二度と言いません!※フラグ



 敵性反応、消失──お疲れ様!
 そんなダ・ヴィンチ女史からの通信を聞き終えるかどうかというタイミングで、私は大きく息を吸い込んだ。

「うおおおお!! ギリッギリ生存……! よくやったランサー!!!」

 ボロボロの身体で、同じくボロボロのランサーに飛びつく。彼は微動だにする事なく、周囲のゲイザーの残骸を見渡しため息を吐いた。

「あ〜〜〜……! 流石に疲れたっての!!」
「うんうんうんまじでお疲れありがと〜!! 帰ったらひとつだけなんでもお願いきいたげる〜!」

 安心感からポロリとそんなことを言ってしまうが構うものか、割と絶体絶命かと思われたこの状況で……レイシフト先でたった二人取り残され、大量のエネミーに囲まれてしまった中、(満身創痍とはいえ)比較的軽傷で済んだのだから、軽率な発言くらいしてしまうこともあるだろう。

「……ほう、なら、そうだな──顔が、見たい」

 けれど彼の方は耳聡くその一言を聞き逃すことはしなかったようで、そんなことを言ってくる。

「顔? そんなのいっつも嫌になるほど見てるじゃん」
「いや、そうじゃねぇ」
「?」

 そうじゃない、とはなんなのか。私の顔を見るだけなら好きに見てくれ好きにしてくれと思っていたが、もし難解な条件をつけるのであればそれは要相談だ。

「……ヤッてる時いつも隠すだろ、お前」
「……っ!? い、いや、何言って…!」

 パニック。

 ヤッてる時……というのは、その、あれだ、つまりアレの時のことか。まぁ十中八九そうだろ。うん。いやしかし敵を一掃したとはいえこんな場所でそんな話をするとかカルデアとの通信は生きてるんだぞとかあーだこーだ考えこの間わずか0.5秒。我ながらなんと素早い思考回路。とととととりあえずは断ることから始めてみよう。

「い、いやそもそも、む、む、無、無意識だし、そんなこと言われても……」
「だったら今日は意識して隠さないようにしろよ」
「きょっ………!?」

 なんと、日付指定すらされてしまった。

「い、いや無理……! 無理無理! 他のお願いはないの!?」
「なんでもっつったろ」
「う……………!」

 それを言われてしまうと、弱い。油断していたからって「なんでも」なんていうものじゃない。肝に銘じておこう、そんな言葉は二度と言うまい。
 しかし、言ってしまったからには覆すわけにもいかず。

「…………わかっ、た……」
「! よし、言ったな? ……楽しみにしとくぜマスター」

 苦渋の決断をした私に、彼は笑顔でそう答える。……いやいや、なんでそんな爽やかな顔で鼻歌なんて歌ってられるんだ。おまえ、今のつまり、「今夜抱く」ってことじゃんか。
 動揺と羞恥を悟られないよう少し俯きながら彼の先を歩く。

 ──頼むから、その顔すら覗き込もうとするのはやめてくれないだろうか。本当に。




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