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一緒に気持ち良くなりましょうなんて言われてしまった。俺じゃないと嫌だと言われてしまった。そんな口説き文句を身長190越えの同性から言われても、正直、嫌な気分はしなかった。多分、いや、もしかしなくても盛大に絆されている。
だって俺は、首を横に振らなかったのだから。この兄弟がどこまで計算ずくだったのかは分からないが、結果としてリーチ兄弟の「陸の人間のセックス」をするために協力することになってしまった。この時点で俺の感覚がかなり麻痺していることに気付いて欲しい。今となってはもう諦めたけれども。
だが、リーチ兄弟の提案を受け入れる上で俺にも譲れない点があった。行為の最中に喧嘩をしない。この一点である。さっきみたいに俺を挟んで喧嘩されるのは俺が嫌だしとても心臓に悪い。それを守れるなら協力しますと言えば、二人は口を揃えて了承した。ほんとかな…。まあ守れないのであれば途中であってもやめるだけである。
いくつか取り決めをした後、ひとまずこのままジェイド先輩との行為を続けることに同意した。中途半端のまま途切れていたし、フロイド先輩としてジェイド先輩とはしない、というのは気が引けたからだ。俺も一人でこの兄弟で勃った息子を抜くのは虚しいし。が、それにやっぱりフロイド先輩が自分も混ぜて欲しいと言ってきたものだからどうしたものかと考えて。フロイド先輩にもう一度したら満足します?と聞けば元気よく頷いたので(ほんとかな)、ジェイド先輩と話し合いの末、文字通り俺の身体をシェアしてもらうことにした。上半身はジェイド先輩、下半身はフロイド先輩、という風に。あくまでも今は「ジェイド先輩の時間」だから、ジェイド先輩に上か下かどっちがいいかを選んでもらったのである。
そうして今。履いていたズボンはフロイド先輩によって文字通りすぽーんと脱がされてしまい、下着ももれなくずり下ろされてしまった。そして今までの行為の所為ですっかりと勃ち上がってしまった息子が飛び出す。それを見てフロイド先輩はうげえ、と思い切り顔をしかめた。
「うっわ、グロ」
「失礼な。自分にも同じの付いてるじゃないですか」
「オレのこんな赤黒い色してねーし。ビンビンじゃん」
「先輩のがピンクすぎるんですよ!大体こうなったの誰のせいだと思ってるんですか」
「オレ〜♡」
俺のツッコミにフロイド先輩はにこお、と楽しそうにその鋭い歯を見せて笑った。ほんとに機嫌がいいな。
「…と、ジェイド先輩もですからね」
「おや、ご機嫌取りですか?」
「(ご機嫌取りなのか?)いいえ、本心です」
言いながらすぐ隣の薄い唇に顔を寄せると、ジェイド先輩はどこか嬉しそうに目を細めた。頬に優しく触れる手が心地良い。
「小エビちゃん、オレともイチャイチャしてよぉ」
「先輩とはさっき充分したでしょ!」
ジェイド先輩と何度か触れ合うだけのキスを繰り返していると、フロイド先輩からジト目付きで不満を漏らされた。数分前の自分なら確実にイチャイチャしてないです!とツッコミも入れているはずなのだが、イチャイチャしてないと否定するのがめんどくさくなってきた。もう俺は駄目だ。
「フロイド、言ったでしょう。今は僕の時間ですよ」
「分かってるけどさあ。足りねーもんは足りねーんだもん」
「…………。」
自分の時間なのだからイチャイチャするのは当たり前だと言うふうに話すジェイド先輩に、む、とフロイド先輩は子供のように頬を膨らませる。一回イったのにまだ足りないのか。そんなこと言われても上半身はジェイド先輩に明け渡しているのでキスはできないし、かといってフロイド先輩をこのままにしておくのも絶対に良くない。うーん、何かできることはないものか、と今日一日突貫で詰め込んだ知識を漁る。しばらく無言で考え込んで、そしてピンと閃きが降ってきた。今日の俺、冴えてるぞ!
「…分かりました、」
「ナマエさん?」
「大丈夫です、上半身は使わないので」
これは中々にいい考えではないだろうか。怪訝そうな表情を浮かべるジェイド先輩に一言断って、胡坐をかくもうひとりに提案する。
「じゃあフロイド先輩、下脱いで俺に跨ってください」
「は?」
「足りないんでしょう」
きっと気持ちいいですよ、と続ければ、先輩は少し眉を寄せて黙った後、小エビちゃんがそー言うなら、とのろのろと下を脱ぎ始めた。この人が人に言われて何かをするのは嫌いと知っていたから聞いてくれるか少し不安だったけれど、意外にも素直に言うことを聞いてくれた。俺との行為が功を奏しているようである。
で。俺の目論見は当たった。結果大成功だ。
「ぁ、っん、っふっぁ、あっ」
ヘッドボードに背中を凭れかからせ、俺の上にはフロイド先輩がいて、そして横にはジェイド先輩がいてちゅーをしている。よく考えなくてもやばい絵面である。この絵面になることにしたのは他でもない俺なのだが。
「っは、ね、っぁ、小エビちゃんのちんこと擦り合わせるの、きもちいよぉ」
「っそれは良かった、ちょっと、あんま、激しくしないで、」
喘ぎ声にハートが混じって飛んでいる。俺が言った通りに下を脱いで素足を晒し、俺の上に跨ったフロイド先輩は(ちなみにかなり重い)、自身と俺のちんこを一緒にしてその大きな手でぐちゅぐちゅと扱いていた。さっきの俺とのアレで抵抗はすっかり無くなったらしい。もっととその先の快感を求めるように先輩の細い腰がゆるゆると揺れている。
「っは、ぅ、ン……っ(くそ…すげー気持ちいい)」
ぐり、と裏筋同士が擦れ合う感覚が気持ち良くて変な声が出そうになるのを腹に力を入れて耐える。お互いのちんこを擦り付けながら扱くという俺もフロイド先輩も気持ちよくなれる画期的な方法を思いついたので、先輩にはそれをして大人しくしててください、とお願いをしたのだが、これが中々、いや、かなり気持ちいい。気を抜けばすぐにイってしまいそうなのに、ジェイド先輩とキスをしながらだから尚更キツい。耳からはフロイド先輩の喘ぎ声、目には二人のエッチな表情も入ってくる。
ああ、同じ男なのにエッチだと思ってしまう俺、本当にやばい。童貞なので全然余裕が生まれない。提案を受け入れた以上、俺はこの人たちを気持ちよくしなければならないのに。
「っジェイド先輩」
「ぁ、ナマエさん、…」
頑張れ俺。気持ち良さでいっぱいの身体を動かして、キスの合間、唇が触れそうなほど近い距離のまま先輩を見遣った。フロイド先輩とは逆の、熱を含んだオッドアイと目が合う。身体を滑らせていた手を下へと持っていき、布越しからでも分かる熱を持ったそこをそっと撫でると、身体が僅かに強張るのが分かった。俺を呼ぶ声は、躊躇うような、けれど期待するようなそれ。躊躇いなんて今更だ。
「陸の人間のセックス…ではないですけど、前戯だと思ってもらえれば。ただ扱くだけですけど、気持ちいいことには変わりないですから」
「…ええ、分かっています。知識としてはある程度抑えてありますので、問題ありませんよ」
どうやら陸の人間の性行為に関しては理解しているようだ。まあ兄弟をけしかけた張本人なのだから当然だろう、と思いつつ。
「オナニーしたことあります?」
単刀直入にそう聞けば、先輩は瞬きをひとつした後に目を伏せ、ありますが、と言葉を濁しながらも続ける。
「片手で数えられる程度ですし、……どちらかというと処理としての意味合いが大きかったので」
「…フロイド先輩と同じですね、ホント勿体ないですよ、ソレ」
「……そうですね、フロイドを見れば分かります」
言いながら先輩は自分の片割れに視線を遣る。口元に笑みは浮かんでいるけれど、その表情は読めない。一方で視線を遣られた当の本人は俺の上で気持ちよさそうに顔を蕩けさせていた。そんなフロイド先輩と目がばちりと合ったと思ったら、何か言おうとその半開きの口が動く。
「小エビちゃ、っン、っちゅーしたい」
「え、っ」
眉を下げ、甘えるような声音でねだられて言葉に詰まった。尖った歯の隙間から覗く赤い舌が扇情的だと、そんなことを考える暇はあったがそれに返答する時間はなく。いやでも今はジェイド先輩の時間だし、と俺の返事なんて元々待っていなかったかのようにフロイド先輩は背中を丸め、唇を寄せてきた。
「んっんぅ、ん、っ」
ぢゅ、そんな音がしそうな程強く唇を吸われる。まるで中を弄ってくださいと言わんばかりに口を開けて、誘うようにべろりと俺の唇を舐めるものだから、半ばヤケクソで誘われるがままに舌を差し入れた。お互いの舌を擦り合い絡ませ合えば、腰がひくひくすると共にフロイド先輩からくぐもった声が漏れ出る。
「ン、っふ、んぁ、っこえびちゃ、っオレ、ぇっ……!」
「はっ、ぁ、…っ」
ぐずぐずになった声で俺に訴え、魚のように口をはくはくとさせる先輩はどうやら限界が近付いているようだが、残念ながら俺はまだイけそうにない。先輩が早漏なのか俺が遅漏なのか、俺的には前者の可能性に賭けたい。そんなことを考えながらは、と火照った息を吐き出しながらフロイド先輩を見つめる。その瞳には生理的な涙の薄い膜が張っていて、まるで黄色のビー玉みたいにきらきらとしてきれいだ。なんて、ふわふわと思考を漂わせ、快感に身を任せそうになったところで。
「っんぐ、ぇ、ジェイドせんぱ、っ!」
息つく暇もなくジェイド先輩に俺の顎を掴まれた事で現実に引き戻される。そして強い力で横を向かされ口を塞がれた。なんなんだ!
「は、っァ、ナマエさ、っふ、ぅ…ッ」
「ん、っんゥ、っう……!」
眼前で繰り広げられる口付けに興奮したのか、それとも自分の時間なのにフロイド先輩に邪魔されたからか。先程までの優しいキスは何処へやら、俺の唇に食い付くようなそれは荒々しい。歯を当てないようにはしてくれているみたいだけど、まるで捕食されているようだ。忘れてたけどこの人たちウツボの人魚なんだっけ…。なら、食べられないようにウツボの生態とか勉強しておいた方が良いのだろうか…、男同士の性行為について調べるのに必死でそういえば調べてなかったな……デスロールを喰らうのはごめんだ…。なんて取り留めのないことが頭の中をぐるぐる回る。ああ、ぼうっとして考えがまとまらない。キスのせいで酸欠気味になってきたのだろうか。
とりあえず今は早くイきたい。さっきから小さな快感ばかりが続いて、腰がもやもやとして落ち着かない。
視線を斜め下へと動かして、粘ついた水音の発生源へと目を遣る。大きさも色も違う性器がぬらぬらと光って扱かれる様は、視覚的にはとても毒だし間違いなく興奮材料の一つだが、決定打には程遠い。フロイド先輩の手の動きは気持ちいいけれど、達するには焦ったすぎる。つまり、
「っ、小エビちゃ、」
「は、……っ先輩、これじゃ全然イけないです」
つまり、俺がやるしかない。ジェイド先輩から唇を離し、フロイド先輩の手に自分の手を重ねる。何か言おうとしたのか、フロイド先輩が小さく口を開けるが、分かっているだろう、生憎こちらはもう待ってはいられない。
「ぁ、ぁあっ!」
先輩の高い声に混じって、ぐちゅぐちゅと大きな水音が耳に響く。しばらくそのまま先輩の手で扱いていたけれど、焦ったくなって先輩の手の内側に手を差し入れ、途中から自分ですることにした。俺の隣のジェイド先輩はといえば重なったちんこを食い入るように見つめていて、手を出される気配はない。好都合だ。このまま一気にイかせてもらおう。
「すみませんフロイド先輩、ちょっと、そろそろイかせてください」
「あっ、あぅっきもち、ぃっこえびちゃ、それ、ぇっぁ、っああ、……〜〜ッ!!」
「っ、気持ちいいなら良かったです、」
裏筋同士を擦り合わせ、グリグリとお互いの先端を指で押せばフロイド先輩が一層甘い声を上げた。そして快感に耐えられなくなったのか俺の肩に顔を埋める。背中に手を回され肩を掴まれ、痛いほど体にしがみ付かれて僅かに顔をしかめたが、そんなのは些細なことだった。先輩の頭に手を触れれば、指を差し入れた海色の髪の中は熱く湿っている。
「っや、ば、ぁあっひぁっ!ぉれっまたきちゃ、んぁあ…っ!」
「ン、おれも、っ…」
チカチカと視界が明滅する。もうすぐ、もうすぐだ、手の動きがどんどん激しくなっていく。
「あぁっひ、っむり、ぃ、いく、っぃく、ゥッ…〜〜〜っ!!」
「ふ、ンぅ"…………っ!」
極まった声と共に俺の肩に額を押し付け、フロイド先輩がぶるりと腰を震わせる。ああイったな、と思ったらローションと我慢汁でぬるぬるの手のひらに熱い液体がかかるのを感じた。それを追いかけるように迫り上がってきた絶頂感に息を詰め、俺の自身からも勢いよく精液が吐き出される。
「は、ーーっ……」
強い快感が脳内を貫き、いつもの意識がすっと覚めていく感覚。自分の腹に視線を落とし、二人分の精液で汚れた手を開けてぼう、と見つめる。射精の余韻か、フロイド先輩の腰はひくひくと微かに揺れていた。手で受け止めた熱いソレは、2回目にも関わらず量が多い。
気持ちがいい。一人でオナるのとでは全く違う。誰かと扱き合うのがこんなにも気持ち良いとは思わなかった。ああこれはヤバい。癖になってしまうかもしれない。
「は、……ぁは、…たくさん出たねえ、小エビちゃん♡」
「最近抜いてなかったので……いや、見せなくていいです……」
しょうがないのだ、溜まるのは必然である。俺の精液を指で掬ってまじまじと見つめるのはやめてくれ。羞恥で死んでしまう。俺を散々イジり”イチャイチャ”して満足したのか、さっきまでの蕩けた表情から一転、フロイド先輩ははー気持ちよかったぁ!とどこかすっきりした表情で俺から退いた。この爽やかさ、まるで風呂上がりのようだ……。
「うーわ、身体ベタベタできもちわりーからもっかいシャワー浴びてくるわー。ジェイド、交代ね。後は好きにやんなよ」
「…っええ、そうさせてもらいます」
精液塗れの手をティッシュで拭いズボンを履き直しつつ片割れに声を掛けたフロイド先輩に、未知のものを目にしてずっと見入っていたのだろうか、ジェイド先輩は我に帰ったように返事をした。そしてフロイド先輩は仕上げとばかりに俺にひとつ唇を押し付けて、じゃーねと手をひらひらさせて部屋から出て行く。
そしてばたん、扉の音と共に静寂が訪れた。
……嵐が去った。
「本当にマイペースだな……」
「…何せ天才気質ですからね」
独りごちた俺に、ジェイド先輩がぽつりと呟く。確かに天才気質なのは間違いないだろうが、それにしたってマイペースが過ぎる。まあ、今に限ったことではないのだけれど。
ふう、と小さく息を吐く。フロイド先輩がいなくなって大分身体の力が抜けたような気がする。いや、まだ終わっていないのだが。そして俺のその心内を読んだかのように、さて、とジェイド先輩が一言。俺と視線を合わせて微笑って。
「フロイドも行ったことですし、ようやくナマエさんを独り占めできますね」
「え、あ、…そうですね?」
「そうですよ。ねえ、ナマエさん」
「は、…」
「気持ちいいこと、僕にたくさん教えてくださいね、」
耳元でそっと囁かれる声に、ひくり、と口角が引きつった。
……果たして、俺はこの色気たっぷりの先輩に教えられるのだろうか。すごく不安になってきた。