さくらんぼのへた結び選手権



 食堂で、食後のパフェに舌鼓を打ちながら、さくらんぼにまつわるこんな話を思いだす。

「そういえばさ、さくらんぼのヘタを蝶結びできる奴はキスが上手いって話、知ってる?」
「んだそれ」

 向かいに座るランサーは、初めて聞いたわ、と言いながら杏仁豆腐を口に運ぶ。そこにはおあつらえ向きにさくらんぼが一つ、私のパフェにももちろん一つ。

「私できるよ」
「ほー、なら俺にもできそうだな」
「む……なにそれ、自分上手いですよアピールむかつく」
「なら試してみるか? どっちが先に結べるか」
「いいよ、負けないから!」

 私たちは互いのデザートに乗ったさくらんぼの茎を手に取り、いっせーので口の中へと放り込む。そしてやけに真剣な顔のまま見つめあって──先に「できた」と舌を出したのはランサーの方だった。

「んあっ……! わらひもれきたもん!」
「ま、でも俺の方が早かったな」
「ぐぅー! ……っあはは」

 悔しさはあったが、それよりなんだか二人して真面目にモゴモゴしていた事実が面白くて、思わず笑みが溢れる。彼も釣られるように笑ってから──私の頬に手を添え、私にキスをした。

「──んむ!?」
「いや、やっぱキスの上手さを競うなら、実際試してみねぇとわかんねぇだろ」
「こっ……ここ、食堂だぞ!?」
「構わん」

 私が構うんだ、と逃げようにも、彼が私の顔を両手で掴むせいで逃げられず、また彼の顔が至近距離へと迫った。

「次はこっちで勝負な……先に腰砕けになった方が負けってことで」
「しょっ……勝負にならない! それじゃ……!」

 そんなの私が負けるに決まってるじゃないか──
 私のそんな言葉ごと飲み込むように、彼は私の唇を奪った。
 




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