金曜の夜。いつものようにコンビニのバイトを終えてむくんだ足を引きずりながら帰っていた。買い物袋を片手にバイト時間中の携帯の通知をチェックしていれば、丁度入りの時間とすれ違いに岩泉から連絡が来ていた。といっても言葉なんて短く、そうかと一言だけではあるが、そこに含まれているものが一言で収まるものではないことは何となく分かった。
――徹に連絡したら、一向に返事が来ない。
そんな名前のメッセージに対して、たっぷり一日かけて帰ってきた言葉がその一言だ。おそらく、岩泉が送っているメッセージ――いや、そもそもこの二人が今も連絡を取り合っているのかさえ不明ではあるけれど、もし彼が何かしらを送っているのであれば、返事はどれだけ時間が空いても来ているのだろう。
数か月、既読無視をし続けた名前に対する仕返しかもしれないし、単純に呆れているのかもしれないし、この既読のついたまま返事の来ない彼の真意など推し量ることもできない。それでも、彼はずっと、返事を待っていてくれていたのだ。今度は彼女が待つ番なのだろう。
『そういえばスガさんバレー入るんだってね』
『ああ、どっかで一回やっときてーけど』
送信ボタンを押してすぐに返ってきたところを見ると、彼もバイトが終わったところなのだろう。いつもは深夜もほど近いが、今日は早上がりのようだ。
『そういえば明日課題やりに駅前のファミレス行くんだ』
菅原の話題が上がったから、その時の理由など単純にそれだけだ。共通の相手だったこともあって何も考えずに送ってしまったけれど、既読がついたまま間が空いた。彼にとっては確かに、どうでもいいことだったか。送ってから気が付いたものの、ここで送信を取り消すのも妙だ。まあいいかと放置して携帯を尻ポケットに突っ込んだ。
***
翌日、ランチタイムを少し過ぎたあたりで、ファミレスの前で待っていた菅原と合流した。
図書館の静けさが苦手だと前に話していたことを律義に覚えていてくれていたのかは定かではないが、こういう場所の方が作業が捗る。
中に入れば昼時も過ぎていることもあって帰る客の方が目に付いた。角のソファ席に案内されて、ドリンクだけひとまず頼んでパソコンを立ち上げる。
「スガさん、進捗ゼロ?」
「冒頭三行で止まってる。名字は?」
「タイトルと学籍番号は入ってる」
「それゼロだべ」
ぶっは、と噴き出して笑った菅原は、意外と豪快に笑う人だった。
コースターの上に水滴のついたコップを乗せる店員に軽く会釈をして、正面に座る彼の画面を立ち上がって上から盗み見た。しっかり本文が三行と文末がはみ出して四行めで終わっている。
「タイトル入れて三行って落ちを期待してたのに」
「それ名字の画面と同じ状況になるけど」
確かにと笑って、渇いた喉にカフェモカを流し込む。細いストローから唇を離した瞬間、名前のソファの背もたれに誰かが寄りかかった。
「――よ」
「…はじめ、なんでここに」
目をぱちくりとさせたまま突然現れた岩泉を見上げて固まる菅原に、彼は適当に手を上げてから名前の隣に腰かけた。
「たまたま」
「嘘、家こっち側じゃないでしょ」
そんな言い合いをしながらも彼はテーブルにパソコンを置いて電源ボタンを押している。しかも名前との間に栄養学の厚い本を二冊置かれて、完全にここに居座る気のようだ。
「――いや、俺は別にいいけど、一人だけジャンルがちげーだろ」
「スポーツってとこは同じだべや」
「友達いないんだ…」
んなわけねえだろ、と歯を剥いて否定されたが、説得力のかけらもない。
――ごくたまに、中学も高校も、こんな時があった。バレーにいそしむ彼らの唯一の休みの日に、名前が誰かしらと予定が合えば自然と間に入ってくるようなことをしたがる。過保護だねと友人が言っていたのを思い出すが、はたして彼らが何を二人で結託して考えているのか全く分からない。お陰で彼氏というものができた試しがないので気持ちは大変複雑である。
菅原にごめんと言えば、三人寄れば文殊の知恵っていうしなんて返ってきた。
「…はじめに全部奢ってもらお」
「ふざけんな」
今までの分がこれだけの金銭で解決するなら安いものだろうと言ってやりたかったが、それもなんだか違うような気がして結局数年分の疑問は晴れないまま大学でもこうなるのかと内心溜息をついた。