よあそび



 気づいた時にはもう深夜〇時を過ぎた頃だった。あまりにも帰りが遅くなってしまったと少し急ぎ足で帰り道を急ぐ、はぁ、と吐いた息の白さに冬の寒さを感じながら冷えた手をさすった、夜は、一層冷え込む。
 教会への道を歩きながらもう一度、はぁ、と息を吐く、どちらかといえば今のはため息だ。友人との会話が盛り上がってしまったとはいえこんな時間まで連絡もせず帰らなかったことを、彼は怒っているだろうか。
 いや、きっと彼のことだ、もうすでに布団の中で安眠でも貪っていることだろう。そして明日の朝、私より早く起きて寝起きの私に嫌味を言って寄越すのだ。子供が一人前に朝帰りの真似事か? とか、相手が誰かは知らんがお盛んなことだな、とか、そういったなかなかに性格の悪い小言を言う男だ、あの人は。

(絶対そんなわけないってわかってるくせに)

 もう一度だけため息をついて目の前の扉に手をかける、誰もいないだろうとわかってはいても、後ろめたさでなんとなく入るのを躊躇した。

「……ただいま帰りましたー……って、あれ……?」

 ギィ、と重い扉を開いた先の講堂にろうそくの光が灯っているのを見て少し驚く、まさか彼が消し忘れるなんてことないと思うのだが、

「遅かったな」
「き、綺礼……!? な、な、なんで」

 とっくに寝ているだろうと思っていた男が、言峰綺礼がゆっくりとこちらへ向かっている、相変わらず何を考えているかわからないような瞳で――いや、今日はよくわかる、呆れた、というような表情で私の前まで歩いてきた。

「何故もなにも、お前の帰りを待っていたのだが」
「待っ……? え、嘘、だってこんな時間になっちゃったのに……」
「まったくだ……お前が夜更けまでどこの誰となにをしようが私の知るところではないが、帰りが遅くなるならば連絡くらいはするべきだと思うが」

 はい……と小さく呟いて俯いた、私が思っていたよりも怒っているようだ、しょんぼり。まぁ私が一〇〇%悪いのだけど。

「まぁいい、次からは気をつけろ……早く風呂を済ませて部屋に戻れ」
「え」
「なんだ」
「あ、いや、待っててくれたってことは、何か用事でもあるのかなー……と思ったから……」

 まさか何の用もなくただ私の帰りを待つためにいつもならとうに寝ているような時間まで起きていたなんてこと綺礼に限ってあるわけ――

「……? 急ぎの用はないな、あるとしても明日の朝で構わない。それよりも早めに寝ておかねばまた朝食に間に合わなくなるぞ」

 ――あった。嘘だ、綺礼がただ私の帰りを待っていてくれるなんて。
 ……嬉しい、だけど同じくらいやっぱり、罪悪感は、ある。

「き、綺礼、」

 さっさと部屋に戻ろうとする彼の裾を引き呼び止める。彼は「なにか?」と頭だけで振り返った。

「そ、その……次からは、ちゃんと連絡、する……します、えと……ごめん、なさい」

 そうして頭を下げてから、ちらりと彼の顔をうかがい見る。彼は小さく息を吐いてから、「申し訳ないと思っているのなら明日の朝食はお前に任せよう……それでいいな?」と少しだけ微笑んだ。

「う、うん! わかった!」
「つまり私よりも早く起きて準備をしろということだがわかっているんだろうな」
「う……うん……! 頑張るね……!」
 


 ――ちなみに、この何時間か後、早朝。
 当たり前のように寝坊した私は、綺礼にまた嫌味を言われることになるのであった。




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