のおやすみのキスなわけで、そういう意味のキスじゃねぇ。
そう自分に言い聞かせる様に心の中で呟く。
「....フー。」
高鳴った胸の鼓動を抑えるように胸に手を置き、深く息を吐く。
視線を花に向けると、まだ?と言いたげな瞳がそこにあった。
俺はそっと顔の横に手を付き、半身だけ花に覆い被さる様な姿勢をとる。
──ちゅっ。
触れるだけのキスを一つ落とし、離してすぐ2回目のキスを落とす。
今度は離すことなくその感触を味わう。
チビ花の唇は柔らかくて、少ししっとりしてる。
…"あの時"初めて知った、花の唇の感触とは全然違うのに不思議と同じだと感じた。
いや、同じ人だから合ってはいるんだけどな...。
それにしても、この唇...
小さすぎて一口で食べれちまうな。
その後の俺の行動は無意識だった。
ただくっ付けていただけの自分の唇で、花の小さな唇を数回挟んで遊んでしまった。
「わっ..な、なぁに?」
「っ....悪い!」
驚いた花の声にハッと我に帰ったが、途端に自分のした事に恥ずかしくなった。
こんな子供相手に何を...。
いや、でも、だから子供とはいえ花なんだよな。
──これ以上は良くねぇ。
そう思い改めて花に掛け布団を掛ける。
「うぅ、とろろきくん、花の事食べる?」
掛け布団に顔を半分隠しながらコチラを見る花。
怖がらせちまったか...。
「いや、悪い。ちょっと..遊んじまっただけだ。食わねえから安心してくれ。」
「んん〜...ほんと?」
「あぁ。ほんとだ。」
「....へへ、分かったぁ!あ、あのね、とろろきくん。花ね、おやすみのチュゥって初めておくちにしてもらったの!パパはいつも花のほっぺたにしてくれるんだけどね、とろろきくんは、いつもおくちなの?」
「えっ....。」
ほっぺた...。
あんなに口にしてくれってアピールしてたのに、頬で良かったのか...。
やべぇ、やっぱすげぇ恥ずかしくなってきた。
何勘違いしてるんだ俺は。
「とろろきくん、おててギュッてして。」
「あ、あぁ。そうだったな..。」
差し出された小さな手を握れば、満足気に微笑んでくれた。
その直ぐのことだ、スゥスゥと花は寝息を立て始めた。
「...小さくなっても、花には心をかき乱されてばっかりだな。」
ポツリと呟けば、ふと横から視線を感じた。
そちらへ目を向ければ、子ライオンがジッと俺を見ていた。
姿勢こそお座りの状態だったが、まるで見張っているような感じがした。
こうして動かないでいるところを見ると、本当にぬいぐるみにしか見えねぇな。
...寝ている主のボディガードってことか?
「流石に何もしねぇよ。自分で戻れるのか..?そのままだと花の体力が回復しねぇだろ。」
俺の言葉が通じているのかは分からないが、子ライオンはスッと立ち上がると花の額に自分の額をコツンと合わせた。
その瞬間、子ライオンが光の粒子となり徐々にその姿を消していった。
最後まで愛しそうに花の顔を見つめていた子ライオン。
あまりにも神秘的で美しい光景に、俺は最後の光の粒が消えるまで黙って見惚れていた。
花の個性は、本当に不思議だな。
「...俺も寝るか。」
花がもし夜起きた時に、怖くない様に枕元のスタンドライトを少しだけ暗めに調節する。
なるべく音を立てないよう。そして繋がれた手が離れない様に、慎重に隣に敷いていた自分の布団に潜り込む。
体制をいい位置に整えると、チビ花の寝顔をジッと眺められる。
むにょむにょと動く唇に、どんな夢を見ているのかと声を出して笑いそうになった。
いつもならすんなり寝れるが、時間が早いということもあるのか、こうして誰かと手を繋いで寝るなんて、俺の中の記憶にほぼないと等しく、だからこそ左手に感じる温もりに違和感があって寝れないのか...。
どちらにせよ、今日は寝ずにこの顔をずっと見ていたいとすら思っていたから寝なくてもいい気がしてきてしまった。
「んぅ...まま...」
「....はは、ママじゃないけど俺が側にいるぞ。」
コロンと転がってこちらに顔を向けた花。
そういえば、チビ花になってからママと言うのを初めて聞いた気がする。
起きて話している時はずっとパパ、パパと言っていたから、もしかして父子家庭なのかと思っていたが、そうではないのか。
「ママ...あいたぃ...」
「......。」
こればっかりは他人の家庭の話で、勝手にあれこれ思うのは良くねぇか。
俺自身も、いい家庭環境とはいえない身だから、余計他人の家庭の話に首を突っ込むのは少し憚られた。
でも...。
「ママに、会えるといいな。」
小さな女の子のその願い、叶うといいなと。そう思うだけは許して欲しいと思った。
そんな穏やかな空気が流れる空間で、俺もなんだかんだ眠たくなってきた。
段々と重たくなってきた瞼を、抵抗することなく閉じようとした。
その瞬間だ──...。
ドンドンドンッ!!!
「っ...なんだ。」
「おい開けろ!!」
ドンドンドンッ!!!
「こら、静かにしろって!!」
凄まじい音でドアを叩く音と、廊下から聞こえる2つの声に眉を顰めた。
花に目をやれば、起きていないようだった。
けど廊下の騒がしさからして、起きるのも時間の問題な気がしてきたな...。
俺は仕方なしに、そっと花から手を離しドアへ向かった。
--ガチャ
「何の騒ぎだ...。」
「ん“ん”ー!!!」
「あぁ、わりぃ轟。ミニ爆豪が花におやすみだけ言いたいっていうから連れてきたんだけど、急に騒ぎやがってよ。」
そこには申し訳なさそうな切島と、切島に抑えられているミニ爆豪がいた。
そういう事かと理由を聞いて納得するも、俺に威嚇するよう暴れている姿はいつぞやの体育祭の爆豪を連想させた。
子供ながらすごい顔だな...。
ガブッ
「あ。」
「いっっっでえええぇぇ!!!!」
「おい花を出しやがれ!!」
爆豪が切島の指を思いっきり噛んだ。
くっきり見える指に残った歯形に、顔を歪める切島。
しかし爆豪を掴んでいる手は離さないところが切島でいう漢なのだろうか。
あぁ。このままじゃ花が起きちまうな。
一旦部屋のドアを閉めるか。
そう振り返ろうとした時、俺の考えはすでに遅かった事に気付かされた。
「かっちゃん..うるさいよぉ」
眠そうに目を擦りながらテコテコ歩いてきた花。
やべ、起きちまったか。
「わ、わりぃ寝てたんか!」
「花!一緒に寝んぞ!!」
「ん〜?花はとろろきくんと寝るんだよ?かっちゃんは違うおへやでしょ?」
「あ“?おれが寝るって言ったら一緒なんだよ。」
「んー.........とろろきくん、かっちゃん一緒でもいーい?」
困り顔のチビ花がクイっと俺のズボンの裾を引っ張った。
そんな顔されて断るとか無理だろ...。
「はあ。仕方ねぇな。」
「えへへ、とろろきくんありがと!ほら。かっちゃんも、ありがとうは?」
「.......。」
「かっちゃん!」
「っ...ざっす..。」
花に腕を引かれ部屋に入っていった2人。
再度大きめな溜め息が思わず溢れる。
「あー、2人も平気か?」
「あぁ、寝るだけだしな。...指平気か?」
「結構ちゃんといてぇ...ちょっと冷やすわ!明日、一応朝様子見にくるな!」
切島の気遣いに礼を一言言って、その場は解散となった。
にしてもあの噛み跡、結構いってたな...。
エレベーターへ向かった切島の背を見ながら、明日の朝も痛そうだったら氷でも作ってやるかと考えた。
部屋に入り、入り口横の時計を見れば丁度21時を回るところだった。
先生に言われていた時間だ。
早く寝かしつけねえとな。
花みたいに爆豪も寝入りが早えといいんだけど、どうだろうか。
あの爆豪を、俺が寝かしつけられるか..?
そんなことを考えながら2人がいる薄暗い部屋へ戻れば、全くもって心配無用だった様だ。
「お。......子供って、寝るの早ぇんだな。」
ポロリと溢れた小さな呟きは、部屋の中にふわっと消えていった。
俺の目線の先には、仲良く手を繋いで寝ている2人の子供。
繋いでいるというより、もはや爆豪が花に抱きついてる感じだ。
「.........。」
こんな小さい時から爆豪は花が本当に好きなんだな。
今が5歳くらいだとして、単純に考えても10年以上同じ奴を好きでいるなんて爆豪らしいと思えた。
正直、花が俺の幼馴染だったとして、同じようにずっと片想いできたか...
考えても、即答できるような期間じゃねぇし、簡単に答えなんて出せないと思った。
それに考えれば考えるほど爆豪に対して色んな嫉妬心が生まれちまいそうだった。
「...おやすみ。」
ほんの少しだけモヤっとした気持ちを抱えてしまったが、小さくなった2人のあどけない寝顔には、自然と微笑むことが出来きた。
ちょっと長くなっちゃいました。
最後のとろろきの爆豪への嫉妬心とか俺が幼馴染だったら…という正直な想いを書いてる時、こいつなんて良い奴なんだ…と1人でしみじみしてしまった…。(お前がそうしている)
((やっぱりツートップ最高にしゅき…))⚪︎。。(´;ω;`)ココロノコエ