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赫い糸
5
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「飲み込め」

ニルはその言葉に従うように、力を絞るが
喉の管は大分狭まっていた。

「……っ!」
固形物を痞えて、息苦しんだ。
すると男は、水を入れたコップをそっと飲ませるように促す。
その上親切に、固形物を自身の口で挟んで空いた片手で器用に千切り、食べやすいサイズにして与え続けた。
それから随分と時間はかかったが、ようやくパン一つ完食させた。

「キズは治しておいた。気力が回復したら、ここを出て行くといい」

ニルを再び寝かすと、男は静かに言って離れていった。
数秒後、ニルの耳に遠く扉の開閉する音が聞こえた。

寂れた部屋の中、眠気はニルを思い出の中へと誘った。

______ル

______ニル、起きなさい

母さん………?

『ほら、今日から旅に出るんでしょ?』

隣のリビングから、声を張る母。
時計を見ると、もう10時だった。

『だらしないわね。母さんが起こす前に起きれないんじゃ心配よ』

母は台所でいつものように目玉焼きを焼いていた。
机の上には、握り飯の上にハムを乗せた、所謂ハムおにぎりが竹皮の上に並んでいた。

『あ、ほらこれ少ないけど持ってきな』

皿を並べながら母は言って、エプロンポケットから子布袋を取り出した。

『こんなに……いいよ、貰えないよ。』

『遠慮してんじゃないよ、それっぽっちしかあげられないんだから。しっかり頑張りなさいよ』

『うん……』


『ただでさえあんたは女の子なのよ。本当なら一人旅なんて……』

『心配しないでよ。』

『……ニル…実はあなたに言ってないことがあるの。言うべきか分からずに、気付けば何年もずっと黙ってたこと。』

『………?』

『本当はあなた1人じゃないのよ』

『え……?』

『本当はね____________


夢の中で旅立つ日の記憶を、鮮明に蘇らせていた。
しかし、記憶は何故かそこで途切れ、肝心な母の告白だけが切り取られるように失われていた。

記憶を失うきっかけに、身に覚えはあった。
不意打ちの衝撃と、後頭部の腫れが記憶喪失に関係しているんだろう。
根拠はないが一時的で、きっと数日経てば戻る気がした。
あの時、夢の中の母は何を言おうとしたのだろう?



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