そろそろ夢から覚めて、現実を見なければ……。気付いたのは
彼女は静かに決意を胸に、夢の終わりへ手を伸ばす。
読んでいた物語の最後の頁を捲るように――。
夢の中でしか見れぬ事を、世界を、望んだ。其れは事実だ。けれど、そのせいで、現実に生きる大事な者達を悲しませるのは本意ではなかった。だから、彼女は夢から覚める事を選んだ。
そうして、長い長い夢から目覚めた彼女は、夢の切れ目で伸ばした手の先を見つめた。彼女の手は、信じていた通りに、誰かの手に握られていた。其れは其れは、大層慈しみに溢れたように大事そうに。戦の為に生まれた筈の武骨なかたい掌が、決して離す事などしないと言う風に、包み込むみたいにして、ぎゅっと強く。しかし、痛くはないように優しく、しっかと握り締められていた。
夢から覚めたばかりで薄らぼんやりとした意識と目を、傍らに座す存在へと向ける。すれば、その視線をやんわり受け止めた彼が、くしゃりと崩した表情でごちた。
「何で……っ、どうして目なんか覚ましちまったんだよ……っ。あのままずっと眠ったままで居れば、アンタの望んだ世界を見続ける事が出来ただろうに…………」
長らく眠り続けていた女は、話す事を忘れていた喉を動かして、掠れた声で応える。
「本当の世界での君達が伴わなければ、例え素敵で素晴らしい夢だったとしても……見ている意味が無いと気付いてしまったから、かなぁ…………っ」
審神者も、傍らにずっと寄り添っていた男も、その頬に涙を伝わせていた。其れでも、二人してこう言い合うのだ。
「……良い夢は見れたかよ?」
「お陰様でね……これ迄に見た事が無いくらいには、素敵な良い夢を見れたよ……有難う」
夢には必ず終わりを見付ける。其れを見逃すか否かは、見ている人の選択次第だ。
執筆日:2023.06.12/公開日:2023.07.17