来はいつも

瞳に映る空色の日溜り 3 / 3


身体中が、痛い。今までのどの傷よりも痛かった。
地面に倒れ込むと、近くで二つ、似たような音が続いた。


「…二人とも、生きてる?」


喘鳴に似た呼吸を吐くことで精一杯で、返事もろくに出来なかったけれど沖田は何にか納得したような声を上げた。
このまま眠ってしまいたかった。心臓はいまだに忙しなく拍動を繰り返しては頭の中で鳴り響いているせいで、ちっとも山崎の声が聞こえないのだ。
腕を支えに上体を起き上がらせて、茂みの近くに倒れ込む山崎を見る。こちらに背を向けているので僅かに動く肩しか分からない。烝君、と確かに声を上げたはずなのだが、彼は振り返ろうとはしなかった。


「…す、すむ、く、ん」


何度目かの呼びかけに、彼は漸くごろりと身体を仰向けにさせる。――元の色が最早何色だっかのかも分からないほど、赤く染まっている。引き裂かれた着物の下も同じ色で、段々と芝生に赤が広がっていた。俺と山崎の間に座っていた沖田は、何も言わずに彼を見ていた。


「…すこし、疲れた、な」
「……うん」
「はやく、副長を、おわ、ないと」
「……、うん、そう、だね」


ずるり、ずるりと這うようにして動いた。足がてんで動かないのだ。
彼は緩慢な動作で瞬きをしていて、口角から垂れる血を拭く素振りも見せなかった。


「山崎君は、どうして、僕たちの居場所が分かったの?」
「…偶然、でした。敵の、情報を、える、ために、ここまで……。そしたら、あなたたちが、戦って、いた」


山崎は空を仰いでいた目を俺たちに向けると、ゆるく微笑んだ。


「…ですが、よか、った」
「っ…烝君がいなかったら、だめ、だった。きっと」


ありがとう。
血と泥に固まった頬が濡れる。袖口で何度拭っても、血が染み付いているせいで余計に頬が濡れていった。
山崎は朧げな双眸で沖田を見遣る。


「おきた、さん……ふくちょうに、つた、えて、…さいごまで、おともできず、もうしわけ、ないと」
「…伝えておくよ」
「――ふ、まさか、あなたに、ふくちょうへの、ことづてを、いう日が、くるとは」


吸い込んだ息を拒むように、笑った。山崎はひどく重そうに瞬きを一つする。かろうじて押し上げていた瞼が、閉じかかる。


「――烝君! …また、何処かで」
「ふ…ああ、ま、た――」


瞼が、重そうな瞼が、固く瞳を覆った。


「……っ、」


木々の隙間から柔らかな日差しが降り注いだ。山崎の身体が日溜りの中にあって、あれでは眩しくて眩しくて、眠っても疲れなど取れそうにもない。今すぐにでも日陰のある場所に移したかったのだけれど、どうしてだか足が動かないのだ。
身体が重い。どうにもならない鉛が積もっていく。
――君は頑固だったな、といつの日か食事を囲みながら話していたのを思い出す。貴方ほどではないですよと笑えば良かったなと今更に思い起こされて、それからずるずると底に溜まっていた記憶が舞い上がる。沖田の巡察を断って山崎と出歩いたことが知られていたのだとそういえば話していなかった。そのせいで随分沖田とは遠回りもしたのだけれど、そのおかげで、今こうして隣にもいるのだと笑い話をしたかった――。
朝日が眩しい。化物の身体には、それが暖かくて柔らかくて、だというのに一向に涙は乾いてくれない。
沖田も俺も塞がらない傷口から血を垂れ流しながら、ただひたすら、声を押し殺していた。


瞳に映る色の日溜り

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