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赫い糸
4
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久しぶりに外を歩いたとは思えない足取りで、ニルは塔までのアスファルトを歩いていた。十字路、路地、入り組んだ小路。まるで別の世界で、歩いているだけでわくわくした。
気のせいか、身体が嘘みたいに軽い。重力が弱まったみたいに、羽が生えたみたいに。
そうだ…そういえば、傷を治したと言っていた気がする。
ニルは、今になって男がパンを分けてくれたり、水を飲ませてくれたことを思い出していた。
傷跡一つない身体にすっかり安堵していたが、同時にニルは、少し悪い気持ちになった。
こんなに助けてもらったというのに、身一つとは言え、そのまま出てしまうなんて。いくら無愛想だからとは言え、逃げるように出るなんて失礼じゃないか。
何か礼の代わりに出来ることがあったんじゃないか。と、自分を責め立てるように後悔した。
そうだ、男が言っていた、あの流星街という街……きっとあの男はその街のことを知りたくて、聞いたのかもしれない。
もしかすると、おそらくその街を見つけられずに困っていたんだ。
自身の鈍さに気付くと、ニルはますます申し訳ない気持ちになった。
だが、それも今更なことだった。仮にその時、一生懸命考えたとして何が出来るというのだろう。
流星街なんて名前は、初めて聞いたし少しも知らない。どちらにしても、男が望んでる答えなんて出せるはずもなかった。きっと、その場で無駄な時間を使わせてしまうだけだ。
そう思うと、少しだけ気が楽になった。

小路を抜けると、途端に広がった景色。目の前の大広場の奥に、先程見た塔が宮殿から、聳えている。
だが、その全貌は太陽から背いて、薄暗く翳っていて、非常に勿体無く感じた。

南に伸びる巨なる黒い影は、およそ、その物の強大さを表して
天へを真っ直ぐに指して、高い塔はこの街のシンボルとしてひときわ目立っている。

ニルの目に映る、その襲いかかってくるような迫力は近寄れば畏怖すらさせた。
塔を見やれば柱門の僅か上に、大きな時計盤がある。
その更にずっと上、仰ぐと天辺にはベル見える。丸い鉄輪の中にぶら下がっていた。
なんて美しいんだろう。村の小高い丘から見える景色も唯一無二の絶景だったが、これはまた別の美しさがある。
鐘楼のデザインもさることながら、目をつぶれば歴史の流れをも想像させる建物。
その表面に、いずれも二本の格子のみが嵌められた穴窓がいくつもならんでいる。
当時、ガラスがない時代に外の景色や空気を入れるため、作ったことが伺えた。
ようやく、目の前にやって来れた。これがずっと見たかったのだ……。


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