告解

 審神者が、或る日を境に目を覚まさなくなってしまった。眠ってからずっと起きないままなのだ。
 死んではいない事は、呼吸のする音と拍動で上下する胸の動きだけで何とか分かる。けれど、生きていると認識出来る証拠は其れのみなのである。
 主は、眠ったまま起きない。
 何故なのか、理由も分からず、原因も不明だ。一応、時の政府お抱えの専門の医者に状態を診てもらう等の措置は取ってみたものの、やはり駄目だった。
 どうして、こんな事になってしまったのか。何も知らない者達は不安に駆られるまま、色々な手を尽くそうと試みる。しかし、審神者がこうなるに至ったよしを知る一振りの刀剣男士が、慌てふためき惑い立つ皆を見ていられなくなったのか、静かに挙手したのちに口を割った。
「主が寝たきりで目を覚まさなくなったのは……十中八九、俺のせいだろう……。俺が、勝手に、“主の為になれば良い”と願って……或る怪異の力を借りる事に決めたんだ。……ただでさえ、なまじ力を持つが故に夢見の力を有してた奴だ……夢見の悪さも極めれば、ソイツは彼奴を苦しめるただの毒で害となる……。だから、其れが、少しでも良い方向へ改善出来ればと……始めの内は、そんくらいにしか思ってなかったんだ。縋れる術があるのなら、誰だって縋りたくなるもんだろ……っ。次第に体調まで崩して、元より病んでた精神まで悪化させていくのを見てたら、居ても立っても居らんなくなっての、気の迷いってーの……? 偶々、掲示板の類で、何か良い記事無ェかって調べてた最中に見付けた怪異についてのネタに、“此れしか無ェ!”って飛び付いて……思い立つがまま、掲示板に書かれてた手順を踏んで、怪異の力を借りた。其れからだ……主が死んだみたく一切目を覚まさなくなったのは…………」
 彼の言葉に、周りに居た者達は一様にざわめき立ち、彼を注視した。その輪の中に居た一振りが、怒りを滲ませた顔で彼へと近付いてくるなり、勢い良く胸倉を掴んで噛み付いた。初期刀である、加州清光であった。
「お前……自分が何したか、本気で分かってる?」
「何であろうが、審神者へ危害を加える事になる行為は御法度中の御法度である……だろ? そんくらい、本丸が出来た黎明期から一緒に居る俺が分からねぇ訳無ェじゃねぇーか」
「だったら……ッ!」
「ここ最近の主の精神的不安定さを見てたら、近しい距離に居る奴なら誰だって思っただろうがよ……ッ。そもが、元より死んだように生き長らえてるだけの奴が、最終的に望む事なんざ分かり切った事だと……。絶対ェそうはさせてなるものかって、思ったからこその考えで起こした事だ。けど、主の意思に伴わぬ以上は謀反に相違無い。斬りたきゃ斬れよ。その為にお前が真っ先に進み出て来たんだろ、初期刀様の加州さんよォ?」
「ッ……テッメ、減らず口も大概にし――!」
「――其処までだ、二振りふたり共。ただ衝動のまま揉めるだけでは、物事の解決には至らないぞ。本丸に長くから居る者ならば、古参者らしく少しは冷静に振る舞いたまえ。其れとも何か? この僕の誅罰を食らいたいなら話は別だが? そうでもして無理矢理この場を収めて欲しくば、そうするのもやぶさかではないが。さて、此れに貴殿等はどう対処するかな……?」
 今にも斬りかからんとする勢いで憤怒する加州と煽り口を叩いた男を諌めんと口を開いた者が、また新たに輪の中より進み出て来る。歌仙兼定であった。
 この言葉と威圧感には、流石の二振りも口をつぐまずには居られなかったのか、渋々距離を取るという対応に出た。此れに満足げに一先ず頷いた歌仙は、再度口を開き愚痴を零す。
「血の気が多過ぎるのも、些か困りものだね全く……っ。――で? 僕等にも内緒で誰にも打ち明けぬまま起こしたという、貴様の愚行についての申し開きを、改めて聞くとしようか? 同田貫正国よ」
 鋭い視線で射殺さんとする歌仙の視線を苦々しくも受け止めた男は、諦めた風な顔で俯き、頷きを以てして首肯を示した。
 此れを共に輪の中より見ていた陸奥守吉行が、静かに皆を見渡すように前へ進み出ると、次のように言った。
「此処に居る者で他の皆を大広間へ集めとうせ。詳しい話は其処で聞く。同田貫を責めるがは、その後でも出来るじゃろう。けんど、先に言うちょくが……わしが思うに、皆で一方的に同田貫を責めるがは筋違いやと思うぜよ。ほんに主を思うがやったら、責められるんは同田貫だけやない、わし等皆じゃ。同田貫が起こしたんは、単なる切っ掛けに過ぎん……。ほいやき、まずは話聞いてからにしようやないか? 話し合いは大事ぜよ。話も聞かずに斬るがだけやったら、其れは愚の骨頂……猿でも出来るちや。人とおんなじ器を貰うて、同じように考える頭を、機会を貰うたんじゃ。武器を交えるなんてらぁは、そん後ぜよ。分かったら、早よう動き」
 陸奥守の言葉に静まり返ったその場は、その後、皆を大広間へと集めるが為に各々動き出した。同田貫や加州も其れに従い、大広間への移動を始める。
 さて、この度、審神者が昏睡状態に等しくなるに至るまでの事のよしを、つまびらかに紐解く時間としようじゃないか。結論として、誰しもが思う事は同じであったのだから。
 夢の世界でくらい、その者が望む世界を見せてやろう、と……。そう思う事は、果たして罪となるのだろうか――?


執筆日:2023.06.12/公開日:2023.07.17