大切に想えばこそ「子供にまで手を出すほど、飢えているとは思わなかったな」
そう嫌味を目の前の男に向けて言い捨てる。もはや見慣れたと言われてもおかしくないこの光景だが、いつものように苦々しく顔を歪めていた男が、何故か口の端を歪めて笑っていた。
「子供、ねぇ」
「……なにがおかしい」
いや? と男は不愉快な笑みを止めない。
「あいつはてめぇが思ってるよりも、存外ガキじゃねぇと思うがな」
「──綺礼!」
つい先程のそんなやりとりを思い出し少しぼうっとしていたが、跳ねるような声にハッとする。私の名を呼ぶ彼女は相変わらずだ。
瞳を輝かせ、私と会えただけで嬉しくてたまらないと言う顔をして小走りでこちらへ駆け寄ってくる。……これのどこが大人だと言えるのだろうか。
「……今もしかして失礼なこと考えてなかった?」
「ふ、どうだかな」
膨れる彼女をなだめるために、その頭へ手を伸ばす。
……そして、その位置が随分と高くなっていることに気がついた。
──当たり前か、彼女と出会ってから、もう十年も年月が流れているのだから。
だが、
「へへ…」
頭を撫でられて喜ぶ彼女のその様子は、あの頃とそう変わらない。そうでなくとも私にとってはいつまでも子供みたいなものか。
……長らく忘れていたが、この感情が家族への情だと言うのだろうか。ならば──私はいつか、この子すらもこの手にかけたいと望む時がくるのだろう。
その時は──
「……その時は、もうお前のことを子供扱いするのはやめにしてやろう」
不思議そうに首を傾げる彼女の喉元を撫でる。
……それは、きっと、そう遠くはないのだろう。
胸を占める密かな欲望に気付いた私は、知らずに力を込めていた指先を、彼女の肌からそっと離した。
clap!
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