オタガイサマ「——凶悪な獣が王冠を被って何になるというのやら」
そんな言葉を、あの男は俺に寄越した。皮肉であることは重々理解したうえで——そんなもの俺が知るか、と、嘲笑ってやろうかと思ったことを覚えている。
俺は「王であれ」と願われた。だからそうした。それだけだ。
そこに「何のために」は存在しないし必要ない。よしんば存在していたとしても、それは俺には関係がない。王であれと請われた俺に、それを考える意味はない。
だから俺は
愚かであり続けた、その俺にお前は——
「——私の王様」
そんな言葉を、戯れにかけるのだ。
「……
あいつと同じことを言いやがる」
「え? ……ふふ、嫌だった?」
「別に……好きに呼べば良い」
気まぐれに、俺のマスターは俺をそう呼んだ。「王様」、そう呼ばれるサーヴァントは
カルデア に数多くあれど、こいつが、私の、と呼ぶのは、たった一人俺だけであった。……自惚れも自負もなく、それは、誰しもが認める事実である。
「王様、私の王様」
「…………」
「ふふ」
地に座した俺の脚の間で、同じように座り込んだこいつは甘えるように俺にもたれかかる。もう一度「おうさま」と俺を呼んでから目蓋を下ろし、深く深く息を吐いた。
「……貴方の国に、生きてみたかったな」
「は」
悪趣味なことを言う。あの荒野に、死の蔓延る更地に、この女は生きたいと望むというのか。
「おすすめはしねぇな」
「なんで」
「てめぇが生き抜けるとは思えねぇ」
それに、お前は——
——お前は、そんな場所よりも、もっと、陽の当たる場所で——
「……? オルタ、どうかしたの?」
「……いや」
我ながら馬鹿馬鹿しい、と、自らの思考を一笑に付し、この女と同じように目を閉じる。暗い視界の中、また俺を呼ぶ奴の声が俺の鼓膜を揺らした。
愚かしい女だ……この俺と同じくらいには。——そんな女の太陽にも似た笑顔が、固く閉ざされた瞼の裏に焼きついている。
clap!
prev back next