素直が一番



 抱いたサイズ感が良い。それが初めの感想だった。

「だけどちょっと髪の部分がチクチクするかも」

 私はぬいぐるみの頭を撫で着けながらそう呟く。

「なんだそりゃ」
「何って、これの感想?」
「いやそもそもそれがなんなんだよ」

 ベッドサイドに立つランサーが、ゴロゴロ寝転がっている私の胸元にあるぬいぐるみを指差した。

 それは青い髪、赤い瞳の人型のぬいぐるみだ、これが誰のぬいぐるみかなんていうのは、尻尾のように伸びた後ろ髪や耳についた銀の耳飾りなどを見れば一目瞭然、どこからどう見たって――

「ランサーのぬいぐるみだけど?」

「……俺のぬいぐるみ」

 確認するように私の言葉を反芻する。私も私で「そう、ランサーのぬいぐるみ」と再度伝えると、彼は深々とため息をつく。

「そんなもんどこから持ってきたんだよ」

 ランサーは少し呆れたような表情で私の持つぬいぐるみの髪や腕なんかを引っ張った。

「……別に? ランサーには関係ないじゃん」

 その手を振り払うようにして私はぬいぐるみを彼とは逆方向に抱える。そう、彼が気づいているかどうかはわからないが私は今とても不機嫌だ、拗ねていると言ってもいい。

「あ? なんだよお前、怒ってんのか?」

 やれやれ、とでも言いたげな口調。自分でも面倒な女の自覚はあるので放っておいて欲しい。

「……あぁ、さてはお前、この前俺が、バゼットの方がいい女だっつったことまだ根に持ってんな?」
「!」

 図星だ。

 開き直ることもできず言葉に詰まる、もはやこれは肯定しているようなものだ。

「うるっさいなぁ〜! どうせ私よりバゼットの方がナイスバディで、人格者ですよ〜だ」

 ぬいぐるみの頬を両手で掴み、ねー? と話しかける。もちろん返事はない。ただの綿の塊だ。

「そんなにバゼットがいいなら、向こうと契約しちゃえばいいんだ」

 ……勢いあまって余計なことを言ってしまったと自分でも思う。彼が「ほー」と声を上げるのを聞いて、びくりと肩が震える。

「いいのか?」
「……っ! 好きにすれば……っ」

 思わず見栄を張ってそう言ってしまう。もちろん、そんなことされたら悲しくて悔しくて仕方ない。

「ま、お前がそう言うのなら、俺に留まる理由もないわな」

 くるりと彼が踵を返すのを見て、あっ、と手を伸ばす。扉に手をかけてから少しだけ振り返った彼が、どうした? というようにニヤリと笑った。

「………………ごめん……さっきのは、嘘……本当は、行っちゃ、やだ……」

 観念して素直にそう呟いた。本当はまだ強がっていたかったのだけど、もし本当に彼が彼女のところに行ってしまったら……やっぱり嫌だ。

「ほほーう?」
「う……! ばか、ばか! わかってるくせに! なんで言わせるんだよ!」
「そりゃお前、なかなか素直にならんほうが悪い」

 楽しそうに笑いながら彼が私の隣へ戻ってくる。行かないで欲しいとは思ったけれど、今そばに来られるのは嫌だ、なんか、ムカつく。

「んだよそんな顔すんなって! 俺はどこにもいかねぇんだからよ?」
「……うるさい!」
「おっと」

 彼にぬいぐるみを投げつける。それを悠々と受け止めて「もっと大事にしてやれよな」と言って私に投げ返した。

「むぅ、ぬいぐるみなら可愛げがあるのに」
「へぇ、やっぱり俺はいらねぇってか?」
「……そうは言ってない」
「お? ちょっとは素直になってきたじゃねーか」

 よしよし、と私の頭を撫でるランサーの手が温かい。まだ少し……いや、すごく、ムカつきはするけれど、うん。

 ……思わず素直になるくらいには、彼のことが大切なので、それはもう、仕方がないので、彼の望み通り素直にそれを受け入れることにした。





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