please be quiet



 君のお喋りを聴くのは嫌いじゃない、と、彼はよく私に言ってくれていた。ただでさえ饒舌な私は、彼のその言葉が嬉しくてさらに言葉を重ね続ける。

「あのね、それでその時、ムニエルさんが――、」

 なんでもない日々の記録話を、彼はいったいどんな顔で聴いているのだろう。そんなことが気になった私がふと隣に座る彼を振り返ると――思っていたよりもずっと近くに彼の瞳があって、つい、私は言葉を詰まらせてしまった。

「……え、と」
「――うん」
「…………っ、あ、あはは! ダ、ダヴィンチちゃんってば、ちょっと、近いよ! もう!」

 ゆっくりと弧を描く彼の唇が私の方へと近づいて、あ、これは口付けをされるのかも――なんて気づいてしまったが最後、止まっていたはずの私の口は先ほどとは比べ物にならない速さでまた回り出す。

「い、いやぁ、それにしても、こんな距離で見ても毛穴の一つも見えないなんて! さすが黄金律ってやつ? ……あ! いや、もちろん好きになったのは見ためだけじゃないけどやっぱ綺麗な顔も好きっていうか」
「し
「シィ……――静かに」

 彼の美しい指が私の唇にそっと触れた。私はそれだけでもう何も言えなくなってしまい、彼のいう通りただ黙り込んでしまう。それを確認した彼は満足そうに一つ頷いてから――やはり、私の想像通り、私の唇にそっとキスをした。

「――うん、良い子だね」

 そうしてそんなふうに微笑まれてしまえば――いかにおしゃべりな私でも、二の句を紡げなくなってしまうのだった。




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