月夜に輝いた青



 昼と夜ならどちらが好き? という質問に、私は迷わず夜と答えるだろう。
 夜の方が静かで、人もいないし、なんとなく自由な感じがする。

「ランサーは日中の方が好きそうだね」
「なんだ、藪から棒に」

 そんなことを考えていたので、隣にいた彼にもそんな感じで声をかける。だけどまぁ、私の頭の中を察することができるわけでもないし、そりゃそうか、というような返事が返って来た。

「まぁ、別に好きも嫌いもないが……何でそう思うんだよ」
「えー……光の御子、だから?」
「単純だな」

 呆れたように笑う彼の顔を見ると、やはり彼はどちらかと言えば昼間の方が似合うなと思った。昼間というか、明るいところというか、太陽というか……とにかく、日の当たるところで笑っているのがお似合いだ。
 そんな彼を、夜の街と名高い新宿へ連れ出すのは少し……申し訳ないような気もしつつ、私は彼を引き連れてその特異点へと向かう。

「で、今日は何目当てだ?」
「二丁目の魔本にちょっと用事が」
「なるほどな」

 入り組んだ路地を抜け、彼の提案で少し階数の高い建物の屋上へと上がる。この方が街を見下ろすのにちょうどいい。

「いやぁ、相変わらずいい景色」
「そうかぁ?」
「そうだよー、街の灯りと星の光と……上も下もキラキラして……」

 それに、今日は月も綺麗に見えるから──と、彼を振り返ると、揺れる青色が目に入った。
 月の光を受けて煌めく青、浮かぶ赤の瞳。
 異質、けれどそれゆえに、

「……きれい、」
「なんか言ったか?」

 間髪入れずに聞き返す彼に、なにも、と返して私はまた空を見た。今日は、星が一段とよく見える。

「……あぁ、なるほど、アレか、月が綺麗ですねとかいうやつ」
「は、はぁ? 違うよ、自意識過剰なんじゃない?」
「おうおう照れんなって、お前ロマンチストなとこあるもんなぁ?」
「違うってば!」

 そういう遠回しなことじゃなくって、本当にただ、彼のことが綺麗だと思ってしまったのだけど。
 それは、恥ずかしいので、まだ伝えないことにした。
 




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