寂しさを知ってくれる人 二週間ほど、彼は藤丸立香のレイシフトに同行することになったらしい。
「そう」
期間が先に決まっていることは珍しい、し、そのレイシフトに私が関われないというのも、最近ではなかなか珍しいことだった。
「そう……って、お前なぁ」
「他に言うことないでしょ」
「……そうかい」
はぁ、とため息を吐くランサー。私の返答が一体なんだと言うのか。寂しい、とか、行かないで、とか、そんな面倒なことを言って欲しいわけでもあるまいに。
そもそも私はそんなこと——
——そんなこと、考えてるに決まっているが。
(………………なんで、ランサーを連れて行くんだ)
わかっている。今回のレイシフト先はランサーを連れて行くのが最良だ。「なんで」なんていうのは私のワガママで、そんなことで彼を困らせるのは私の本意ではなかった。
(彼の負担になりたくない)
彼にしてみればおかしな話だろう。だっていつもは同じようなワガママで彼を振り回しているっていうのに、こんな時だけなんともない顔をして見せるのだから。
それでも、やっぱりこの一言だけは、彼には伝えたくはなかったのだ。
「……なぁおい、本当にもう言うことはねぇんだな?」
「ない」
「ないって顔じゃねぇぞ、お前」
ぎゅっ、と、唇を引き結び、私はもう一度「ないよ」と小声で嘯いた。これ以上彼に追及されないようにと俯いた私に、彼は呆れた声でこう続ける。
「——寂しいなら寂しいと言え」
「……!」
ぽろりと涙が一粒こぼれた。だって、それは、私が言うまいとして我慢していた言葉に他ならなかったから。
「強がらなくていいだろ、こんなことで」
「……つよがって、ない」
「じゃあなんで泣いてんだよ」
「これは……これは……」
彼の指が私の涙をすくうと、もう一粒しずくが溢れ、ぽろぽろ、ぽろぽろと止めどなく流れ始めた。瞬きをするたびに床に広がる小さな水溜りを見て、ついに私の口は小さく「寂しい」と言葉を紡ぎ出す。
「さ、寂しいに決まってる……、ランサー、ランサー……行かないでよ……」
「……ん」
しゃくりあげるように泣き始めた私を、彼は強く抱きしめた。そうして何も言わずに、私の背を優しく叩く。
「ったく、素直になるのがおせぇんだよな、お前」
「う、うるさ、い……! たった二週間で、こんな……情けなく、て」
彼の身体を縋るように抱き返すと、何故か彼は笑い出し、「構わねぇよ、今更それくらい」と言って身体を離し私の瞳を覗き込んだ。
「とはいえ、お前の言う通りだったの二週間だ。大人しく待ってろよ」
「……はやくかえってきてね」
「おう」
笑顔の彼が私に手を振る。そうして踵を返してから、一度も振り返ることなく藤丸立香の元へと行ってしまった。……そうだろうとは思っていた、きっと、私が何を言っても彼の行動が変わるわけではないだろう、と。
けれど彼は、留まりはせずとも「寂しい」という言葉を口にすることを許してくれて、「寂しい」という気持ちを受け止めることはしてくれる。今の私には、それで充分だった。
——立ち止まりはしなくても、私のその一言が、彼の後ろ髪を引く理由の一つになるのなら、
なんだかそれだけで、乾いていたはずの心が埋まるような気がするのだ。
clap!
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