赫い糸 5 [6/19] 「飲み込め」 ニルはその言葉に従うように、力を絞るが 喉の管は大分狭まっていた。 「……っ!」 固形物を痞えて、息苦しんだ。 すると男は、水を入れたコップをそっと飲ませるように促す。 その上親切に、固形物を自身の口で挟んで空いた片手で器用に千切り、食べやすいサイズにして与え続けた。 それから随分と時間はかかったが、ようやくパン一つ完食させた。 「キズは治しておいた。気力が回復したら、ここを出て行くといい」 ニルを再び寝かすと、男は静かに言って離れていった。 数秒後、ニルの耳に遠く扉の開閉する音が聞こえた。 寂れた部屋の中、眠気はニルを思い出の中へと誘った。 ______ル ______ニル、起きなさい 母さん………? 『ほら、今日から旅に出るんでしょ?』 隣のリビングから、声を張る母。 時計を見ると、もう10時だった。 『だらしないわね。母さんが起こす前に起きれないんじゃ心配よ』 母は台所でいつものように目玉焼きを焼いていた。 机の上には、握り飯の上にハムを乗せた、所謂ハムおにぎりが竹皮の上に並んでいた。 『あ、ほらこれ少ないけど持ってきな』 皿を並べながら母は言って、エプロンポケットから子布袋を取り出した。 『こんなに……いいよ、貰えないよ。』 『遠慮してんじゃないよ、それっぽっちしかあげられないんだから。しっかり頑張りなさいよ』 『うん……』 『ただでさえあんたは女の子なのよ。本当なら一人旅なんて……』 『心配しないでよ。』 『……ニル…実はあなたに言ってないことがあるの。言うべきか分からずに、気付けば何年もずっと黙ってたこと。』 『………?』 『本当はあなた1人じゃないのよ』 『え……?』 『本当はね____________ 夢の中で旅立つ日の記憶を、鮮明に蘇らせていた。 しかし、記憶は何故かそこで途切れ、肝心な母の告白だけが切り取られるように失われていた。 記憶を失うきっかけに、身に覚えはあった。 不意打ちの衝撃と、後頭部の腫れが記憶喪失に関係しているんだろう。 根拠はないが一時的で、きっと数日経てば戻る気がした。 あの時、夢の中の母は何を言おうとしたのだろう? |