The infinite world



方向音痴と親切な少女の話


 地元から数駅ほど離れた商業施設直通の改札を抜けて、和泉は立ち止まる。左右を見回し、商業施設のフロア見取り図を表示させたスマートフォンをじっと眺めて──首をひねった。
 この商業施設に入っている洋菓子店の前で、センティフォリアと待ち合わせをしている。当然、店の名前もわかっているし、見取り図の中にその名前を発見するところまでは出来た。ただ、現在地がよくわからない。地図が読めないとはいえ、商業施設の中でなら迷わないだろうと自分もティーも思っていたが、甘かったようだ。

「……さて、と」

 自力で辿り着くことを早々に諦めて、顔をあげる。
 念のため、人の多い場所ではかけているようにとマネージャーに渡された、薄いグレーの入ったサングラス。そのレンズ越しに、周囲を確認する。付近にサービスカウンターのようなものは見当たらず、視線を行き交う客に移す。親子連れに、学生の集団。仕事帰りなのだろう、スーツを着ている人もちらほら見受けられる。声を掛けるのならば、ひとまず、流行に敏感そうな女性は避けた方が無難だろうか。
 考えあぐねていると、落ち着いた雰囲気の女性がひとり、こちらへ歩いてくる。

「あの、お姉さん」

 反射的に呼び掛けてしまったが、まだ少女らしさの残る表情を見れば年下だろうか。少し驚いたように立ち止まり、なんでしょう? と戸惑ったように問いかけてくれる。

「突然すみません。道を、お訊ねしたいのですが」

「道、ですか……?」

 商業施設の中で道を訊ねられるとは、思ってもいなかったのだろう。怪訝そうに聞き返してくる少女に頷き返して、スマートフォンの画面を見せる。

「このお店って、どっちに行ったら着きます?」

 英語ではなさそうな横文字の店舗名は、正直、お洒落すぎて読めない。発音するのを避けて、画面の見取り図の一角を指す。
 和泉の指先で示された店舗名を見て、首を傾げた少女。少し考えるように目を伏せると、思い出したように頷いた。

「ここ、洋菓子店ですよね。すぐそこのエスカレーターを下りて、そのまま真っ直ぐ行けば、着きます」

「本当ですか? よかった」

 丁寧に方向を示して説明してくれる少女を前に、和泉は胸を撫で下ろす。思ったよりも近いようで、安心した。真っ直ぐであれば、恐らく迷うことなく到着するだろう。

「ありがとうございました、お姉さん」

 かけていたサングラスを少しだけ外し、相手の目を見て礼を告げる。驚いたように目を丸くした少女に頭を下げて、教えられた通りのエスカレーターへ足を向ける。
 何となく振り返れば、少女はまだこちらを向いて佇んでいた。
 芸能人としてそこまでの知名度はないはずだが、知られていたのだろうか。それとも、ただ単に見送ってくれているだけなのか。

「……どっちでもいっか」

 親切な少女に手を振って、エスカレーターを下る。
 同じ《マスター》として彼女と再会するのは、もう少しだけ後の話。





fin. 2019/01/22

thanks!!


⇒ 親切な少女=奏夜 心(翡奈月あみ さま)

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