赫い糸 6 [7/19] 「……まだいたのか?」 そんな声に身体が反応した。 「すわっ!?」 ソファーからひるげ落ちて、床にばたと身体を打ち付けて現実に戻ったのだった。 男はきょとんとし、口元をゆるませて見ていた。 ニルがすぐ様に立ち上がって顔を向ければ、黙然と立っていた家主と目があった。 男は、水を被ってきたかのようにびしょ濡れで、黒く変わった衣服の袖元と髪の先端から、ぽつ、ぽつと水滴を垂らしていた。 (ああ、雨か。) すると微かに、雨の音が聞こえてくる気がした。 眠りに就く前のことをふと思い出した。優しく、暖かく。風邪をひいた時、看病してくれた母が側にいたかのようだった。 突然ニルは奇しくも頬を熱くするも、それを打ち消すように、あるものに意識が手繰り寄せられた。 視線の先、男の前髪の隙間から違和感のある刺青が見えた。 「あ、の、ボクを助けて頂いてありがとうございます……あとキズも…」 ニルは言葉とは裏腹、強張った顔つきをした。 男はニルを尻目にもう1つのソファーにドサッと腰を下ろし、水を帯びた上着を脱いで二つ折りした。 そして目の前のテーブルに投げると微細な水粒が弾け飛び、重い音を立てた。 ニルは男の行動始終を見ながら伺うように立ち尽くしているも、男は黙々とポケットの煙草を取り出して、一本口に含んだ。 左手にしたジッポライターの灯火を、右手で覆うと、細白い煙がユラユラと燻った。挙句、ソファー脇の山積みの小説に手を出した。 「すみません、長居して……お世話になりました」 ノリをつけられたかのように、口元が固かった。 一方、目の前で淡々とタバコを吸い、小説を読む男。彼の私生活を傍観しているようだった。二進も三進もいかない、居心地の悪い空間。2人の間に流れる曲折した空気が可視化された。 次第にキツイ匂いが、ニルの鼻先をわくつかせた頃、男が徐に口を開いた。 |