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「いや、俺はどちらかというと被害者だと思うんです! 確かに一緒に気持ち良くなる≠チて約束には同意しましたけどそもそもに至るまでの話が半ば脅しだったし頻度だって度を越してます! 毎日毎日昼休みやら放課後やら付き合わされてるし更にはオンボロ寮に押しかけてくるせいで寝不足でこの前なんかトレイン先生に怒られて補習にさせられたし、そんなんだから勉強もヤバいしでもうアズール先輩この二人なんとかしてくださいよお!」
「………。」
勢い余って最後の方はソファから立ち上がって早口ほぼノンブレスで捲し立てた。
アズール先輩がVIPルームに俺とフロイド先輩を残し席を立って数分後、彼は当事者をもう一人連れて戻ってきた。この場合の当事者というのは一人しかいない。俺をシェアしているもう一人の双子の片割れ、ジェイド先輩である。
そうして連れてこられたジェイド先輩を俺の隣に座らせ、再びこれはどういうことだとアズール先輩は俺に説明を求めた。が、ジェイド先輩は俺とフロイド先輩のしたことを勿論知るわけもなく、まず何があった、どういうことだと笑顔(目が笑っていない)で俺を問い詰め、それにフロイド先輩が「小エビちゃんがオレをイジめた」と再びふざけ半分で説明し、アズール先輩はアズール先輩で「これ(リーチ兄弟にシェアをされている関係性)はどういうことだ」と俺に詰め寄り……、結果、色々思考がショートした俺が、最終的にリーチ兄弟に対する今までの溜まりに溜まった不満をぶちまけるに至ったのである。ぶちまけられたアズール先輩は唖然として、俺の両脇に座っているリーチ兄弟は悪びれる様子もない。
「だって小エビちゃんとのエッチ気持ちーんだもん」
「すっかり病みつきになってしまって…僕たちも困っているんですよ」
ああもうほら、フロイド先輩は開き直るしジェイド先輩はわざとらしい困った顔ときた。笑ってるんだよ口元が!
「全然困ってるようには見えないんですが⁉ いくら気持ちいいからって限度ってものがあるでしょ!」
「イヤならイヤって言えばいーじゃん」
「言えるわけないでしょうが! いつも脅してくるくせに!」
「そうでしたか?」
「そんなことねーけど?」
そう言って二人は揃って首を傾げる。腹立つなマジで。ぎりと歯を噛み締めて睨みつけるが、そんなの二人に効くはずもない。というかフロイド先輩に至っては、どうして俺がこんなに声を荒げているのか、その理由も分かっていないようだった。先輩のオッドアイが不思議そうに俺を見遣る。
「だって小エビちゃん、なんだかんだ言ってまんざらでもないっしょ、オレらの相手すんの」
「っはあ⁉」
「そうですね、なんだかんだ言ってたくさんしてくれますしね」
「な、っ」
だってそれは、「一緒に気持ちよくなる」と、最初にそういう約束をしたからだ! そう反論したかったはずなのに、何故か上手く出てこない。そんな俺の状態に気付いているのかいないのか、ジェイド先輩が言葉を続ける。
「フロイドはどうか知りませんが、少なくとも僕は貴方としたい≠ニ言う時、脅し文句は一言も使った覚えはありませんよ」
「オレも使ってねーし。言ってんじゃんいつも、あそぼーって」
「純粋なお願い≠フつもりだったのですが…。それが無言の脅しだと捉えられていたなんて…悲しいです」
しくしく、なんてわざとらしく嘘泣きするジェイド先輩に何か返せたら良かったのだが、先程と同じように何も返すことは出来なかった。
「………」
二人の言うことに、少なからず思い当たる節はあった。
「遊ぼう」、「少しお時間よろしいですか?」、「今日オレらんとこ来てよ」、「今夜、僕の部屋へ来てくれますか?」。今までの彼らからの誘い文句。確かに、それだけ聞けばお願いと受け取れるものばかりだ。その時の二人の態度だって、まるで遊びに誘うような感じが殆どで。半ば拉致られたり、有無を言わせないような笑みで迫られることはあった。けれど、でも。
「オレ、小エビちゃんから嫌≠チて言葉、一度も聞いたことねーけど」
「……っそれは、」
フロイド先輩の言う通りだった。行為自体を「嫌だ」とはっきり言ったことはない。言っても無駄だからだ。だって、二人にとって俺の意思なんて関係ないから。
「………(違う)」
一瞬そう思ったけれど、次の瞬間には否定している自分がいた。
違う。関係ないなんて事はない。だってこうなる前、リーチ兄弟に半ば襲われた時、散々好き勝手されて俺はキレた。「俺の意思も確認して欲しい」と言ったのだ。まるで俺の意思なんてないみたいに、モノ扱いされてそれが不愉快で嫌で堪らなかったから。それが通じて、結果として二人に「一緒に気持ち良くなりしょう?」と言われることになった。少なくともその言葉には、俺の意思を確認する意味も込められていたはずだ。
そこまで考えてもしかして、と気付く。
……今までのあの誘い文句は、この二人なりに俺の意思を確認してくれていたのか?
なら、もし俺が嫌だと言ったら、諦めて放してくれたのだろうか。
というか、そもそも俺は、「嫌だ」って、思ったことがあっただろうか。
先程のフロイド先輩の言葉が頭の中でもう一度再生される。
俺はリーチ兄弟との行為のことを、どう思ってるんだ………?
「──………、」
答えを探そうとして先輩たちを見遣っても、そこには明確な答えも、手掛かりもない。二対の違う色の瞳がじっと俺を見返すだけ。
戸惑いを隠せず視線を彷徨かせ、落ち着いた先は自分の膝の上だった。すっかり静かになった部屋できゅ、と口をひき結ぶ。ああ、考えすぎて自分の気持ちが分からなくなってきた。エースのこともあるし、アズール先輩のことも片付いてないし、ここに来てリーチ兄弟との行為がどうかなんて、色々なことでこんがらがりすぎた頭ではなにも考えられない。俺はどうすればいいんだちくしょう。ああ、頭回らないしムズムズするしでなんかイライラしてきた! ダメだこれ!
ぐ、っと膝の上の拳に力を入れて、今にもうがああ! と叫び出しそうになった時だった。リーチ兄弟との口論から今までずっと黙っていたアズール先輩が、不意にぼそりと言葉を漏らしたのである。
「……っそんなの、」
わなわなと口を震わせて、きっとこちらを睨みつけ。
「そんなのずるいだろ! 聞いてないぞ‼」
そして、アズール先輩から予想だにしない言葉が飛び出してきた。
「……………は?」
ずるい。何が。何が⁇ 突然声を荒げて子供っぽいことを言い出した先輩に俺は文字通り固まったわけだが、リーチ兄弟にとってアズール先輩のその反応は予想の範囲内だったらしい。今度は俺を除いた三人の中で会話が始まった。
「だってアズール、僕は間に合ってますとか言ってたじゃん」
「試食する時にも声を掛けたのに、アズールは断ったでしょう」
「っええ、確かに間に合っていますし断りましたが、ナマエさんが関係しているなら話は別です。あの時ナマエさんの名前など一言も出さなかったでしょう。さてはお前たち、わざと隠してただろ」
「言わなくていいかなって」
「思ったんです」
「嘘つくな‼」
俺に静かに怒っていた時とは別人のようだ。何故かぎゃあぎゃあとヒステリックに騒ぎ出したアズール先輩に、ジェイド先輩はニヤニヤしながら詰問を躱して、フロイド先輩はその様子を見て楽しそうに揶揄っている。
……だめだ、会話についていけない。つまりどういうことなんだ。
「……あの、なんで俺が関係してるなら話は別なんですか?」
「へっ? っあ、いや、それは、」
率直な疑問を口にすれば、さっきまで饒舌だったアズール先輩が今度は急に口ごもる。何なんだ、うるさくなったと思ったら静かになったり。その反応にますます困惑していると、その様子を見ていたジェイド先輩が笑顔で爆弾を投下した。
「アズールはナマエさんのことが好きなんですよ」
「っジェイド!!!」
「でも恋愛経験値マイナスの童貞だからぁ、うざったい絡み方しかできないんだ〜」
「フロイド‼ いい加減にしろ!」
ついに我慢ならないというようにアズール先輩が立ち上がり、リーチ兄弟とこれまた激しい(といっても一方が盛り上がっているだけだが)口論をし始めた。
が、ジェイド先輩からの爆弾をモロに直撃した俺は、その会話の応酬についていけるはずもなく。その姿を尻目に、俺はただひたすらさっきの言葉を頭の中でただただ反芻していた。
好き。アズール先輩が、俺を。まさかあのアズール先輩が、恋愛的な意味で、俺を?
そこまで考えが及んだところで頭の中の冷静な俺がストップをかける。いやいやちょっと待て、恋愛的な意味でと決めつけるのは早計すぎやしないだろうか。もしかしたら普通にフレンド的な意味での好きかもしれない。いやでもさっきフロイド先輩が恋愛経験値がとか、童貞がどうのとか言っていたし、……ていうか先輩って童貞なんだ……。いや、違う。今はそういうことじゃない。
本人からではない、第三者からの唐突な想いの暴露は、斜め後ろから頭を鈍器で殴られたような衝撃だった。普段のアズール先輩に対するイメージと結びつかなさすぎてピンとこない。そう、ピンとこないからこれは誤解かもしれない。何しろ本人からその言葉を直接聞いたわけではないのだ。あくまでもリーチ兄弟談で、二人がただ茶化して言っている可能性だってあるのに。
なのに、視界の先の先輩はまるで本当の心の内を突かれたかのようにひどく取り乱して、上擦った声で否定しながらも拳を固く握り締めている。
「何をそんなでたらめなことを、」
それはまるで、自分に言い聞かせるような口調だった。そう言って何の拍子か、ちらりとアズール先輩がこちらを伺うように目を向ける。そして。
「………っ‼」
ばちりと視線がぶつかった途端、先輩の顔がぶわりと花が咲いたように真っ赤に染まっていった。
「……(ああ、)」
その反応を見て分からないほど俺は馬鹿じゃない。というか、この反応を見れば誰でも分かる。……これはつまり、本当に、
「…………俺のこと好きって、もしかしてそういうコトですか」
「ええ。もしかしなくてもそういうことですね」
「小エビちゃんとエッチなことしたいのスキ、だねぇ♡」
「ああもううるさいうるさいっ! お前らもう何も喋るな! やめろっ!」
どうやらマジで、そういう意味で俺のことが「好き」らしい。俺の問いにまた本人ではない人物たちが答えたけれど、アズール先輩の反応は明白だった。完全に取り乱して最早薄ら涙目である。黙らせようとしたのかマジカルペンを取り出した先輩に、ジェイド先輩は「おやおや物騒ですね」とソファの背に背中を預けたまま、ゆったりとした姿勢を崩さず楽しそうに笑う。
「………(俺のことが、好き……)」
俺はといえば、アズール先輩に好かれているという事実にやられて頭が正常に働かないでいた。こういう時に拳ではなくマジカルペンが出るのはこの世界らしいといえばらしいな…、とどこかずれたことを他人事のように考えるくらいには。
「つーかそんな怒んなくてもよくね? だってアズールぜってー言わねえじゃん。泡になるまで胸にしまっておくつもりだったっしょ、だから代わりに言ってあげたんだよ? オレら優しーからさ」
「余計なお世話なんだよ‼ 沈黙は金って言葉知らないのかお前たちは!」
「その言葉が今のアズールに当て嵌まるかどうかは疑問ですが、まあもう言ってしまいましたからね。監督生さんもばっちり聞いてしまったでしょうし」
「ぐ、っこの、……っ!」
フロイド先輩とジェイド先輩はあくまでも親切のつもりで手助けしてあげた、のような口ぶりだが、アズール先輩にとっては火に油を注ぐようなものだったらしい。まあ確かに、勝手に人の想い人を本人にバラすというのはデリカシーに欠けすぎた行動なのでアズール先輩が顔を茹で蛸並に真っ赤にして怒る理由も分かる。が、この双子にその四文字の言葉が当てはまるかどうかは疑問だ。
怒りか羞恥からか、アズール先輩は体をぶるぶると震わせている。ぐ、と唇を噛み締め、泣きそうな顔で先輩たちを睨んで、手に持つマジカルペンからは今にも魔法が飛び出しそうだったのに。
ふっと、不意に先輩の体から力が抜けた。そしてまるで何かを悟ったように、ああ、と呟いて。
「……そうですか」
「、…先輩?」
「……聞いてしまったのなら、そもそも聞かなかったことにすればいいんですよ」
ゆらりと視線を動かし、先輩たちから俺を見据えた顔はにやりと笑みを浮かべている。けれど、そこから滲み出ているのは焦燥と自棄だ。先輩の表情に、じわりと嫌な汗が背中に滲んでいく。ああこの感じ、めちゃくちゃまずい予感がする。先輩がオーバーブロットした時ほどではないが、それと同じような感じだ。それを感じたのは双子も同じだったのか、先程までの余裕そうだった表情は消え、顔が僅かに強張った。
「アズール、何を……」
「あー、小エビちゃん、逃げた方がいいかも」
「邪魔するな! 大体お前たちが勝手に口走ったからこんなことになったんだ! くそっ僕の気持ちも知らないで……っ!」
二人の言葉を掻き消すように張り詰めた声が部屋に響いた。ペン先が迷いなく真っ直ぐ俺へと向けられる。きっと俺を睨みつけた瞳は、薄い涙の膜で覆われていた。
「………っ」
ペン先を、凶器になり得るものを自分に向けられた瞬間、そこでようやく危機感が沸いてきた。ぞわり、全身に悪寒が駆け巡る。そしてこんな時に、体は動かない。
先輩が何かを唱えようとその口を開く。これはやばい、絶対なにか良からぬ魔法を使われる──そう本能的に感じた瞬間、咄嗟の一言が口から飛び出ていた。
「あ、ありがとうございます!」
「……へっ」
なんとか宥めようとしてクソデカ声で出た俺の言葉が意外だったのか、アズール先輩がきょとんとした顔で俺を見た。ジェイド先輩もフロイド先輩もそれは同じだったのか、ぱちりと目を瞬かせて俺の方に顔を向ける。
「あの、いや、なんていうかその、…それが本当なら、う、れしいです。だから、お礼は言っておきたくて……」
一気に三人の注目を集めたからか途端にいたたまれなくなったし妙に恥ずかしくなってきた。じわじわと顔が熱くなっていく。何気に告白されたのは(されたというか暴露されたの方が正しいだろうが)初めてのことなので、どう答えれば正解なのかが分からない。でも、困惑はありつつも、先輩に好かれていることが嬉しいという思いがあるのは本当だ。だって、妙に胸がどきどきしているし。
「ぁ………」
ぷしゅう、とまるで毒気が抜かれていくかのようだった。俺の返事は結果としてアズール先輩を上手く宥めることができたようで、先輩は呆けた表情で足から力が抜けたかのように座り込む。ぼすりとソファから力の抜けた音がした。それを確認して一先ずは大丈夫だと思ったのか、アズール先輩から視線を外したフロイド先輩が俺の方を向いて、そのオッドアイを大きく丸くした。
「…え、何小エビちゃん照れてんの? ウッソマジで?」
「おや、アズールの赤面が伝染ったみたいですね」
「うっちょ、ちょっと、やめてください」
恐らく真っ赤になっているであろう顔を珍しげに覗き込んでくる二人に見られないように手で隠そうとしたけれど、両サイドからするりと手を取られて失敗に終わってしまう。なんて羞恥プレイだこれは!
「うわー、マジで茹でエビじゃん」
「だって、好きなんて言われたらそりゃ、」
こうなるでしょ! と続けたかったのだが、俺の言葉を聞いた二人が目を瞬かせ、次の瞬間にい、と笑って。
「オレだって小エビちゃんのこと好きだよお♡」
「ふふ、それを言うなら僕もですね。ナマエさんのことが大好きです♡」
「っあーもーやめてください! 遊んでるでしょ!」
「遊んでなんかいませんよ、ねえフロイド」
「そうだねえジェイド、ね、小エビちゃん顔見せて」
「うう、いやだ……」
「ぁは、かーわい、」
さいあくだ。もう完全におもちゃと化している。ジェイド先輩は俺の指をいやらしくなぞってくるし、フロイド先輩は俺の手をにぎにぎ握りながらちゅ、ちゅ、とキスを落としてくる。顔中に落とされる触れるだけのそれがこそばゆい。唇が触れたところからどんどん熱を持っていく。
「小エビちゃん、だぁいすき、」
「っ、ひ、」
耳元で囁かれる愛の言葉。鼓膜を震わす甘やかな音にぞわりと体が震え、 内側からずくりと熱い何かが沸き上がる。頬を包まれ顔を合わされれば、視界いっぱいに映るのは、目を細め、頬を染め、さも楽しそうに笑うフロイド先輩。その表情に、一際大きくどくりと心臓が波打った。何故かは分からない。でも動けない。先輩はそっと、顔を近付けてくる。そしてお互いの吐息を肌で感じるほど唇が近くなり、今にも触れそうになったその時。
「……っっああもう‼ そこ、さっさと離れろ! やめろ‼ 腹立つからやめろ!」
「あ」
「おや」
俺にくっつくフロイド先輩を見て我に帰ったのか、復活したアズール先輩がこれまた顔を真っ赤にして大声で怒鳴る。その拍子に腕を突っぱねてフロイド先輩から体を離すことに成功した。そうすると必然的にジェイド先輩の方に身を寄せることになるるわけだが、そんなことを考えている余裕なんてなかった。ああ、まだばくばくと心臓がうるさい。はあ、と大きく息を吐いて心の中で大声を上げてくれたアズール先輩に感謝した。が、これくらいでフロイド先輩が引くわけがない。アズール先輩に怒られても先輩はどこ吹く風だ。
「アズールうるさーい。アズールも小エビちゃんとキスしたいんでしょ?」
「そんなこと言ってんだったらすればいいのに」、フロイド先輩はあっけらかんとした口調でポツリとこぼす。いや、それができていれば苦労はしないだろう。それくらい俺にだってわかる。これ以上アズール先輩を煽らないでほしい。
が、フロイド先輩はなにを思ったのか、「そうだ!」と顔を輝かせてとんでもないことを言い出した。
「アズールもシェアする? 小エビちゃん」
「はっ⁉」
「ちょ、フロイド先輩⁉」
これにはさすがのアズール先輩も驚いたのか、目をまん丸にして素っ頓狂な声を上げた。対照的にジェイド先輩はフロイド先輩の提案に対して「おや、それはいいですね」と頷く。そして何故か俺の背中をこれまたいやらしい手つきでなぞってから腰を抱いてきた。いや頷くな! 腰に手を回すな!
「先ほど一通りお話しましたが、ナマエさんには陸の人間の行為で一緒に気持ちよくなる≠アとに協力いただいているんです。元々は僕が陸の人間の交尾に興味があったのがきっかけですが……。一度断ったとはいえ、やはりアズールも興味があるのではないですか? それに、好きな人とできる絶好の機会でしょう?」
「っそれは、」
「オレ、小エビちゃんとの時間が減るのはヤだけど、まーアズールだからしょーがないし。ジェイドは?」
「僕も構いませんよ。確かに監督生さんとの時間が減ってしまうのは惜しいですが…何なら一緒にすれば良いでしょうし」
「あージェイド頭イイ!」
「いやあの、ちょっと?」
あっという間に兄弟の間で話が進んでいく。いやいやいや俺抜きで話を進めないでほしい。俺当事者なんですが? それにもう一人の当事者であるアズール先輩の意見だって聞いてないじゃないか。先輩が話に乗る前提なのかこれ。
「ま、待ってください二人とも。僕はその話に乗るのは一言も言っていませんし、何よりナマエさんに確認も取れていないじゃないですか」
けれどアズール先輩も俺と同じことを思っていたらしい(良かった)、先輩の動揺した声音での言葉に、ジェイド先輩はああ、そうでしたねと視線を俺の方へ向けた。
「ナマエさんは如何です?」
「小エビちゃんのことアズールともシェアしていい?」
「……………。」
……これ、聞かれたら聞かれたで返答にとても困るな………。
ジェイド先輩、フロイド先輩、アズール先輩の顔を順々に見つめる。
そして悟った。この状況でノーとは、とてもじゃないが言えない。ここで断ったらアズール先輩にガチ泣きされそうだからだ。悲しいのか嬉しいのか、恥ずかしいのか、それとも期待か。先輩は言葉にし難いなんとも微妙な表情だけど、今にも大粒の涙がこぼれ落ちそうなことは確かだ。
今日フロイド先輩を泣かせたばかりで今度はアズール先輩だなんて、流石にそれは避けたい。かといってここで頷いたら面倒なことになりそうだし、断っても絶対面倒なことになる気しかしない。アズール先輩は俺のことが好きと知ってしまったが故に、何も言えなくなってしまった。どうする、どうする俺。どうすればいいんだ俺!
「………あー……………」
言葉にもならない声を漏らして数秒後。
困惑ともやもや、苦悩に焦りと一抹の嬉しさが綯交ぜになった頭で考えた末に出た言葉が以下である。
「…あの、アズール先輩は、どう思います?」
ああもう、俺の馬鹿!