It was to be mine. 衛宮士郎という男は、いろんな人から好かれていた。
「あれは好かれてるんじゃなくていいように使われてるだけだろ」
……とは、彼の友人である間桐慎二の言葉。私も概ねそう思う。けれど多数の人から好かれることよりも、多数の人から嫌われないことの方が私はすごいと思うわけで。その点で言えば衛宮士郎は「すごい」んじゃないかなとそうも思っていた。
それでもやはり全ての人から嫌われないなんてことは不可能で。
だって現に——私は彼が大嫌いだったから。
「衛宮、か——」
あの日、そう呟いたあの人の……言峰綺礼の横顔を、私は多分一生忘れない。
「……綺礼、」
「…………お前か」
振り向いた彼の表情はいつも通りの鉄面皮で、先程の熱を持った表情はどこかへと消え去ってしまっていた。
……ずっと求めていたものを見つけたような、期待に満ちたような、あるはずもない希望のような色をした彼の瞳。
それは、私が——私が、得るはずのものだったのに。
(——なんで……)
私が、この聖杯戦争に参加して。
私が、彼の代わりに何もかも台無しにして。
私が、聖杯を手にして。
——そして最後に、彼の前でぐちゃぐちゃになって死ぬ。そうしてやっと、彼の興味をひけるのだと、そうなりたいとずっと願っていたのに。
彼に殺されたいなんてそんな上等なことも望んでいない、ただ、ただ最期に、彼の求めるものを見つけるために何かできたら、その末に彼に「どうせなら手にかけておけばよかった」と思ってもらえるような存在になれたらって、それだけ、それだけを、私はこの十年間ずっと考えていたのに。
なのに、
なのに——
——どうして、
私を見る彼の顔は変わらない。いつもと同じ、私を見ているようで私を見ていないような、ずっと奥を覗かれているようでその実関心なんてひとつもないような。
そんなことには慣れている。……慣れていた、はず、なのに。
今は、それが狂おしいほどに口惜しい。
「…………私が——私が、勝つから、……聖杯を手にするから、その時は……」
私を——なんて、言葉が口から出そうになって、飲み込んだ。それに気づいてから気づかずか、彼は口元を歪めながら、「楽しみにしている」と告げて私に背を向けた。
(それは、どっちを……?)
私が勝つことを? それとも——もしかしたら、その逆だろうか。
彼の歪んだ愛の在り方でいうのなら、後者の方が愛されているということだろうか。
……十年も一緒にいたのに私にはやはりわからなくて、それならやはり、私にはまだ彼に愛される資格はないのかと項垂れる。
——ああ、もしかして、彼にあんな顔をさせる衛宮士郎《あの人》なら理解できるのだろうか。
ふとよぎったその思考が、それによって灯った嫉妬のような感情が、炎のように私の身を焦がしていた。
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