来はいつも

色づく深緋色の朽ち葉 2 / 3


不知火の放つ銃声が響く。あがったうめき声が、誰のものかはわからなかった。


「やっぱりさ、お前とか左之さんとか新八っつぁんとか、怪我してたら駆け寄りたくなっちまうんだ。そっちのほうが長かったからさあ……っ」


話しながら彼は刃を躱し、剣を振り上げ、地面に蠢く屍の山を作っていく。血を流しながら、それでも彼らは生きながらに、藤堂は止めを刺さず、ただ迫る敵を退ける。


「人についてくのって、だめなんだよな。あの人のもとならって、そう思ってたのに、結局ずっと、新選組のことを考えてた」


鋭い雨の音のようにも聞こえた。鼓膜をつんざく音を背景に、彼の声はどこまでもはっきりと、俺の耳に届く。深呼吸まがいの浅い呼吸を繰り返す藤堂は、苦しそうだった。
着流しを濡らす血が太ももに張り付いて気持ちが悪い。それでも確かに、痛みなどないのだ。もしかしたら、俺が感じるべき痛みを、彼は背負ってくれているのかもしれない。あんなにも苦しそうなのだから。


「……俺が頑張れって言ったのは、平助がいきたい場所でやりたいことのためにって思ったから。だから、選ぶのは平助で、お願いも言葉添えも、するのは俺じゃない。だけど、ここに来てくれたのは、やっぱり嬉しいんだ」


ひゅうと、渇いた息が喉を通る。


「平助!」


永倉の目が、こちらを向いた。すぐに人だかりに消えた彼の姿はもう見えないが、藤堂にだけは、見えていればいい。


「オレ、」


地獄絵図の中。やけに眩しい月明かりが、藤堂の影を縫い付ける。振り向こうとして、やめた彼が刀を構え。おそらく、笑ったような気がした。


「――オレ、名前が……新選組が、居心地良かったんだ」
「うん」
「今度はちゃんと、自分で決めるから」


左右に男が詰め寄り始める。張り詰めた彼の背中に、俺の背中を合わせて、彼らを見据えた。
――あの日も、こんなふうに月夜が眩しかった。新選組のためにと飛び出した俺の背と合わせて、対等であろうとしてくれたのはいつだって彼だった。


「余所見すんな!」


彼を真似て叫んだ声を合図に、とんと離れた背が風を作る。右に踏み出した俺と、左に飛んだ藤堂とを最後に、俺は誰かもわからない男を斬り殺した。



まるで空気を踏むように、体は軽やかに人の合間を縫って刀を振り回していた。原田に照準を合わそうとしている不知火を視界に捉え、相対していた男の顔面を踏み台に、二、三人の上を飛び越える。そのままちょうど不知火の目の前に飛び降りると、彼が引き金を引くより早く、ふくらはぎを二等する勢いで横にないだ。


「ッ……! 心臓か頭でもぶち抜かねえかぎり死なねえってか!? やっぱてめえも化物だなァオイ!!」


ひょいと飛び上がることで回避した彼は俺に向けて二発撃ち込むが、それは地面に穴を穿っただけに終えた。舌打ちの後、銃口は変わらずこちらを睨みつけるまま、不知火は苦々しげに表情を崩した。


「風間の話によりゃ、十年は少なくともそのまんまだそうだな」
「へえ」
「彼奴は、最初お前に気付かなかった。同じやつだとは、思わなかった。それが今更だ、正直俺もついていけねえェよ」
「仲間割れならご勝手に」


じりじりと間合いを詰める。飛び道具と刀のどちらに分があるかなど、考えるだけ無駄なことだ。彼の愛用の拳銃を壊してしまったほうが、後々楽でいいかも知れない。
彼の微動すべてを見つけるように、睨みつけた。
腹から流れる血は、止まっているのか流れているのか、それさえもよくはわからない。


「ちげえよ。人間じゃねえとは薄々感じてたが、お前それはねェだろ」
「意外と気が長いのね」
「――"それ"だ。お前中身をどこに置いてきやがった」


ぐちゃりと、体の中で音がする。みぞおちあたりから生えた赤い剣先が、空を向いていた。私はどうやら、背後から狙われることばかりらしい。
頭が冴えている。痛みはない。
ぐずぐずと鈍く沈んでいく意識が晴れるように、指先までの感覚が研ぎ澄まされる。左手に握っていた刀が、いつの間にか視界から消えていた。曲げていた左腕をたどっていくと、刀は背後にいた男の腹を刺していた。彼が地面に伏すことで体から刀身が引き抜かれる。重石を失った体に突き刺さる宙ぶらりんの刀を、背中に手を回して自ら引き抜いた。体から大切な何かが溢れるように、腹から赤い液体が飛び出して地面を濡らす。
痛みはない。頭は冴えていて、目の前の男の名を忘れた。
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