手がかりとごはん
「モコナはどこにいたのー?」
合流したファイが名無の手元にいるモコナに問いかけると、モコナの表情が曇った。
「黒鋼の上にいた。そしたら落とされた」
かと思うと、腕の中で飛び上がった。
「そう! モコナさっき、こんな風になってたのにー! 誰も気付いてくれなかったーっ」
めきょっと目を見開いたモコナを見て、小狼の口調が速くなる。
「さくらの羽根が近くにあるのか!?」
「さっきはあった。でも今はもう感じない」
「誰が持ってたか分かったか!?」
「分からなかった」
しょんぼりとうなだれるモコナを、名無は高く持ち上げてみせた。
「たかーい。たかーい」
――冷静になってみると、少し気恥ずかしい。
ごまかすように手を下して向き合い、
「モコナ」と、目を細めた。「落としてしまった人が全ての元凶です。その張本人がお詫びとして抱きしめて、なでなでしたいのですって」
「なっ――」
「モコナなでなでしてー」
飛びついてきたモコナに狼狽える黒鋼を、名無は「楽しそうだなぁ」と他人事のように眺めていた。
「うーん、さっきここにいた誰かって条件だとちょっと難しいなぁ」
ファイが周囲を見渡し苦笑する。
縄張り抗争にくわえて、突如現れた小狼と青年の衝突で熱の上がった通りは、いまだ人がごった返していた。
「でも近くの誰かが持ってるって分かっただけでも、良かったです」と、黒鋼とじゃれていたモコナに小狼が視線を合わせる。「また何か分かったら教えてくれ」
「おう! モコナがんばる!」
「あ、あの! さっきは本当にありがとうございました」
駆け寄ってきた気の弱そうな細身の少年が、緊張気味に小狼に頭を下げる。
「僕、斉藤正義といいます。お、お礼を何かさせて下さい!」
「いや、おれは何もしてないし」
「でも、でも!」
食い下がる少年――正義に、小狼は困ったように否定していた。
庇っていた少年じゃないのかと名無が問うも、自分の力じゃないの一点張りだった。
見かねたのか、お腹が減ったのか、モコナが正義の眼前に飛び上がる。
「お昼ゴハン食べたい! おいしいとこで!」
待ってましたと言わんばかりに正義は嬉しそうに頷いた。
生き生きとした様子の正義に案内された店のドアをくぐると、涼しげなベルの音が鳴った。
湯気に乗って香ばしい匂いが流れ込む。空調が効いているのか涼しい風が店内を満たしていた。
右にファイが、左に黒鋼が腰を下ろし、正面右に小狼が、その左に正義が座る。
最初に配られた水をちびちびと飲んでいた名無は、数分後、テーブルの中央にある鉄板に作られた丸い物体に手を止めた。丸く平べったい形状で、全体を包む薄いクリーム色は少しとろっとしている。中に入った細切れの食材が表面から窺えた。
「僕、ここのお好み焼きが一番好きだから。あの、モダン焼きにしたんですけど、トン平焼きのほうが良かったですか?」
「“おこのみやき”っていうんだ、これー」とファイ。
「お好み焼きは阪神共和国(このくに)の主食だし、知らないってことは――、あ、外国から来たんですか? 金髪さんだし!」
「んー、外といえば外かなぁ」
ぼかした答えに正義はよくわからないという顔をしていた。
「いつもあの人達はあそこで暴れたりするのー?」
「あれはナワバリ争いなんです。チームを組んで、自分達の巧断の強さを競ってるんです」
「で、強いほうが場所の権利を得る、と」
「でも、あんな人が多い場所で戦ったら他の人に迷惑が……」
渋い顔をする小狼に名無はわざとらしく目を伏せた。
「モコナの失踪事件もありましたね」
「そりゃ、てめぇだろう」
お好み焼きを凝視する片手間に黒鋼が返してくる。