「はぁ……」
風呂上がり、喉が渇いたから一階の冷蔵庫まで水を取りに来た。
この時間はだいたい、みんな自室でだらけてるか課題かってとこで、誰もいねぇと思ってた。
けど──
ソファでひとり、ため息を吐いて座ってる奴を見つけてしまった。
……よりによって、半分野郎だった。
一気にテンションが下がる。
水のペットボトルを片手に、わざとドカッと音を立てて、向かいのソファに座る。
「……爆豪か。なんか用か?」
そのジトッとした目。嫌いだ。
人の顔を観察してるみてぇな視線。
花じゃねぇが、本当に何考えてるのか分かんねぇ。
無視して、ペットボトルの蓋を開ける。
「ぷはぁ……。お前、花にフラれたんだろ?」
わざと軽く言ったつもりだったけど、ピクッと肩が反応した。
図星か。
ちょっとだけスカッとする。
「……お前も、フラれてんだろ。」
「は?あ“ァ”?フラれてねぇよ!!」
握ったペットボトルから水がびちゃっと溢れた。
ああクソ、ムカつく。
平然装ってたのに、あの表情と口調のせいでカッとなった。
「……ってことは、告白すらしてねぇのか。意外と奥手なんだな。」
「っ……てめぇ……」
今度は逆に、図星を突かれたのはこっちだった。
黙り込んで、手が震えるのを抑える。
そう。告白なんか、してねぇ。
してねぇから、フラれたとか以前の話なんだよ。
沈黙を割るように、轟がふっと小さく息を吐いた。
「俺、天乃のこと……よく分かんねぇんだ。あいつの“夢”って、いつからああだった?」
「は? ……お前、あいつから夢の話聞いたんか?」
「ああ。正直、聞いた時は理解できなくて困った。……今もだけどな。」
花の夢。
──それは、俺とあいつが“セフレ”になった、あの始まりの夜に聞いた。
意味のわからねぇ、ぶっ飛んだ夢の話だった。
ーー2年前。中学2年の夏。
「あっ!」
学校帰り、うちにふらっと遊びに来た花が、読んでた漫画を急にバタンと床に置いた。
俺はベッドで寝っ転がってゲームしてたけど、音に気づいてチラッと視線だけ向ける。
花は勢いよく立ち上がって、何やら思いついたようにニンマリ笑ってた。
そのでかい瞳に、俺の姿がしっかり映ってる。
「勝己。私、大人の女になりたいの。」
「……は?なに言ってんだ、お前。」
外では蝉がミンミン鳴いてて、うるせぇくらいに夏真っ盛りだった。
それでも俺は、いつもの調子で流そうとしてた。
けど──
花が、カーテンを勢いよく閉めた。
部屋の明かりはついてたけど、差し込んでた日差しが遮られて、少しだけ空気が変わった気がした。
それがなんとなく引っかかって、怪訝そうに顔を向けた瞬間──
「私、ホークスに抱かれるのが夢なの!」
なんの前触れもなく、アイツはそう言った。
真剣な顔で。なのに、あまりにぶっ飛んでて。
「……は???」
頭の中に「?」が100個くらい並んで、口が勝手にそう返してた。
でも花は続けた。
「でね。ホークスのタイプって“大人の女”なんだって。ネットに書いてあった!で、大人の女ってつまり、セックス経験ある人って意味らしいんだよね!」
言いながら、アイツはベッドに上がってきた。
俺の足元から、にじり寄るみたいに。
花の制服のシャツは、第二ボタンまで外れてており、中のピンクの下着が、チラッと見えた。
本能的に目を逸らしたけど、その時にはもう、花の顔がすぐ近くにあった。
俺の上に覆いかぶさる形になってて、髪の先が頬をかすめた。
「だから、勝己。………私と、しよ。」
──一瞬、世界が止まった。