未来はいつも
それから三日後、藤堂や永倉、他隊士たちは江戸へ出立していった。彼らは先発隊のようで、あとから近藤も同じく江戸へ向かうらしい。多くの脱走者や彼らがいなくなってしまったことでずっと静かになってしまった屯所は物寂しく、がらんとしていた。
「左之さん、新選組は好きですか?」
その晩夕食を摂りに広間へ向かう途中、俺は不意にそう問うた。半歩後ろを歩いていた原田は薄笑いを浮かべながら、「好き嫌いじゃねえよ、ここは」とゆったりとした口調で答えてくれた。それから彼は立ち止まった俺の隣に並び、顔を覗き込むように腰をかがめる。赤い髪が、視界の端で揺れた。
「どうした、名前?」
「……」
小さく俯いて、唇を噛んだ。この目先の小さな世界の変化というものが怖いと言ったら、彼は笑うだろうか。いや、きっと心配いらないと少し苦笑いを浮かべながら俺の背を叩いてくれるのだろう。それを言わせたいがためにこの言葉を言ってしまうには、あまりに俺は今の"新選組"と疎遠すぎて、他人過ぎた。だからこそ彼は苦笑するのだと思える。
しばらく無言で立ち止まった俺をどう思ったのか、彼はぽんぽんといつものように頭を撫でてくれた。彼の手は大きくて、きっと年の離れた兄がいたら、こんな具合なのだろう。
「彼奴らなら心配いらないぜ? 無駄に元気な連中だからな」
「うん…」
ほら行くぞ、と歩き始めた彼の背を追うように、俺は間を開けて歩き始めた。襖に伸びる俺の影は、月の光に呼応して色濃く、まとわりついていた。
「伊東…」
おかしいほどよく覚えていた画面の向こう側の光景を、そういえばいつの間にか殆ど忘れていた。昨日覚えていたはずのものは今日忘れ、恐らく今日覚えていたものを明日には忘れるのだろう。それが何を意味しているのかは分からなかったけれど。この胸の奥で渦巻く不安と恐怖は、なにもその未来の変化だけに感じているのではなかった。
(何を…忘れてるんだろう)
思い出せない。何を思い出そうとしているのかさえ、わからない。
遠くで揺れる篝火を、吹き消してしまいたかった。そうすればこの足元は黒く沈んでいけるのだろうか。
「…名前?」
「――なんでもないです、行こう左之さん」
にっと笑った頬が引き吊らないように、すぐ顔を背けた。ぎしと泣いた床板が、まるで世界の軋みのような気がした。
お帰りと、声だけが先走る。早く早くと急かすほど、この日常は遠のき壊れていってしまうのだと。
それだけは、はっきりとわかっていた。
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