山鳥毛さんと秋の味覚・梨
本丸より、燭台切から今年初物だという梨が送られてきた。其れも、すぐにパクッと食べやすいようご丁寧にカットまでしてくれた物をタッパーに入れて、という具合の物だ。まぁ、“送られてきた”というのは些か語弊があったので言い換えると、
現世の仕事と兼業して二足の草鞋を履く彼女は、常に忙しくしている。そのせいか、食事を含めた生活面がだいぶ危うい事になっている。放っていたら、確実に玄関先で行き倒れている事間違い無しなのだ。故の近侍ないしその他の刀達が毎度こうして彼女を思って進んで世話を焼きに来るのであった。今回の梨もその内の一つといったところだろう。
季節の物はその時食べるのが旬だし、その分栄養もいっぱいに含まれているから、忙しさにかまけて食事を疎かにする彼女に少しでも精を付けてもらおうという優しい気遣いからであろう。
そんな彼等の気持ちを分かっている彼女は、今回も有難く頂戴し、早速タッパーの蓋を開封して中身を幾つか皿に取り、食らい付いた。美味しい梨を戴いて、思わず表情を緩める彼女に、現在の近侍を務め彼女の側近として控える彼がクスリ、と笑みながら呟く。
「我が小鳥は、梨が好物だったか」
其れに、彼女は綻んだ表情で頷いて返した。
「梨ってさ、秋となる前頃に実る果物なんだけど、季節に合わせて実る果物だから、凄く水分が多めなの。で、その瑞々しさと控えめな甘さが、夏の暑さにバテてた体に丁度良い具合に染み渡るんだよねぇ〜っ。旬の物だから当然の事なんだろうけど、此れが本当に季節に合ってるから美味しいんだよ……! なもんで、私は子供の頃という昔から梨が大好きなのです」
「成程、よく理解した。長船の長なる祖から戴いた梨が余程お気に召したのだな?」
「今年は水害やら何やらで小振りだけども、燭台切から貰ったヤツだからハズレ無しでめちゃくちゃ甘くて美味しいよ。
「ふむ。小鳥自らくれるというのならば、戴かない訳にはいかないな。こういう事を進んでするのは、少々気恥ずかしいところだが……まぁ、今此処に居るのは私と小鳥だけという事で、有難く戴くとしよう」
ナチュラルに“お口あーん”で食べさせられるお頭という絵面を平気で作り上げるのが、当本丸の審神者である。しかし、この二人……現状、まだ恋仲という訳ではない。もしかしたら、今後の展開によってはそうなるのかもしれない、というだけの関係性だ。まぁ、お互い信頼し合っているし、心を許し合っているから出来る芸当なのだろう。少なくとも、この場に彼の舎弟である“子猫”が居たら確実に出来なかったであろう行為なのは確かだ。
しかし、当の本刃も、口ではああ言いつつも、実際のところは満更でもない様子であったのを見るに、どうやら彼女の事を痛く気に入っているようである。其れこそ、自分への甘えて欲しさすら滲ませて。
「……うん、此れは確かに美味なる物だ。よく熟している甘さ故に、小鳥がお気に召すのも分かる。此れは美味いな」
「でしょ? こんなに美味しければ、ついパクパク行っちゃうから、すぐに食べ切っちゃいそう」
「はははっ、小鳥らしい感想だな。此れをくれた彼も
「まだまだ沢山あるんだし、
「いや、気持ちは嬉しいのだが……っ、後は自分で戴くとするよ。此れ以上小鳥の手を煩わせるのも気が引けるのでね。何より、君に餌付けされるというのは、やはり気恥ずかし過ぎるというか、どうしても照れが勝ってしまってな……すまない」
「そう? 別に私の事は気にしなくて良いんだけどね。私が気にしてないから」
「小鳥が気にせずとも、私が気にするのだよ……」
シャクリッ、と瑞々しい音を立てて、また一口と梨が彼女の口の中へと消えていく。その様子を見つめながら、僅かに頬に上った火照りを冷ますべく、一度自分の分のフォークと受け皿を取りに行く体でその場から移動した彼の顔は、すっかり赤みを帯びていた。恥ずかしがり屋というのは、強ち嘘ではないのかもしれない。
ちょっぴり甘酸っぱい空気漂う雰囲気の、時偶の二人きりな休日であった。
※旧タイトル:『山鳥毛さんと秋の味覚・其の壱−梨』。変更理由……梨ネタ一作品しか無かった為or今後再び秋ネタを書くか不明だった事により。
再掲載日:2023.05.20