未来はいつも
間違ってなどいない。
床板が軋みを上げる。雨雲の覆う夜空から地上まで細い筋が直線を描く。冷たい風が枝をしならせるたびに、葉のかすれる音が耳元で重なった。
歩みを進めるたびに意識の外から肯定する声を聞く。呼吸をするたびに胸が痛む。吸い込んだ空気に混じり鋭い刺が肺胞を一つ一つ潰すように、息がしづらい。
縁側で立ち止まり柱に右肩をあずけて外を見やる。屋根から伝い落ちる雫までも鮮明に見えるというのに。思わず乾いた笑みが唇を小さく歪ませる。
足音がした。男の足音ではないように思える。床板の軋む音がしなかったからだ。睨むような面持ちで振り返れば、澱んだ山吹の髪を見た。太陽の下でないと、彼の髪がこんなにも映えないことに初めて気づく。それから、気味の悪さに二の腕に鳥肌が立つのを感じた。
「……僕に何か用?」
一番組の組員であった彼は昔の話だ。いつだかに土方が彼を羅刹隊専門の監視役にあててからはすれ違いもしなかったように思う。彼――陽月は、暗闇のせいでよくは見えないがおそらく深緑の着物を身にまとい、その口元にあどけない笑みを浮かべて佇んでいた。
「沖田さんに用はありませんよ。そこが通り道だっただけ」
相変わらず出鱈目な口調が気に障る。彼はわざとそういった言葉遣いを選んでわざわざ言葉を継ぎ足しているようにしか思えない。この距離と暗さのせいで沖田の表情など見えるはずもないだろうに、寄った眉間のしわを笑うように肩を震わせていた。
――腹立たしい。彼を見るといやでも思い出す。最初に出会った頃、あのまま五指を切り落としていれば彼はこの場にはいなかっただろうか。そんなくだらないことに思考を巡らせて思い起こさないようにそっと蓋をする。陽月は変わらずに苛立たしい笑みを浮かべていた。
「気など揉むだけ馬鹿らしいと捨てるも手だろうか」
ぺたりぺたりと素足が張り付く音がする。床は軋まない。
「時間なんて有限そのものじゃないか。とくに、なんて言わずもがな」
目の前を通り過ぎる彼は本当にここが通り道に過ぎなかったようで、何事もなかったかのように再び歩き始めた。
「〜♪」
聞き覚えのある童歌を口ずさみながら歩くその背中を目で追いかけ、それから瞬きをしてやめた。彼の発する言葉はまるで現地味がない。彼の唇が紡いでいるのだという認識がずれているような、端的に表すのであれば希薄という一語に尽きる。強ければそれでいいと適当に陽月を見ていたが、彼の強さはよくよく考えれば風間のそれに近いものがあるかもしれない。――同じ、黄金の髪だ。秋の稲穂に似た髪だ。
「……」
くっと喉で笑う。胸元の襟を握り締める。誰に向けられた言葉なのか、考えることをやめた。
――胸が、痛い。
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