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赫い糸
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あれは、何日前のことだろう。
オレンジ色の煉瓦屋根で作られた家々が、縦横不規則に向いている。多少ずさんな作りで、隙間から漆喰がはみ出て見えるがそれもまた自由さを表しているようで悪くないだろう。
白い外壁の小さな戸建が木々を挟んで集まっている素朴な村だが、ゆるやかに起伏する丘の上から望める景色は、いつ見ても変わることなく壮大で、蒼茫の草原を、風と共にかけて走るのは比類なく心地よかった。

雲のない青空を、半分ほど隠すように茂る村の界隈の森。その森を抜け出たずっと向こうに、小さな鐘塔が見える。ジャッジ・ガ・ベルと言うらしい。夕方の5時になると、微かに鐘の音が響いてくる。
毎日かかすことなく、一度でもその音を聞かない日はない。

葉の茎ほどミニチュアな鐘塔だが、きっと近付けば圧倒されるほど大きいに違いないだろう、その上、街全体に堂々と響く音は、この胸をも奮い立たせるに違い無い。ニルはそうやって根も葉もないイメージを膨らせては、信じ込むのだった。
そうして熟考しながら景色を目に焼き付けるように眺め、一面が目映いばかりの金色に染まる頃、胸の中でジャッジ・ガ・ベルが響き、遂に小さな塔を目指し旅に出ることに決めたのだった。

ニルの母、ルーシェは、ニルのことをそれはそれは可愛がっていた。
一人娘のニルから旅に出ると聞いた時、ルーシェは動揺を露わにした。
一人娘を、女手一つで育ててきたその日々はルーシェにとって自分のかけがえのない一生のようなものだった。それは今も変わらない。だからこそ、こうして生きていて、ルーシェの今を作り上げているのは、ニルの存在が大きかった。
そんなニルがいない空間は想像するに耐えず、さしてルーシェがニルとの日課を失うことは、生き甲斐を失うようで、怖かったのだ。
別れ際、ルーシェは何か言いたげそうに口をつむって、偏にニルの姿を見続けていた。
強張った表情はとても快く送り出してるようには見えなかった。けれど、少し遠ざかったところで一度振り返り見ると、それでも、ルーシェは最後までニルの背中を見送っていたのだ。その時、いつもに増してルーシェの献身さや、無条件の愛を感じるのだった。


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