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「ナマエさん」
「ぅ、……」
靴を脱ぎ、床に付いていた脚をベッドに上げて、ジェイド先輩が俺と向き合う。うっそりと細められた切れ長の、片方の金色の瞳がやけに輝いて見えた。俺を呼ぶ声が、やけにスローに聞こえる。
俺に逃げ場はない。なので腹を括るしかない、このままジェイド先輩と第2ラウンド突入だ。尻込みをしそうになるが、俺にだって勝算はある。ジェイド先輩の技を知っているのでもう不意打ちはきかないし、さっきまでのフロイド先輩とのキスで経験値をたくさん得たのだ。最早昨日の俺じゃあない。再び早鐘を打ち始める鼓動に気付かないふりをして、きゅ、と唇を噛む。視線が絡まって、ジェイド先輩の整った顔がゆっくりと近付いてくる。自然と瞼を落とし、暗くなった視界の先で、先輩の唇が俺のそれにそっと触れた。
「ん、ぅ」
「ん」
最初はそっと。数度唇を合わせるだけの口付けだ。ジェイド先輩の唇は最初にした時と同じで、しっとりと柔らかくて、少しだけ冷たい。まるでマシュマロみたい…、とぼんやりと頭の隅で考えているあたり、俺にも少し余裕が出てきたのかもしれない。フロイド先輩としていた時は唇の感触なんてじっくりと味わう余裕なんて皆無だった。こればかりはフロイド先輩のおかげである。
子供のようなキスを充分に楽しんだのか、今度は唇を柔らかく食まれる。は、と時折漏らされるジェイド先輩の吐息が熱い。
もう一人の片割れと同じく、ジェイド先輩も積極的だった。違うとすればフロイド先輩よりもスキルがあるというところか。例えば、キスをしている間に俺の身体を撫でる彼の手、だとか。頬を撫でられたり、髪を弄られたり、あるいは背中に触れられたり。正直言って心地良い。このまま身を任せているとこちらが受け身になりそうだ。そうならないよう応戦のため先輩の唇を軽く舐めると、ん、と小さな声が漏れた。
「、…ふふ、今日は随分と積極的ですね」
「やられっぱなしは嫌なので」
揶揄うような口調に、俺は至極真面目に言葉を吐いた。昨日のアレで痛い目を見たので、やられるわけにはいかないのだ。
「まるで勝負のようですね。競い合っているつもりはないのですが」
ジェイド先輩にとってはそうでも俺にとっては死活問題だ。このままこの二人に流されたら、俺の初めてがどんどん奪われていく。ファーストディープキスなんて、既にジェイド先輩に奪われてるし。これ以上はごめんだ、何としても童貞処女だけは守りきらなければならない。と言っても俺が童貞を失うことはこの二人が突っ込まれる側をやらない限りないので(つまり限りなく可能性は低い)、俺が一番気をつけなければいけないのは処女喪失だ。童貞喪失前に処女喪失なんて冗談ではない。ケツの穴にあんな凶器みたいな棒を突っ込まれたら俺の男としての矜恃が死んでしまう。だから俺は、この恐ろしい先輩たちに対して、今この時だけでもリードしなければならないのだ。
ジェイド先輩の言葉には何も返さず、代わりに少しだけ開いた彼の口に舌を差し入れると、それに応じるように先輩の舌もそろりと動く。舌を絡め合えば、ちゅ、くちゅと唾液が音を立てた。前に俺の歯茎を自分の歯で傷付けたからか、ジェイド先輩の動きはどこか慎重だ。それ幸いにと先輩の口の中で舌を動かしてみる。フロイド先輩にしたように、その鋭い歯を舌で確認するように辿れば、先輩の身体がぴくりと跳ねた。
「ん、っ」
「は、……」
よし、今のところ優位に立てている気がするぞ。かと言って油断しては駄目だ、ジェイド先輩だし、と抜かりなく手持ち無沙汰な手を動かした。頬を撫で、頸をなぞり、耳たぶに触れる。そうしてジェイド先輩が俺にしたように身体に触れながら口づけを続けていくと、やがて先輩の反応が少し変わったことに気がついた。
「っん、ふ、ナマエさ、ぁ」
俺を呼ぶ、蕩けた甘い声音が耳を擽った。それに心臓が跳ねて、ぶわりと身体の体温が上がった気がする。顔なんて燃えるように熱いなんてもんじゃない、もう燃えてる。ああ、これってもしかしなくても。
まさか、ジェイド先輩の声で興奮している自分がいるなんて、俺が一番信じられない。
ジェイド先輩はエロかった。もういい、勃ってしまったのだからこの際フロイド先輩もエロかったと認めよう。だがジェイド先輩はそれ以上だった。それ以上?いや、エロさのタイプが違うと言った方がいいだろうか。フロイド先輩が動のエロさなら、ジェイド先輩は静のエロさだ。ちょっと何言ってんだか分からないと自分が一番思っているが、例えるなら本当にそんな感じなのである。要するに二人ともめちゃくちゃエロいってことだ。はあ、と漏れる吐息も、ほんのりと赤く染まった頬も、涙で潤んだ熱に溶かされそうな瞳も。ああ、こんなに艶やかで色っぽい。舌をちゅう、と吸って唇を離すと、あ、なんて名残惜しげな声が耳を掠めた。あーーー耳にも目にも毒です!!
「ン、っんぅ、さわって、ください、」
頬に添えていた手に重ねられる。導かれるようにジェイド先輩の身体へと触れさせられた。顔だけでなく、身体にも触れて欲しいということなのだろう。それに文字通り身体が固まる。まさかキスだけじゃなくこんな風に求められるとは思わなかった。どくり、心臓が波打つ。あ、と口が単語を形作って、けれど声が伴わない。視線がねっとりと絡まって、目の前の色付いた唇が薄く開く。
「ナマエさん…もっと、」
ジェイド先輩が、その先の言葉を口にしようとしたその時。
「なァ、オレも混ぜて」
「………は?」