ハロー!アークティックの夏



 ——よってらっしゃい見てらっしゃい! アークティックサマーワールド、フラワーワールドへようこそ! さぁさ、好きなお花はなんですか?

「……よってらっしゃいはちょっと、下町すぎるんじゃないかな」
「うるせぇなぁ」

 エリア入り口、入ってすぐ。まさにこれからフラワーパークを楽しもうという客で賑わうそこに彼は立っていた。
 見慣れない制服と見慣れた笑顔、彼のその佇まいを頭の先から靴の先まで品定めでもするような心地で見つめていると、彼はため息と共に私を振り返る。

「つーか、お前は何してんだここで」
「ん、クレープ食べてる」
「そうじゃねぇよ」

 エミヤが露店を出してたから、と私は持っていたクレープを彼に見えるように少し持ち上げた。クリームたっぷりのチョコバナナクレープだ、甘くて美味しくて……一口あげるのもちょっと惜しいくらいの。
 欲しい? と首を傾げれば彼は「いらん」と即答した。まぁそれはそうだろうなと思いながら私はもう一口クレープに齧り付く。

「ついていかなかったのか? 嬢ちゃんたちに」
「まぁ、そうだね。多分今回は立香ちゃんたちだけで大丈夫でしょう、あの女神様の様子からして……」

 そんな曖昧な理由で前線を離脱するのはカルデア職員としてどうなのか? というところはあるが、まぁそれはそれ、夏季休暇もとい貯まりに貯まった有給休暇の消化とでも思っておいて欲しい。

「そんで、今はあいつの作った甘味を満喫中ってことか。……暇なら手伝うか?」
「暇じゃないよ、この後紅閻魔の焼きそばも食べに行く」
「随分とお忙しいこって」

 へっ、と笑うその顔はどう見ても営業用のそれとは思えず、私は「一応お客様なんですけど」と嫌味のこもった言葉を返す。彼は眉をピクリと動かしてから「そいつはすいませんね、オキャクサマ」と大根役者さながらの棒読みセリフで腰を曲げた。

「はいお客様です。ちゃんと案内してくださーい」
「……はぁ〜、相変わらず面倒な性格しやがって……構って欲しいならそう言えば良いだろ……」
「そんなんじゃないけど」

 図星をつかれた私は思わず早口になる。彼がそれに気づかないわけもなく、ほほう、とやけに楽しげな様子で私のことを見下ろした。

「ま、そういうならそういうことにしておいてやるが……それで? 案内つっても何をどうして欲しいって?」

 いや、具体的には、別に……というのをいうのも悔しかった私は何かないかと周囲を見渡して、色とりどりの花の中でふとこんなことを思いつく。

「じゃあ、そうだな……ここはいろんなお花があるけどさ、私に似合う花はあるかな、スタッフさん」

 本当にただ思いついただけの私の問いに、彼は数度瞬いてから口元に手を当てた。うーん、と悩むようなそぶりを数秒、すぐにハッと目を見開いて「ちょっと待ってろ」と言いながら少し離れた花壇へ駆けて行った。
 そうしてガサガサと花壇に手を突っ込んでいたかと思えば、おもむろに一本の花を躊躇なく摘む。その行動に私の方が驚いてしまって、何してるんだ、という言葉も出ない私に彼はその手折った赤い花を差し出した。

「これだな、お前には似合うと思うぜ」
「いや、ランサー、そんな勝手に花を……」
「あ? いいんだよ、ほら、あそこの花はすぐ勝手に生えてくる」

 指を刺した方を見ればたしかにちぎれた茎がもう再生し次の蕾が首をもたげているのが見える。そういう問題か? いやまぁ運営してる側がいいというならいいのか? とまだ少し困惑しながらも私はとりあえずその花を受け取った。

「……かわいい花だね、これは?」
「金魚草」
「へぇ、たしかに、金魚のおひれみたい」

 思いの外真っ当に花を選んでくれたのが少し嬉しくて、私は思わず顔を綻ばせた。彼から見ると私はこんなふうに可愛く見えていたりするんだろうか? なんて照れ臭さに顔が熱くなるのがわかる。誤魔化すように「花言葉は?」と問いかけた私に、彼は微かに目を細めながら答えた。

「花言葉は——『おしゃべり』それから『でしゃばり』、だな」
「は…………」

 先ほどまでの喜びは何処へやら。彼のその表情の理由を知った私の顔は微かな苛立ちに引き攣った。最悪、という私の呟きも解さず、彼は「似合うだろ」とあっけからんと言い放つ。

「さいてー、さいあく……なんだよ、ちょっと嬉しかったのに」
「嬉しかったならいいだろ」
「よくない」

 可愛らしい花を眺めながらむすくれていると、なぜか彼は堪えきれなかったというような様子で笑いをこぼした。何が楽しいのかと睨みつけたところで彼は笑いを止めはせず、何も悪いと思ってもいないくせに「悪い悪い」と言ってのける。

「でもまぁ——俺は好きだぜ」
「! ……な、なにが」
「なにがって……そりゃ、なぁ?」

 彼の手が私の頬を撫でた。花ではなく、私の頬を。そのことに胸が高鳴るのを悟られないよう祈りながらぎゅっと目を瞑り——何かを拭うような感覚と彼がまた笑う声に目を開ける。

「なんだよ、期待してんのか」
「…………っ! うるさいぞばか!」

 ——からかわれたのだと気づいた私は、指についたクリーム・・・・を舐める彼の足を思い切り蹴りつけた。




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