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黒い影は奪う、全てを

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目の前にあった現実と、それに直面した現実との間には埋めようのない地割れのような溝があった。
オレは裂けた地面の向こう岸の、遠い現実をただ眺めることしか出来ず、ただ立ち尽くすことしか出来ず、自身の無力さ故に力を欲した。手が可笑しいほど震えだした。その時のオレは気づいていなかっただろう。無意識に、毒を飲み込んだことに。
毒は血に流され蔓延する。
毒はオレを蝕んでいく。毒はオレを狂わせる。罪への坑道へと走らせる。
無動とした表面の中で沸々と煮え滾る。
それでもお前は無邪気であどけない表情を浮かべている。
けれど毒に侵された目にお前は暈ける。オレは毒に侵され、どうすることもできない。
お前はオレを心配そうに見ている。
だがオレは都合のいいように現実を煙に巻いた。
お前はオレに優しく触れる。
オレには必要不可欠な彼女だ。
君は、瞳は、オレを煙に包んで困惑させる。書いた線が指で擦られ、来た道が消えてゆく。
だが擦った曇る窓に、確かにオレが……黒い影の顔が浮かんだ。黒い影はナイフに刺されながら嗤っている。黒い、底のない闇の中に浮かんだ影がいる。書いた道は消えた。もう戻れない。
オレは、影は飢餓に苦しんでいる。
内臓が飢えているみたいに、喉から手が出る程に、狂ったハイエナのように。憑依された犬のように。
理性は削がれた。
身体は傀儡のように動き出した。もうオレの指示は聞いちゃくれない。オレはもう戻れない。
自制心の中へ溜め込んで膨れ上がった欲情はパン、と大きな音を響かせ破裂した。その合図で走り出した。
もがく白が、黒い影によって尚のこと麗しく映え、オレの食欲を刺激する。
1つ、また1つ、血のように赤い軌跡が悲鳴と共に浮かび上がる。


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