赫い糸 鐘塔 ジャッジ・ガ・ベル [9/19] やがて雨の音が去って、小窓から差し込む陽射しが、強さを増していた。 素朴で彩のない、無機質なワンルーム。家具は1人で使うには十分な机と、それを挟んで向かい合うソファーが二つ。タンスの代わりに、レットルが杜撰な位置におかれている。 スペースも家具も、どれも1人で暮らすには十分に思えた。しかし、違和感がある。 そうだ、ベッドがない。きっとソファーで代用しているのだろう。別に不思議ではない。 でも、まだ何かが足りない。そう……食器、冷蔵庫、食材、洗濯機、服やタオル、生活するのに必要なものが、全く足りていない。 ニルは謎を解くような気で、足りないもの探し当てた。この部屋の違和感は、人が暮らしているといった生活感のなさに関係している。 食べ物や服の代わりに本ばかりが増える家の主は、凡そ、異質で変りものに違いない。 2人が口を閉ざしてから不穏な空気は、狭い空間をあっという間に支配した。 ニルは、口を開けたままたじろいでいた。 訳…目的…理由…… 一体どうしたことか、自分の旅の目的をまるっきり忘れてしまっている。 いや、そもそも、目的などなかったのかもしれない。 ならば、自分は放浪者ということだろう。 だが、肝心な命綱…… 頼みだった金銭はとうに失ってどうすることも出来ない。 ニルは虚空を見つめ、途方に暮れていた。 「あの、歩いてきた道に鞄とか落ちてなかったですか?」 ニルは期待こそしていなかったが、聞くだけ聞いてみた。 男は本の隙間から覗いて見た。 「……いや、知らない」 しれっとした男の声は、本の壁に塞がれ、一層聞こえづらかった。 |