03 気分屋で自由奔放――良く言えば、自分に素直。
すぐ怒り、すぐ泣く――かと思えば、すぐに笑い、楽しげにはしゃいでみせる。
無茶振りや道理に合わない要求――は、まぁ良い、俺としてもやぶさかではない。
(――短所は長所、ってか)
それに対して異論はない。実際、気分の浮き沈みや横暴に振り回されることもあるが、基本は悪い奴ではない。
いやまぁ、口は悪いし性格も多少捻くれてはいるのだが。それを差し引いても、俺にとっては悪いマスターではないのは事実だ。
何より、相性がいい。
「――できるよね?」
あいつがそう言って、俺の背中に信を置く。それがどうにも心地よいと感じることが増えていた。
なにせマスターの要求というやつはそれこそ無理難題ばかりで、俺じゃなけりゃ呆れてものも言えないレベルのものも時にはある。
だがしかし、期待、されているのだと思えばその重荷すら気持ちが良いもので――
「――当たり前だ!」
あぁ、そうだ、たしかに――あいつと並ぶ戦場は、気持ちが良いものだったのだ。
「………………あーくそ、まじか……」
今更の自覚に俺は空を仰ぐ。
自身が望む望まないに関わらずマスターとなったことに対して、「力を持つ者の義務だから、仕方がないよね」と言い切れる潔さ。俺に無茶を言いつける代わりに、自身も自身にできる最大の無茶をするところ。
勝利を持ち帰った俺を見て、自分のことのように誇らしげに笑う顔――
――それらを「好い」と思ってしまう気持ちが、情でなくてなんだというのか。
「…………………………まいった」
ならばやはり俺は――あいつの事を、とっくに好きになってしまっているらしい。
そう自覚してしまってからは見方が変わった。多少のわがままも「慣れれば可愛いもんだ」と思えるようになってくるし、コロコロ変わる表情も見ていて飽きない。何より彼女の親の教育か、礼節だけはしっかりしているところも好感が持てる。俺に対してだけ当たりが強いその様も、照れ隠しだと言われれば(ある程度は)納得もいく。
それに俺は気づいている、こいつも――マスターも、俺のことが好きだということに。
わがままを言いながらも俺の返事を待つ間の少し不安げな瞳に、悪態をつきながらも決して俺から離れようとはしないその背に、俺の名を呼ぶその弾んだ声に――恋慕の情が込められていることに、気がつけないような俺ではない。
(……しかしまぁ、どうするか)
平時であれば当然、俺が好きで相手も俺を好きならやることは一つ。むしろ互いに惚れ込んでいるのに事に及ばないのは逆に失礼だ……とすぐに行動に移すものだが、今回は相手が違う。恐らく、そのようなことをすればあいつは俺から離れていくだろう。
なにせこの女、天邪鬼よろしくまったく素直じゃない。試しに「俺のこと好きだろ」と聞いてみた時に、ひどく苦々しい顔をされ「顔が良い男はこれだから」と低い声で返されたことがあった。
「…………マジでどうしたもんかね……」
これはまさに無理難題だ、と、俺は一人の部屋で何度目かわからないため息を吐く。
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