「……帰んぞ。」
「えっ……か、勝己!?」
最後のホームルームが終わって、教室がざわつき始めた頃。
その瞬間を狙ったように、爆豪が天乃のバッグを片手で引っつかみ、同時に腕もぐいっと引いて教室の外へ連れ出していった。
半ば強引に、けれど迷いのないその動きに、教室中が一斉に固まる。
見送るように呆然と目で追うクラスメイトたち。
彼女は引かれながらも、教室の扉のところでふと振り返った。
──なぜか、その視線は真っ直ぐ俺のところに向けられていた。
「花ちゃん、モテモテじゃん……」
「うん、あれは完全に嫉妬だな。」
彼女が連れ去られてから数秒。
自然と教室の話題は、彼女と爆豪に集中していた。
俺は小さく息を吐きながら、鞄に教科書をしまい始める。
「と、轟くん……大丈夫?」
声をかけてきたのは、緑谷だった。
その顔には、少しだけ心配そうな色がある。
「……ああ。想定の範囲内だ。」
「えっ、それって……?」
俺の返答が意外だったのか、彼の眉が驚いたようにクイッと上がった。
「爆豪が、俺と天乃を話させないように動くことくらい、予測していた。」
──だって、爆豪も俺と同じように、天乃が好きなんだ。
彼女を初めて意識したのは、本当にただの一目惚れだった。
言葉を交わす機会は少なかったけれど、いつの間にか俺の視界に自然と彼女が映るようになっていた。
それだけ見ていれば、気づくことも増える。
彼女は笑うとき、大きな目が細くなって、目尻に可愛らしい皺ができる。
口角が綺麗に上がって、歯並びの良い真っ白な歯がこぼれる。
──見た目だけで言うなら、完璧にタイプだった。
けれど、好きになったのは顔だけじゃない。
見た目とのギャップ。
口は悪いが、すげぇ仲間思い。
見ず知らずのやつが困っていれば絶対に放っておけず、手を差し伸べる。
……見ていて、勝手に心配になるくらい、"いいやつ"だった。
でもそんな彼女は、どこか天然で、抜けてる部分もある。
困ってる顔を見ることもしばしばあるが──
大抵、その隣には爆豪がいて、さりげなく手を差し伸べている。
緑谷と爆豪と天乃が幼馴染だってことは知ってる。
けれど、爆豪が彼女を見る目は、幼馴染という枠に収まるものじゃなかった。
俺と、同じだ。
「花ちゃんと、かっちゃん大丈夫かな……。あっ、ご、ごめん!」
「……何がだ。」
「いや……えっと、その、轟くんがいちばん気にしてるだろうし……」
戸惑いながらも俺の顔を窺ってくる緑谷に、また少しだけ息を漏らす。
あの二人が一緒にいること自体を気にしても仕方がない。
でも──
俺が告白したことで、爆豪は何かしらの行動を起こすだろう。
あいつのことはよく知らないが、そういう奴だと直感でわかる。
もし、あの二人がくっつくようなことがあれば……
それだけは、気がかりだ。