ワンクッションPleaseMe!!


 何でか最近、ちょもさんの目を直視出来なくて、内心どうしようかと困る事がある。
 普段、本丸に居る時は何時いつ出陣しても良いように武装を解いただけの戦装束で居てもらっているから問題は無いのだ。しかし、現世で護衛と世話係を兼ねて近侍を務めている時は、万が一勘違いされても困るので、内番着のユルい格好でカモフラージュしてもらっている。その時が問題なのである。
 彼の目を覆い隠す……とまでは行かないものの、直接見ないで済む為のワンクッションなる物――所謂サングラスを掛けていないからだ。アレは、基本、戦装束を身に纏っている時にしか掛けていない物で、恐らくonとoffとを切り替える体で扱われている物と思われる。故に、出陣でもない且つ何の用も無いのにも関わらずわざわざ掛けさせるのは憚られる。でも、直接見るのはちょっと心臓が可笑しくなりそうなので避けたいところ……。しかし、かといって、そんな理由を真正直に打ち明けれる訳も無いしで、さて困った。
 一人ウンウンと頭を押さえて唸っていたらば、横合いからひょっこりと顔を覗かせてきたちょもさんより声をかけられた。
「先程から何やら唸っているが、どうした……? 体調でも優れないのか? あまり無理は頂けないぞ」
「あ、やー……っ、別に頭痛いとかそういうのじゃないし……体調不良から唸ってたって訳でもないから。心配してくれて有難う、ちょもさん」
「体調が優れないという訳ではないのだな? 良かった……。ならば、今しがた唸っていた理由は何故かを訊いても差し支えは無いな?」
「えぇっと、其れ、はぁー…………っ」
 上手く誤魔化せる言い訳が見当たらず、目を逸らそうと視線を向けた先で、彼の赤い紅の瞳と直接ぱっちりと合ってしまった。途端、詰まる言葉と上昇する体温に熱を持ち出す頬。
 結局なところ、碌な言い訳すらも思い浮かばず、片手で顔を覆い隠すようにして彼から顔ごと視線を背けた。
 突如起こした私の珍しい照れムーブに、虚を突かれたみたく驚いた彼が、視線を背けた向こうで目を瞬かせているのが気配のみで見て取れる。彼には申し訳なく思ったが、此ればかりは仕方がないのだ、という言い訳にもならぬ言い訳を胸中にて呟いて合掌した。
「小鳥が照れるとは珍しいな……。何かあったのか?」
「……いやぁ、その……っ、大した理由じゃないんだけどさァ……っ」
「うん、何だ? ゆっくりで構わない、話してみなさい」
 言い淀む私の様子を察してか、優しく促してくれる彼の優しさに感謝しつつ、遠回しな言い方を意識しながら口を割ってみた。
「えっと……ね、そのぅ……っ、ちょもさん、今、サングラス掛けてないじゃない……?」
「あぁ、掛けていないな」
「その、個人の勝手なイメージで、いつも掛けてる印象のが強かったせいなのかな……っ。何か、そんな感じで……。最近はレベルカンストしちゃってるのもあって、ずっと内番着なのもあったし。其れで、サングラスも外してる事の方が多いよなぁ〜と、漠然と思いまして…………っ」
「ふむ……? 確かに、小鳥の言う通り、ここ最近はずっと裸眼で居る事の方が多かったが……其れが如何したかな?」
「う、うん……。其れって、イコールちょもさんの目と直接視線が合っちゃう訳じゃない……? 其れが、何か、最近無理っぽくて……っ!」
「……其れは……つまり、私と、直接見つめ合うのが嫌……という事だろうか?」
「いやっ、決してそういう訳では無くってですね!? ちょもさんの事が嫌いになったとか、ちょもさんと目を合わせるのが嫌だとか、そういうんでは全く無いから安心して欲しい……っ! 大丈夫、其れだけは絶対に無いから!! 重ねて言うようでアレだけど、マジでその点に関しては安心してくれて大丈夫だから!! おk!?」
「そ、そうなのか……っ。其れを聞いて、一先ずは安堵したが……。結局のところ、小鳥が何故私と直接目が合った事で恥ずかしがるのかの、本当の理由が分からないのだが?」
 終始私の言動に困惑している様子の彼に、此れは正直に物申すしかないな……と思い至った私は、腹を括って真実を打ち明ける事にした。
「御免なさい……っ。敢えてわざと遠回しな言い方にしたのが悪かったよね……。えっと、率直に申し上げるとだね……“恥ずかしくてちょもさんの目を直視出来ないから、今暫くの内はサングラス掛けてもらってても良いかな?”って事を伝えたかっただけなの……っ。超絶個人的な理由且つ我が儘言って本当にすまんとは思ってる。……けど、お願い、今だけは許してください、お願いします……ッ」
「……成程。訳は分かった。――が、今のを私の都合の良いように解釈すると、“私の事を好いているが故に私と直接目を合わせるのが恥ずかしい”という風に受け取れたのだが……この解釈で合っていただろうか?」
「あ゛ぃっ……仰る通りでございます、ハイ…………ッ」
「ふふっ……案外、小鳥にも愛らしい一面があったのだな。ふふふふっ……嗚呼、笑っては小鳥に失礼であったな。失敬……っ。しかしながら、其れならそうと言ってくれれば良かったのだがな。私も恥ずかしがり屋故に此れ・・を掛けている事は、小鳥も既知の事であろう?」
「いやァ……っ、理由が理由なだけに言いづらいかったし、頼みづらい事だったから……。だって、“ちょもさんの目、直視すんの恥ずかしくて出来ないから、サングラス掛けてもらっても良い?”……とかってお願いするとか、普通に考えて無理だわ。言い出すの自体恥ず過ぎるし……ッ」
「ふふふ……っ。では、お望み通りに、今暫くは此れを掛けて過ごすとしよう。――だが、小鳥が慣れてくれるまで、だからな……? 出来れば、早めに慣れてくれる事を祈るぞ」
「ヒェッ……! 頑張って努力はするけども、慣れない内は極力お手柔らかにお願い致しますぅ……っ!!」
 要は、グラサンでワンクッション挟んで見ていた……という事である。だから、そのクッションを無くされると、直に見つめなくちゃいけなくなってやばいってなオチであった。
「ふふっ……我が小鳥も、実を言うと、なかなかに恥ずかしがり屋だったという訳か。此れは良い収穫だったな。また一つ、私の知らなかった小鳥の一面を知れた」
 そう言って、微笑ましく思っているのであろう彼は、何故かひたすらににっこり笑顔であった。その裏で内心、余裕があったら今回の一件で弄ってやろうか……などと、虎視眈々と考えていたりしなかったり――なんて話は、知らぬが仏なり。


※旧タイトル:『ワンクッション挟む代わりにグラサンを』。変更理由……ちょっと長ったらしく思った為。

執筆日:2021.05.30
再掲載日:2023.05.22