実が成るまで



 初めて彼の誕生日を祝った時、彼は「父を思い出す」と言った。彼の父である璃正神父は、世間で言う正しい父親像よろしく、毎年息子である綺礼の誕生日を自分のことのように喜び、祝ったらしい。

 それを聞いた時、悲しいことを思い出させてしまったか? と一瞬悔やんだが、それが杞憂らしいことは次の年にはもう気づいていた。どうやら彼にとってはそのようなことはいちいち懐かしんだり惜しんだりするようなことでもないらしく、そもそも大人はそういった悲しみは早々に乗り越えられるようになるらしかった。

「じゃあ、おめでとうはしてもいいの?」
「好きにしろ」

 そのように言われたため、二年目も特に迷うことなくお祝いをした。しかし特段、喜ばれることもなく。自分がやりたくてやっていることとはいえ、できれば喜んでもらえた方が、嬉しいのだけど。

「ほう、なら我が良いことを教えてやろう」

 何年目かの冬、云々と頭を悩ませる私に王様は言った。

「そいつは人より捻くれているからな、喜ばれようとするよりむしろ……」
「英雄王」

 上機嫌にグラスを傾ける王様を、少し怒ったような様子で綺礼が嗜める。

「なんだ言峰、無垢な子供に自身の性質を知られるのは避けたいか?」
「そういうわけではない、が、まだ理解するには早いだろう」

 ぱたん、と彼が教本を閉じる音がした。どうやらこの話は子供には早い、もう寝る時間だということらしい。私は少し頬を膨らませ抗議の意を示してみたのだが、それで私が大人になるわけも、時が戻るわけもないことは子供の私もよく知っていた。

「じゃあ、私が大人になったら教えてくれる?」

 寝室へ促され、私は半身で彼を振り返りながら尋ねる。

「……そうだな、おまえがもう少し大人になって——私にとって、失い難い何かになっていれば、あるいは」
「……? わかっ、た」

 それがどういう意味かを理解はしていなかったが、それを悟られればまた「まだ早い」と言われてしまうだろうことだけはわかっていた。なので私は聞き分けの良いフリをして、自室の扉を閉める。——わからないが、きっと大きくなれば、大人になれば、わかるのだろうと信じていた。

 ——今思えば、この頃の私は彼にとってまだ未熟な果実そのものだったのだろう。そのことに思い至ったのは、奇しくも自分以外の人間が、そのように評されていたのを聞いてからだったのだが。

 そして収穫は——未だ果たされないまま……——
 




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