ひとつになりたい、なれるものなら カルデアの召喚システムは、摩訶不思議だ。
同じ英霊が別のクラスで召喚されたりするし、それどころかクラスさえも同じサーヴァントとして召喚されたりもする。
まぁ、もともと、普通なら考えられない量のサーヴァントを現界させ続けている時点で、私の知る聖杯戦争とはかけ離れてはいるけれど。
「……誰か、居る?」
自室で一人、虚空に声をかける。しんと静まりかえった部屋に返事はなく、どうやら霊体化した誰かが潜んでいるということもなさそうだ。
それでも私はキョロキョロと辺りを見回して、本当に誰もいない事を確認してからポケットの中身をそっと取り出す。
キューブ状のそれはマナプリズム≠ニ呼ばれる結晶だった。
「……思ってたより、小さい」
いつも遠目に見る分にはグミのようだとも思っていたが、存外に固い。小瓶にでも入れて振れば、キレイな音が鳴りそうだ。
私の持つこれは、本来であれば他のいくつかと同じように、貴重な資源としてダ・ヴィンチ女史の工房にでも格納されていたはずのものである。
それが、何故ここにあるのかといえば、それはその、
——あぁうん、懺悔しよう。実はこれはくすねてきてしまったものだ。今日、保管庫に入れられる前のこれを、たったひとつ、これだけを。
自分でもなにをしているんだ、とは思った、だが、手を伸ばしてしまえば、触れてしまえば、私はその手を引っ込めることが出来なかった。
どうにも、手放し難かったのだ。
幼い頃読んだ小説の、蝶を盗んだ少年も、そんな気持ちだったのだろうか。
「——ランサー、」
緑色の小さな塊に——つい先ほどまで
ランサーであったそれに、呼びかけるように名前を呼んだ。
ランサー、クー・フーリンの何人目かが召喚されたのは、本当に、ついさっきの事だった。
立香ちゃんは申し訳なさそうに「ごめんね」と言っていて、それを聞いた彼が、「まぁそういうこともあるだろうさ」と笑っていたのを覚えている。
そして、彼はこれになった。
別に、ただの魔力の結晶だ。例え先ほどまで確かに彼の形をとっていたとしても。
人だって死ねば骨になる、それと同じ、ただ彼の身体はエーテルだったので、こんな形になっただけで。
「……ランサー……」
呼んでも返事はない、当たりまえだ、何度も何度も確認しているが、これはただの魔力の塊なのであって——
「……ただの魔力なら、いいよね」
誰に許しを得ようとしたのか、そんな事を一人呟いて私は、口を大きく開けた。
ぱくり、と、中に放り込んでしまえば、それは飴のようにころころと転がり回る。味は、やっぱりしなかった。
だけどほんのりと少しだけ温かくて——いや、きっとこれは私の手の体温が移っただけなのだ。
これをこのまま飲み込んでしまえば、きっとマナプリズムの魔力は私の身体に吸収されるのだろう。そうして私の一部になるのだ。
あぁ、もし、もしもこうやって、彼も私の一部にしてしまえるのなら、そんな風に簡単に、彼を私だけのものに出来てしまうなら、良かったのに。
(どこにもいかないで欲しい、だけなのにな)
いつか来る別れを思うと苦しくなる。あぁ、あぁ、いつか居なくなってしまう彼ならば、今ここにある彼だったものの一片くらいは、私のものにしてしまっても許されるだろうか——?
「……なんてね」
ごくん、
clap!
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