赫い糸 2 [10/19] それから依然として、男はニルのことを覗き見ていた。不思議な状況の中、刻々と鼓動の針が時を刻んでいるようだった。 男のその動作はまるで相手のことを警戒し、伺うように見えたが、それにしても何て綺麗な目なのだろう。ビー玉が二つ、浮かんでいるような、見たことのない高遠な美しさ……。そう、縁遠いノーブル感があった。 光沢が少なく、吸い込まれそうなほど何処までも黒い、大きな瞳に、ニルはすっかり魅入ってしまった。 やがて男が口を開き、呟くように尋ねた。 「お前、流星街を知っているか?」 意外にも普通の調子であった。 ニルは徐ろに、たじろいで、やにわに首を横に振った。 すると男は、「そうか。」と一言で返し、再び本を読み始めた。 気のせいだろうか。感情の起伏があまりないのに今の一瞬、がっかりしているように見えた。いや、きっと思い込みにすぎない……。しかしどうしてそんな事を聞いたのだろう? ニルは心の中で、何か突っかかっている感覚を覚えた。 「留めてすまないな」 男は本を読みながら、悪びれた様子もなく、変わらぬ調子で最後に言った。 ニルは、感謝の気持ちを込めた「ありがとう」を、今までになく丁寧に述べながらふかく、ふかくお辞儀をした。 命を救ってもらったのだ、大げさなことなど何もない。 ニルはそのまま、静かに家を出た。 |